コウモリの学級のヤバイ奴らがカチコミに来たぞ!(1/3)
水蛇の学級の寮は学園の中の湖にあった。
放課後、私とアルファルドはコウモリ寮に荷物を置くと、湖の上に浮かんでいる海賊が乗っていそうな船に向かう。
「懐かしいな。百年前から変わらない」
これから敵地に乗り込むっていうのに、アルファルドは楽しそうだ。そう言えば彼、百年前は水蛇の学級に所属してたんだっけ。
「この船の上からクラーケンやダゴンにエサやりをするのが水蛇の学級生たちの日課なんだよ。たまに怒らせて水中に引きずり込まれる子もいたけどね。それで、危うく自分がエサになりかけるんだ」
何がおかしいのかアルファルドは笑っている。私は船室へと続く扉を守っている守衛用のゴーレムに話しかけた。
「コウモリの学級のルイーゼ・カルキノスとサムソン・レルネーよ。私たちのクラスの汚名を雪ぎに来たわ」
「どうぞ、お入りください」
ゴーレムが脇へ退く。私たちは中に入った。
船室の扉の先は、下へ続く階段になっていた。アルファルドが「水蛇寮の施設のほとんどは水中にあるんだよ」と教えてくれる。
「談話室は一面ガラス張りなんだ。湖の様子が見えて綺麗だよ。でも、私が二年生の頃だったかな。魔法の研究中にうっかり壁に穴を開けてしまったことがあって……。あれは大変な騒ぎだったなあ。サハギンが中に入り込んできて大パニックになってしまって」
やっぱり呑気にアルファルドは笑っている。でもその声は、「うわあ!」という叫び声にかき消された。
「コ、コウモリの学級のヤバイ奴らがカチコミに来たぞー!」
「ひえぇ! お助けをー!」
私たちの顔を見た水蛇の学級の男子生徒二人組が、真っ青になって逃げていった。私はポカンとする。
一方のアルファルドは、面白そうな声を出した。
「『コウモリの学級のヤバイ奴ら』だって。また称号が増えてしまったね」
「……不名誉なあだ名だわ」
やれやれと思いながら、廊下を進む。水蛇の学級の内装は、船の中を連想させるものだった。壁や床も木でできているし、あちこちには学級の紋章が描かれた海賊旗っぽい旗が飾られている。
「ねえ、ちょっといいかしら」
私はすれ違った女の子に話しかけた。
「何?」
彼女は私たちを見ても特に怯えたような様子はなかった。さっきの人たち、本当に何だったんだろう?
「オスカーって子、知ってる? 三年生らしいんだけど……」
「うん、私と同級だから。調合室にいるんじゃないの?」
運のいいことに有力情報をゲットできた。私は少女に礼を言って、アルファルドの案内で早速そこに向かうことにする。
水蛇の学級って、寮内に調合室があるのね。魔法薬学の宿題をするときなんかに便利そうだ。
まあ、コウモリの学級にそんなものを作ったら、劇薬研究会あたりが一日でダメにしそうだけど……。
天馬寮にも天体観測をするための塔が建っていたし、その学級独自の施設ってどこにでもあるらしかった。
そんなことを考えているうちに調合室に辿り着く。でも、肝心のオスカーはそこにはいなかった。もう片付けられているけれど、使用した形跡のある大釜だの混ぜ棒だのが残っているだけだ。
「……逃げられたのかしら?」
私は腕組みする。アルファルドは目を閉じながら、辺りの匂いを嗅いでいた。
「……どうしたの?」
「いや、何だか甘い香りがするなと思って」
つられて私も鼻をひくつかせる。言われてみればそんな気もするような……。私は周りを見回してみた。
使われた跡がある器具は、どれも二つ以上あった。甘い匂いがする複数の魔法薬を作っていたのかしら?
それとも他に誰かいて、一緒に何かを生成していたとか?
「……まあいいわ。他を当たりましょう」
オスカーが調合室で何をしていたのか調べるために来たんじゃないんだもの。ここに彼がいないのなら、長居する理由もない。