友だちって、こんなものなのかな?(2/2)
チャイムが鳴って、授業が終わる。生徒たちは箒を片手に、グラウンドの隅にあるロッカールームへと荷物を取りに向かった。
「アルファルドの飛びっぷりも良かったわよ」
私の隣を歩きながら、ルイーゼが嬉々として言った。
「急降下からの急上昇……あんなの、中々真似できないわね。私も今度練習してみようかしら」
「危ないよ? 怪我でもしたら……」
「でも、やってみないと上手くならないじゃない。技をマスターしたらアルファルドにも見せてあげるわ」
相変わらず気の強そうな台詞を吐きながら、ルイーゼが息巻く。
本当にパワフルな子だ。危なっかしいっていうのもあるけど、目が離せない。
それに綺麗だし、感情が豊かで明るくて素直で……。妙に気になる存在だ。
友人ってこんなものなのかな? 友だちなんていたことがないから、私にはよく分からなかった。
「アルファルド、今日の放課後もまた図書館へ行きましょう」
ルイーゼはこの後の予定について、私に相談を持ちかけてきた。
「今回はどんな本を読もうかしら? 魔王についての記録、霊魂の話……うーん……」
『あなたを助ける』という宣言通り、ルイーゼは熱心に図書館に足を運んで役に立ちそうな資料をしらみつぶしに当たっていた。
その姿はとても真剣で、彼女の真心がそこから伝わってくるようだ。私もそれに付き合ってはいたけれど、そんなルイーゼに見とれてしまって全然作業がはかどっていなかった。
「ちょっと……何これ!」
先にロッカールームについたクラスメイトが悲鳴を上げる。何事だろうと思って覗き込み、私は顔をしかめた。
室内は荒れ放題になっていた。カバンが棚から落とされて、中身が散乱している。床に一枚の紙が落ちていた。
『コウモリの学級は結界を元に戻して学園から出て行け!』
なるほど。これも嫌がらせの一環らしい。
「まったく、暇人ね!」
ルイーゼは怒りながら床に落ちていた自分のカバンを拾った。
「大体こんなの……アルファルド!」
ルイーゼが私のカバンを指差した。持ち手のところが外れていて、使い物にならなくなっている。
「なんてことしてくれるのよ!」
ルイーゼは自分の持ち物が壊されたときみたいに激怒していた。
「平気だよ。こんなの、すぐに直るから」
何故かルイーゼの反応が少し嬉しくて、私は笑いながらカバンを杖で叩く。持ち手は元に戻ったけど、彼女の怒りは収まらなかった。
「あなたは呑気すぎよ!」
ルイーゼは悔しそうに唇を噛んでいる。そんな表情も美しかったけど今にも唇から血が出そうになっていたから、私は彼女の肩に手を置いてなだめた。
「ほら、もう行こう。次は……魔法音楽だったかな? 遅れたら皆の前で独唱させられるよ。私、歌は上手くないから……」
なだめすかしてルイーゼとロッカールームを出る。
「やっぱり早く犯人を見つけないと!」
ルイーゼは芝生の上をずんずん歩きながら肩を怒らせる。
「今日の放課後、図書室へ行く前に水蛇の学級へ乗り込みましょう、アルファルド!」
どうやらルイーゼは独自に調査して、怪しい人物の情報を掴んでいたらしい。水蛇の学級のオスカーという三年生だそうだ。
でも、まだそれ以上のことは分かっていないんだとか。彼女曰く、「もっととんでもない秘密を知ってしまって、そっちに気を取られていたから」らしい。……もしかしなくても、それって私のことだったりするのかな?
教員が作った結界を解除できるなんて、きっと高度な魔法が使えるんだろう。三年生とはいえ、『オスカー』は油断できない相手みたいだった。
もし彼女に何かあったら私が守らないとと思いながら、「分かったよ」と返事する。
友だち付き合いっていうのは、中々に気が抜けないことらしい。