魔王復活の真相(3/3)
「未来でのあなたの変身には、きっと九頭団が関わっていたのね」
私は額に手を当てながら言った。
「彼らがどうやってあなたを魔王にしたのかは分からないけど……でも、その方法は完璧には上手くはいかなかったんだわ」
だって本当の魔王ならしないことを、あのときの怪物はやってのけたんだから。
「あなたはまだ完全には人としての心を失ってはいなかった。この悲劇を止めたいという想いが残っていた。そこに……私が現われたんだわ」
絡まっていた糸が解れるように言葉が出てくる。アルファルドに同情すら覚え始めていた私には、彼の考えも心中も手に取るように分かる気がした。
「あなた、言ってくれたもの。私のことを『勇気があって一本気で頑張り屋な子だ』って。あのときのアルファルドも、きっとそう感じたのよ。それで、そんな私だったら、自分を止めてくれるかもしれないって思ったんだわ」
「……きっとそうだろうね」
アルファルドが目を伏せた。
「本当はそんな他人任せの方法は取りたくなかったんだろうけどね。でも、この体はサムソンのものだ。もし私が自殺でもしたら何もかもが解決するかもしれないけど、他人の体で勝手にそんなことをするわけにもいかない。サムソンがまた死んだら、悲しむ人がいるからね」
アルファルドはサムソンの両親のことを考えているらしかった。
「九頭団から逃げようと思ったこともあったけど無駄だった。彼らは私の監視役を罰として殺してしまったんだよ。また私のせいで誰かの命が奪われるなんて、あってはいけないのに……」
やっぱりアルファルドは優しい人だった。手段さえ選ばなければ魔王復活を止める方法だってあったかもしれないのに、彼の繊細な心がそれを許さなかったんだ。
だからアルファルドは考えられる限りで一番犠牲が少ないやり方を――誰かを過去に飛ばして事態を解決してもらうという手段を選んだ。
でも、彼はそうしたことを後悔してるんだ。……いいえ、未来に起ることを『後悔』するなんて表現はおかしいかしら? でも、とにかく彼が自分を責めているのは間違いなかった。
――君はただ、その場に居合わせただけの正義感の強い子だった。それなのに、こんな過酷な使命を背負わせてしまうなんて……。ひどいことをしたよ。
前に図書館で会ったときのアルファルドはそう言っていた。今ならその言葉の意味が理解できる。彼は私を巻き込んでしまったことを何よりも悔やんでいるんだ。
だからこそ私は、アルファルドの腕を取ることにした。
「あなた、間違ってるわ」
私は強い口調で言った。アルファルドは閉じていた目を開けて、意外な言葉を聞いたような表情で私を見る。
「あなたが私を選んだんじゃないわ。私がこうなることを望んだのよ」
私はアルファルドの腕を強く握った。少し彼の体がこわばったような気がしたけど、離す気はない。
「私は確かにあなたの魔法で過去に戻ったわ。でも、そこでどう過ごすのかは私の自由だったはずよ。だけど、私は選んだの。魔王を出現させない未来を作ることを」
ぼんやりと思い浮かべていたことが、言葉にしたことによってはっきりと見えてきた。今の私なら、自分がどうするべきなのかきちんと理解できる。
「安心して。私はあなたの味方よ。あなたを一人にはさせない。あなたが困難に立ち向かうっていうのなら、私も手伝うわ」
「ど、どうして……?」
余裕のある態度でいることが多いアルファルドが珍しく慌てていた。それが何だかおかしくて、私はこんなときなのにうっかりと笑ってしまう。
「コウモリの学級は同胞を見捨てないからよ。……同じ穴のノームってやつ?」
「それは……少し違うんじゃないか……?」
私の冗談に、アルファルドは泣きそうな声で返事した。「そうだったわね」と私は微笑む。
「私の敵は魔王よ。でも、あなたは違う。あなたは『アルファルド・レルネー』よ。私たちの仲間だわ。だったら厭う理由はない。あなたは私が助けるわ。私が守ってあげる」
「ルイーゼ……」
アルファルドの声は頼りないくらいか細かった。とても一人でゲリュオンを撃退してしまった人や、将来魔王になる人のそれとは思えない。
やっぱり彼は普通の人間なんだ。絶対に化け物なんかじゃない。
「ありがとう」
たった一言だったけど、そこにはアルファルドの気持ちが全部詰まっていた。私はそれをしっかり受け止め、大きく頷いてみせる。
これからはアルファルドと寄り添って歩いていく。この瞬間に私は、そう強く決心したんだ。