魔王復活の真相(2/3)
「九頭団は魔王の器としてサムソン・レルネーを選んだんだわ。あなたが言っていた『サムソンの体に私の魂を入れた』って、そういうことでしょう?」
「さすが、よく分かってるね」
アルファルドが笑う。
「そのとおりだよ。サムソンはね、生まれた瞬間から息をしていなかったんだ。死産だったんだよ。九頭団は魔王復活の実験の一環として、その体に私の魂を入れた。すると……止まっていたはずの心臓がまた動き出したんだ」
「死んだ人間が生き返ったの!?」
私は仰天する。
「そんなことあり得ないわ!」
死んだ人間を蘇らせようとして失敗したという話は、歴史にも度々登場する。けれど、成功したなんて例は聞いたことがない。
「そうだね。普通、死んだ人間は蘇らない。私が今入っているのは、いわばサムソンの抜け殻だよ。動き、息をし、しゃべり、成長する死体だ」
「それってもはや『死体』とは呼べないんじゃ……」
私はアルファルドの言葉に頭を抱えた。
きっとアルファルドは、『サムソンの魂はとっくに死んでしまっている』って言いたいんだろうけど、彼の話を聞く限りじゃ、生きている人間とほとんど変わらないように思えてしまう。
「……サムソンの両親もそう思ってるみたいだよ」
アルファルドはやるせなさそうな顔になった。
「二人は息子を蘇らせる方法を探している。九頭団は無駄なことだってバカにして放っているけどね。……私も同意見だけど、二人は本当に熱心なんだ」
アルファルドの顔に影が落ちた。私はそこに彼の孤独を見た気がする。
亡き息子の幻影を求め続ける義理の両親。薄汚い野望を叶える手段として魔王を利用しようとしている九頭団。そんな人たちに囲まれて過ごしてきたアルファルドがどんな気持ちになるのかなんて、想像するのは難しくない。
兵器として使う以外では、誰も自分を望んでいない。愛されず、いつだって一人だった。そしてその心の中には、過去の辛い記憶と、これから犯すであろう罪――また魔王となって人々の敵になってしまうかもしれないという恐怖が渦巻いている。
きっと彼は苦しんでいたんだ。もしかしたら、助けが欲しかったのかもしれない。
そう考えた瞬間に、私はあることに気が付いた。
「あなたが開発した魔法の中に、時間を巻き戻す術も入っていたのね」
私が考えていたのは、卒業式で聞いた不思議な声のことだった。
「もし自分が魔王になってしまったら、誰かを過去に飛ばして、そんな未来を変えてもらいたかった……ってことかしら?」
「時間遡行の魔法を私が開発したっていうのは当たってるよ」
アルファルドが言った。
「でも、私がそれを作ったのは魔王になる前の話だ。まだ好奇心に溢れていた頃の私だね。だけど、あの魔法は色々なところが未完成だったんだよ。実験もろくにしていなかったから成功するのかも分からないし、第一成功したとしても、自分以外の人しか過去に送れないっていう欠点もあった。時間もそんなに遡れるわけじゃないしね」
……そういうことだったのね。
言われてみれば、魔王の出現を本当の意味で阻止するなら、百年前の惨劇から食い止めようとするはずだ。それに、他人を飛ばすよりも自分が過去へ行く方が手っ取り早い。
でも、アルファルドはそうしなかった。というよりも、できなかったんだ。多分その辺りは、彼にとってももどかしいことだったんじゃないかしら?
けれど、そんな方法を使わないといけないくらい、彼は追い詰められていたんだ。