魔王復活の真相(1/3)
「私は確かにこの学園に通っていた。どういう生徒だったか知ってるかい?」
「すごく優秀だってことは聞いたわ」
私はソーニャ先生の話を思い出す。
「たくさんの魔法を発明したとかなんとか……」
「そうだね」
アルファルドは頷く。
「確かに私は魔法の研究に打ち込んでいた。結果も出していたし、見ようによっては優秀だったのかもしれない。でも、それと同じくらいには……愚かだったんだよ」
「愚か?」
「私は自分の好奇心を満たすことにしか興味がなかったんだ」
アルファルドは私から視線を外し、遠くの空を見つめた。
「後のことなんて何も考えていなかった。その術を作り出したらどうなるのか、その魔法がどう使われるのかなんて、どうでもよかったんだよ。だからね、きっと罰が下ったんだ」
明るい日の光の下にいるのに、アルファルドの目は驚くくらい暗かった。まるで彼にだけ日が差していないような……深い沼の底にいるような雰囲気だ。
「学園を卒業しても私は、相変わらず魔法の研究に打ち込んでいた。そんなある日、私は実験の最中に人ならざるものへと変身してしまったんだ。……何が言いたいのか分かるかな?」
「……つまり、『魔王』になったってこと?」
まさかと思いながら答える。するとアルファルドは「そうだよ」と頷いた。
「おぞましい多頭の化け物。醜い怪物。そんな姿になって、私は初めて自分のしたことを後悔した。そして思ったんだよ。周りが見えていなかった私には、この姿がお似合いなのかもしれないって。……でも、そんなふうに反省してももう遅かった」
アルファルドはゆっくりと首を振った。
「変わったのは見た目だけじゃなかったんだ。私は人の心まで失ってしまった……」
私は卒業式に出た『魔王』を思い出す。確かにあの魔王の振る舞いは、理性をなくした獣みたいだった。壊し、殺し、蹂躙する。そこには何の目的もなかった。
「そんな私に目をつけたのが父だよ。継承争いに負けたことを根に持っていた父は、私を利用してレルネー家を影から牛耳ることに成功したんだ。私という武力をちらつかせることによって、当主である兄やその周りの人たちを脅してね。そのときに父に従った人たちは、自分たちを『九頭団』と称した」
アルファルドは声を落とす。
「長年の野望を叶えた父が次に目指したのは、この国の支配だった。そこでも父は私の力を利用しようとした。でも、失敗した。歴史書にも書いてあったよね? 私の力を完璧に制御するなんて、初めから無理だったんだよ。レルネー家を乗っ取るだけでギリギリだったんだ」
「……歴史書には、魔王は九頭団と一緒に倒されたってあったわ」
私は魔王についてまとめた研究ノートの中身を思い出す。アルファルドは苦笑いしながら、「そうだとよかったんだけどね」と返した。
「惨めな生き物になってしまったよ、本当に。簡単には死ぬこともできなかったなんて。私は生命の残りかすみたいな存在になって生き延びてしまったんだ。……そして、そんな私を九頭団の生き残りが回収した。彼らは今でもレルネー家を影で操ってるんだよ」
「また魔王を復活させるためね?」
私は頬を引きつらせる。
「今度こそこの国を自分のものにしてやろうって?」
「国だけじゃないかもね」
アルファルドはかぶりを振った。
「強い武力を持って迫れば、大抵のものは手に入ってしまうんじゃないか? 九頭団はとにかく欲深いんだよ」
名家を影から操り、未だに不遜な野望を諦めていない。間違いなく九頭団は私たちの敵だ。本当に戦わないといけない相手が分かった気がする。