ミストの秘密。ゲリュオン襲来。(2/4)
私が門限ギリギリまで図書館で調べ物をしてからコウモリの学級へ帰ると、部屋にミストの姿がなかった。
おまじないなんかが載った女の子向けの雑誌や、治療系の魔法について書かれた本が置いてある空っぽのベッドを見ながら、私は凍り付くような戦慄を覚える。
もう二度とミストには会えない。そんな予感がしたんだ。
私はミストの枕についていたクリーム色の髪を一本掴んでポケットに入れ、廊下に転がり出た。消灯時間を過ぎても部屋の外にいる私を見たキーレムが三体くらい襲いかかってきたけど、全部返り討ちにして階段を駆け上る。
目指したのは、コウモリ寮が入っている洞窟の外に設置された離発着場だ。
そこは箒を使う生徒たちのための設備で、登下校のときに大体の子がお世話になる場所だった。隅の方には畳まれた魔法の絨毯も置かれている。
天馬寮はここでペガサスやグリフォンみたいな飛行生物も飼っているんだけど、コウモリの学級にはそういうのはいないみたいだ。
私は貸し箒の棚から一本拝借してくると、それにまたがり地面を蹴った。行き先はもちろんクレタの森だ。嫌な想像ばかりしてしまって、胸のざわめきが止まらなかった。
「ルイーゼ、こんな時間にどこへ行くんだ?」
隣から声がして、私はバランスを崩しそうになった。いつの間にか、魔王が箒で並走してきている。
「な、何なの、あなた!」
「窓から君の姿が見えたんだ。どこへ行くつもりだ?」
平然とそんなことを言う魔王を私は睨んだ。箒から叩き落としてやろうかとも思ったけど、今はそれよりも優先しないといけないことがある。
「クレタの森よ。ミストが危ないの。このままだと……あの子、死ぬわ」
「……未来ではそうなっているのか?」
「ええ」
暗いクレタの森が見えてくる。箒から降りて、私は森の入り口に立った。魔法で小さな火球を作り、それを光源にする。
外から見た夜のクレタの森は、まるで地獄に続いている穴みたいに不気味で、普通なら足を踏み入れる気にはなれそうもない場所だった。ミスト、本当にここにいるのかしら?
少し怖じ気づいてしまったけど、未来での出来事を思い出して、私は必死に自分を鼓舞した。怖がっている場合なんかじゃない。ミストを助けられるのは私だけなんだから、しっかりしないと。
「他に人を呼んできた方がいいんじゃないか?」
森の中へと入る私の後ろを歩きながら、魔王がもっともな意見を口にした。
確かに彼の言うとおりだ。でも、気が動転していて、指摘されるまでそんなことは考えもつかなかった。
だからといって、今から戻ったら手遅れになるかもしれない。私は構わずに歩き続けた。そして辺りを見回して、手頃な大きさの石を発見する。
その石に持ってきたミストの髪を巻き、杖でコツコツと叩きながら呪文を唱えた。
「我が問いに答えよ。この髪の持ち主、ミスト・ケイロンはどこにいる?」
「尋ね人を探す魔法か。いい考えだな」
魔王が感心している。私たちの目の前で石がほのかに発光しはじめ、そこから一筋の光が放出された。森のもう少し奥の方まで伸びているみたいだ。
私たちはその光に沿って歩く。すると……いた。彼女が持参してきたらしいランタンの光の傍で、クリーム色のフワフワした髪の毛が揺れていた。
「ミスト!」
大きな木の近くでかがんでいる少女に向かって、私は大声を出した。ミストはビクリとなって振り向く。