こんな奴らにやられているようじゃ、魔王は倒せない!(2/2)
二体のミノタウロスに挟み撃ちにされて、私たちはジリジリと追い詰められる。不良二人組は泣き声を上げた。
「どうすんだよ、これ!」
「そんなことオイラに言われても……!」
ミノタウロスは不気味な顔で私たちを見つめている。カチカチと歯を鳴らして、今にも飛びかかってきそうだ。
私は二人を背中に庇いながら、必死でこの場を切り抜ける策を考えた。
「このっ!」
バッジの生徒が、やけくそでミノタウロスに術を浴びせる。けれども、まるで効いた様子はない。それどころか、逆上してこちらへと襲いかかってきた。
「ひいぃぃ!」
私たちは悲鳴を上げながらそれぞれ別方向に逃げ出した。ミノタウロスの拳が、さっきまで三人が立っていた地面を粉々に砕く。
もう一体の方のミノタウロスも、雄叫びを上げながら手足を振り回して私たちを攻撃しようとした。
「あ、あっち行けぇ!」
ボサボサ頭の生徒も魔法を放ったけど、ミノタウロスを逸れて近くの木に当たっただけだった。私は杖を構えながら怒鳴る。
「ミノタウロスに生半可な魔法は効かないわ! 下手なことをするとまた怒らせるわよ!」
「じゃ、じゃあ、どうすんだよ!」
バッジの生徒が情けない声を出した。その胸では、ライオンがしっぽを丸めて頭を抱えている。私は焦りながら答えた。
「ミノタウロスの弱点……ええと……角よ! ミノタウロスは角を折られると弱体化するの!」
「角ぉ!?」
ミノタウロスの拳を避けながら、バッジの生徒が顔を引きつらせる。
「『折る』なんて簡単に言ってくれるじゃねえか! じゃあ、あんたがあいつの頭に飛び乗ってくれんのか!?」
「それは……」
絶対に無理だ。危険すぎる。一体だけならともかく、二体もミノタウロスがいる以上、あまり無茶をするわけにはいかない。
どうする? どうするの、私。こんなところでやられるわけにはいかないのに……。
……そうよ。ミノタウロス二体くらい撃退できなくて、魔王が倒せるわけないじゃない!
私は何かないかとポケットを探ろうとした。その拍子に、肩から提げていたカゴに指が触れる。魔物学の課題で使ったものだ。
中を見ると、キノコ採集の途中で連れてこられたノームが、ぷりぷり怒ってこっちに拳を振り上げていた。……これだ!
「幻惑!」
私はノームに魔法をかける。相手に幻を見せる術だ。杖先から光線が飛び、ノームはぽやんとした目つきになった。
私はカゴからノームを取り出し、浮遊の呪文で宙に浮かせる。そのまま、一体のミノタウロスの頭まで誘導した。
「何やってんすか! あんな小さい魔物が役に立つわけないでしょ!」
間一髪でミノタウロスの攻撃をかわしながら、ボサボサ頭の生徒が叫んだ。私は唇の端をつり上げる。
「じゃあ、大きくすればいいでしょ! ……肥大せよ!」
私の魔法は、ミノタウロスの頭に着地したノームに直撃した。みるみるうちに大きくなり、ついには私と同じくらいの身長になる。
そしてノームは目の前のミノタウロスの角を見つけると、それを嬉しそうに引っ張り始めた。
まさかの行動に、不良コンビは逃げるのも忘れて目を丸くしている。
「一体何を……?」
「ノームに魔法をかけたの」
私は飛んできた拳をかわして答える。
「あのノームには今、ミノタウロスの角が大っきなキノコに見えてるわ。だから、ほら……」
ノームは夢中で角を引っ張っている。いきなり頭上に乗っかってきた土の妖精に、ミノタウロスは動揺しているようだった。ハエを追い払うように、ぺしぺしと自分の頭を叩いている。
ノームはそれにもめげず、角に全体重をかける。そして……。
ボキッという小気味よい音と共に、ミノタウロスの角が一本折れた。ノームは戦利品を抱えて、素早くミノタウロスの背中から滑り降りる。
角を失ったミノタウロスの変化はすさまじかった。筋骨隆々だった体が瞬く間に縮み、老人のような姿になってしまう。背丈も、心なしか小さくなったようだ。
こうなったら、もうこっちのものだ。私は勝利を確信しながら、浮遊術で角が折れたミノタウロスの体を持ち上げた。
「吹き飛ばしてあげるわ!」
角が折れたミノタウロスを振り回して勢いをつけ、もう一体の魔物にぶつける。
ちょうどボサボサ頭の生徒を踏み潰そうとしていたミノタウロスは、すぐには相方がこちらに飛んできているとは気が付かずに、私の攻撃を脇腹にもろに食らってしまった。
ミノタウロスたちは勢いよく飛ばされていく。そして、空の彼方に消え、見えなくなってしまった。
「……はあ」
一件落着だ。何とか怪我人が出る前に撃退できた。私は緊張を解きながら杖をしまう。
「あの……」
そんな私に不良コンビが話しかけてきた。私は二人に険しい視線を送る。
「……何? まだやる気? あのね、言っておくけど、あなたたちなんて、あのミノタウロスなんかよりずっと弱いんだから……」
「さっきの攻撃、すごかったっす!」
「本当! ノームがボン! ってなって、ボキリって感じで、最後にはビューンって!」
話を遮って二人が口にしたのは、賞賛の言葉だった。私は呆気にとられる。
「そ、そう。まあ、大したことないわよ、あのくらい」
「ひゃー! かっけー!」
バッジの生徒が口笛を吹いた。胸のライオンもしっぽを振っている。そして、二人は同時に思わぬことを言い出した。
「これからはあなたのこと、アネゴって呼ばせてください!」
……はい?
二人の目が輝いている。
もしかして私……大変なことしちゃったのかしら?