こんな奴らにやられているようじゃ、魔王は倒せない!(1/2)
「あ、あの……!」
いきなり目の前に人が現われて、私は慌てて立ち止まった。気の弱そうな顔の男子生徒だった。
「あなた、あのときの……」
彼に見覚えがあった私は目を見開いた。前に不良二人組に絡まれていたところを助けた子だった。
そのときは気が付かなかったけど、サイズの合っていないだぶだぶのローブの腕には水蛇の学級の青い腕章がついていた。そう言えば、水蛇の子も授業で森に来てるって先生が言ってたっけ。
「せ、先生が、あっちの広場で呼んでた。……じゃ、じゃあ」
男の子は向こうを指差すと、あっという間に走り去っていく。もしかして、人と話すのが苦手なのかしら?
それにしても、どうして別の学級の子が呼び出しに来たんだろう。
ちょっと疑問に思ったけど、それ以上は深く考えずに、私は彼が指した方へと向かった。今は何かで気を紛らわしたい気分だったからちょうどいい。
そんなことを考えていた私は、油断していたみたいだ。広場に入った途端に、木陰から飛び出してきた人に羽交い締めにされてしまった。
「だ、誰よ!?」
予想だにしない事態に仰天していると、「俺たちだよ」と声がした。
現われたのは、この間廊下で弱い者いじめをしていたところを私に吹き飛ばされた、ライオンのバッジをつけた生徒だった。
「オイラもいるっすよ~」
しかも、私を拘束していたのは、あのとき一緒にいたボサボサ頭の子だ。まさかの事態に、私は呆気にとられる。
「何してるの、あなたたち」
「決まってんだろ。仕返しだよ、仕返し」
バッジをつけた生徒が、懐から杖を取り出す。胸のライオンもご機嫌そうに吠えていた。
「あのときは、一年相手だからって気を抜いちまったからな。でも、今度はそうはいかないぜ」
「ひひひ。でっかいカエルにしてやるっすよ」
「カタツムリなんかも悪くないんじゃねえか?」
そんなふうに言い合って、二人は爆笑している。何が起きているのか察した私は呆れ返ってしまった。
「正面から戦ったら勝てないからって、これはちょっと卑怯じゃないかしら!?」
私は二人に向けて怒鳴る。
「大体あなたたち、またあの水蛇の子、いじめてたの!? 大方、あの子を脅して私に嘘の伝言でここまでおびき寄せるように言ったんでしょ!」
「何とでも言えよ」
バッジの生徒が鼻を鳴らす。
「『弱肉強食』は俺らの大剣の学級の格言なんだからな。さあ、覚悟はできて……」
不意に近くの茂みから葉をかき分ける音がした。それがあまりにも大きかったものだから、バッジの生徒は話すのをやめて振り返る。
ボサボサ頭の生徒が悲鳴を上げるのはそれと同時だった。
現われたのは、牛の頭と人間の体を持つ魔物――ミノタウロスだった。私の二倍くらいは身長がありそうだ。
拘束が緩んだ私は愕然となる。
「な、何でここに!?」
ミノタウロスは凶暴な魔物だ。下級生も入る第一区画にはいないはずなのに! 私は思わず二人を睨んだ。
「まさか、これもあなたたちが……」
でも、二人はすでに遠くに逃げた後だった。置いていかれた私は焦る。
「ちょ、ちょっと! 逃げるのなら私も一緒に……」
でも、去っていったはずの二人がまた戻ってきたのが見えて、言葉を切った。二人の後ろから迫ってきているのは、別のミノタウロスだ。
「た、助けてー!」
不良二人組は顔面蒼白だった。どうやら意図的にこの状況を作り出したわけじゃなさそうだ。