真実を知りたいんだ(2/3)
「しかし、捕まえた人たちから話を聞いてみて驚いたよ」
お父様は顎の下に指を当てる。
「彼らは皆、九頭団がどうとか、魔王がどうとか言うじゃないか。魔法で幻を見せられたのかとも思ったけど、どうもそうじゃないらしいね。我々が拘束した者たちの中には、九頭団のメンバーもいたから」
お父様は眉間にシワを寄せる。
「九頭団なんてずっと昔に滅んだ組織のはずだった。それがまだ存在していて、しかも政府にもコネを持っていたなんて……。お陰でうちの職場は大混乱だよ」
お父様は疲れた顔になっていた。もしかして、かなり忙しい中を無理して時間を取ってくれたのかもしれない。それくらい大事な話があるんだろうと思うと、少し緊張を覚えてしまう。
「きっと今頃、魔王対策課の人たちは鼻高々だろうね。彼らはプロムの参加者を九頭団から守ったそうじゃないか。もう誰も彼らを日陰者なんて呼べなくなるな」
「あっ、そう言えばお父様……」
私はふと思い出した。
「魔王対策課が来たの、やたらとタイミングがよかった気がしたんだけど……どうして?」
てっきり学園の中で九頭団や魔王についてコソコソと嗅ぎ回るのはやめたと思っていたのに。
「たれ込みがあったとか課長さんは言ってたよ」
魔王対策課も中央公安庁の中の部署だから、その辺りの事情にもお父様は詳しいらしく、あっさりと教えてくれた。
「九頭団の身内の者から事前に『プロムの会場を襲う』って聞かされていたらしいんだ。それで、ああしてすぐに駆けつけることができたとか」
「九頭団の身内が密告を……?」
誰だろうとちょっと悩んだけど、私はある人のことを思い出した。
「もしかして、レルネー夫妻? ほら、レルネー家の当主の……」
「いや、ノイルートとかいう人らしいよ」
「ノ、ノイルート!?」
まさかの名前に、私は驚いてしまった。
「な、何であの人が……?」
「さあ? そこまではよく知らないけど……何でも、九頭団員でいることに疲れたから……とか聞いてるよ。ああ、そうだ。今回魔法特殊急襲部隊が学園へ駆けつけることができたのも、匿名の通報があったからなんだけど、もしかしたらそれもあの人がやったのかもね」
私は会場でノイルートと会ったときのことを思い出した。
そう言えば父親と一緒だったっけ。それで彼は確か、ここにいたらダメだって言ってた気がする。あの人は知っていたんだ。もうすぐこの会場に、九頭団員を捕まえようとする人たちが来ることを。
『ノイルート』って言われたときはてっきり息子の方かと思ったけど、多分知らせを寄越したのは彼の父親だ。
団員なら、九頭団の息の掛かった連中の間をすり抜けて、情報をしかるべきところへ渡せる方法を知っていてもおかしくはないだろう。
どうやら九頭団も一枚岩じゃなかったらしい。
「そのノイルートって人も一応逮捕はしたけど、私たちに協力した見返りとして、きっと罪は軽くて済むか、すぐに釈放されるかするだろうね。会場でも、特に戦ってはいなかったみたいだし」
そんなことより、とお父様は真剣な顔になった。これから重要な話が始まるんだと直感して、私は背筋を正す。
「尋問の結果、九頭団員はとんでもないことを話してくれたよ。何でも魔王の正体が、ルイーゼと同級生の少年だとか。そう……サムソン・レルネーくんだ。それだけじゃない。彼らの中には、ルイーゼが魔王と化したサムソンくんを元の姿に戻したと推測している者もいた。……ルイーゼ、それは本当かい?」
私は平静な表情を意識しながら、どう答えるのが正解か必死で頭を働かせた。
今のお父様は、中央公安庁の副長官の顔をしている。自分の娘だからこんなふうに執務室へ招いて丁重に扱っているだけで、これは尋問なんだと私は今さら気が付いた。