真実を知りたいんだ(1/3)
「ルイーゼ・カルキノスさんだね?」
私が暗い部屋の中でベッドに寝そべってぼんやりしていると、声をかけられた。
プロムの会場からどこか得体の知れない場所――多分、治安維持省にある拘束者を監禁しておくための部屋へ送られてから、どれくらい経ったのか。やっと声がかかって、私は飛び起きる。
鉄格子の向こうから話しかけてきたのは、仮面と白いローブを身につけた魔法特殊急襲部隊の人だった。
「話があるんだ。さあ、私と一緒に……」
「ルイーゼ!」
隊員さんを押しのけて男性が現われる。私と同じ明るい金の髪と水色の目をしたその人は、私のお父様だった。
意外なところで再会して、私は驚かずにはいられない。
「副長官! 部屋で待っていらっしゃるはずでは……」
「ああ、可愛そうにルイーゼ! 今出してあげるからね!」
お父様は床に尻もちをついてしまった隊員さんを無視して、その腰から鍵束をもぎ取る。部屋の中に入り、私を思いきり抱きしめた。
「ルイーゼ、怪我は? 痛いところはないかい?」
「う、うん。平気」
私は体のあちこちを見回しているお父様の勢いに押されつつも、おずおずと頷いた。
「お母様も今来るからね。さあ、早くここから……」
「離しなさい!」
廊下の向こうから声が聞こえてきて、私は思わずそっちに視線をやった。
「うちの娘がいるのよ! 邪魔なんかしたら吹き飛ばしてやるわ!」
「で、ですが長官、面会は一度に一人までと……ぎゃあ!」
ゴンッ、という嫌な音と一緒に、高らかな靴音が聞こえてくる。肩を怒らせたお母様の登場だ。
「なんてことなの! 本当に私の娘が豚箱にぶち込まれてるじゃない!」
お父様に抱きしめられている私を鉄格子越しに発見したお母様が頭を抱えた。
「魔法特殊急襲部隊長め……! 締め上げてやるわ!」
それだけ言うと、お母様は来たときと同じく嵐のような勢いで去っていった。
それにしても『豚箱』って……。まあ、部屋には小さなベッドくらいしか置いてないし、何より鉄格子で廊下とは区切られているから、そう表現したくなる気持ちは分からなくはないけど……。
「まったく、一言くらい声をかけてあげてもいいのに」
お父様が呆れながら私を部屋から出す。
「じゃあ、娘は連れて行くよ」
「は、はい!」
お母様にぶっ飛ばされなくてほっとしていたらしい隊員さんが、慌てて敬礼した。私はお父様に肩を抱かれながら歩き出す。
「私、釈放になったの?」
「逮捕されたわけじゃないから、『釈放』とは少し違う気がするけどね」
お父様が肩を竦める。
「とにかく自由の身にはなったよ。……でも、その前に話があるんだ」
廊下の端にあった宙に浮かんでいる板に乗り、お父様が地面から伸びているマイクに向かって、「治安維持省、中央公安庁、副長官の執務室へ」と言った。
すると、板はそのまますごい速さで上昇を始める。
「これ、はっきり言わないときちんとした目的地まで連れて行ってくれないんだよ」
お父様が困ったように言った。
「それによく壊れるしね。この間なんて会議室へ向かおうとしていたのに休憩スペースに連れて行かれて、サボってると勘違いしたお母様に半殺しにされかけたよ」
お父様が苦笑いしていると板の上昇が止まった。目の前には『副長官執務室』という銀のプレートがかかっている部屋がある。
お父様の仕事部屋には初めて入った。机とか本棚とかが置いてあって、うちの家の書斎みたいな造りだ。壁には私とお母様の絵画が飾ってある。
「座って」
促されるままに、私はソファーに腰掛けた。お父様もその向かいに腰を下ろす。
「久しぶりだね、ルイーゼ」
お父様はリラックスした顔で言った。
「もう一年近くも会ってなかったから、お父様は寂しかったよ。少し背が伸びた? ……それにしても地味なローブだね。その格好でプロムに出てたのかい? 言ってくれたら、ルイーゼに似合いそうなドレスを山ほど送ってあげたのに……」
「そんなことより、お父様」
私は長くなりそうなお父様の話を遮った。
長いことお父様に会えてなかったから再会は嬉しかったけど、気になることがありすぎて、それを喜ぶどころじゃなかったんだ。
「会場はあの後、どうなったの? 皆無事?」
「もちろん」
お父様は頷いた。
「とりあえず全員拘束したけど、実行犯や事件に関係している人以外はきちんと解放したよ。怪我人たちも収容した。重傷者は多数いるけど……今のところ、死者が出たっていう報告は受けていない」
私は胸をなで下ろした。
魔法特殊急襲部隊は中央公安庁の管轄だ。そこのナンバーツーのお父様が言うのなら、その話に間違いはないだろう。