奇妙な友情(2/2)
「もう止めてください!」
でもそこにノイルートが割り込んできて、魔法でオスカーの杖を叩き落としてしまう。そして、彼に向かって怒鳴った。
「あなた、本当にバカですね! 自分の実力も考えずにこの人たちに向かっていくなんて! 僕はあなたのそういうところが嫌いなんですよ!」
ノイルートは驚いたことに杖を放り出し、オスカーの頬を平手打ちした。
「本当に、本当に嫌いです! ヘラヘラしているところも! 僕が少し優しくしただけで楽しそうになるところも! 利用されているとも知らずに嬉しそうにしているところも! 食事のときクチャクチャと音を立ててものを噛むところも! 脱いだ服を放りっぱなしでその辺に放置しておくところも! この間朝寝坊して間違って僕のローブを着て登校してきたところも! 気付くでしょう、普通は! それから……」
「ノイルート、やめて!」
暴言を吐かれながら何度も殴られているせいでオスカーは口の中でも切ったのか、唇から血を流していた。って言うか後半は日常生活の愚痴じゃない! もしかしてこの二人、ルームメイトだったりするの?
私は思わずノイルートの肩を掴んで彼を止めようとしたけど、「うるさいですよ!」と言われ、はねつけられてしまう。
私は唖然となった。こんなに感情的なノイルートは見たことがない。
「全部言ってやらないと気が済まないんですよ! 血ぐらい何だと言うんですか!」
「……そうだね」
オスカーは手の甲で唇を拭って、腫れた頬に手を当てた。
「でも……殴られただけあったよ。ヘルマンくん、意外とボクのこと、よく見てくれてるんだね」
ヘへ、とオスカーは笑った。ノイルートの口元が不快そうにピクリと動く。
「ノイルート……もういい加減認めたらどうだい?」
けれど、もう一度殴りかかる前に、アルファルドがノイルートをなだめるような声を出して彼の肩に手を置く。
「君、本当は彼のこと、そんなに嫌いじゃないんだろう? 君はちょっと変わった環境で育っただけの、普通の子なんだから。ただ、愛情の伝え方が不器用なだけで……」
「そんな慈愛のこもった目で見ないでください、気持ち悪い!」
ノイルートの顔が引きつった。
「嫌いですよ! そうに決まってるでしょう! 好きだったらこんな扱いはしませんよ! あなたはカルキノスさんに暴力を振るったりするんですか!?」
ノイルートは声を荒げながら倒れた父親の傍にかがみ込んだ。
「……大体あなたたち、こんなところで油を売っていていいんですか?」
やっと気持ちが落ち着いてきたのか、少しだけいつもの調子を取り戻したようなトゲのある声で、ノイルートが嫌味っぽく言った。
「会場にはまだ九頭団がいるんですよ。どうせ二人とも、彼らを止めるために戻ってきたんでしょう?」
「あっ、そうだったわ!」
二人のやり取りが気になりすぎて、うっかりしていた。
「行きましょう、アルファルド! ノイルートのことは……」
「心配しなくても、僕はもう何もしませんよ」
ノイルートは指先でメガネの縁を押し上げた。そして、アルファルドの方に視線をやる。
「魔王がいなくなった以上、九頭団はもう終わりですから」
ノイルートは淡々と話を進めた。
「僕は彼らと心中するつもりはありません。仮に捕まったとしても、何もしていなければ多少は罪も軽くなるでしょうし」
どうやらノイルートは九頭団に大した思い入れはないらしい。私はオスカーに「見張っておいてね?」と頼んで、アルファルドと一緒にその場を後にした。
声が二人に届かなくなったところで、私はアルファルドにこそっと話しかける。
「あの二人のこと、どう思う?」
「あれかな? 『嫌よ嫌よも好きのうち』みたいな……」
「う、うーん……?」
前から思ってたけど、アルファルドってちょっと甘いところがあるわよね。まあ、言いたいことは分からなくはないんだけど……。




