奇妙な友情(1/2)
会場では相変わらず混乱が続いているようだった。
私とアルファルドは庭木の小道を疾走しながらダンスホールを目指す。そのとき、近くから話し声が聞こえてきた。
「父上! 待ってください! どこへ行くんですか!」
聞き覚えのある声にハッとなった私は、思わず庭木の端から顔を出して向こうの通路を覗いた。
……やっぱりノイルートだ! 一緒にいるのは父親ね。綺麗な顔の息子にはあんまり似ていない、平凡そうな中年の男性だ。
「皆は魔王を探しに森へ行きました! 僕たちも向かった方がいいんじゃないですか!?」
ノイルートは父親に手を引かれながら困惑の表情を浮かべていた。
「ダメだ、ヘルマン。行っちゃいかん」
ノイルート氏は頑なな表情で首を振った。
「逃げるんだ、一刻も早く。何故ならば……」
「こうされるからかしら!?」
私は庭木の影から飛び出した。アルファルドも一拍遅れてやって来る。
「失神しなさい!」
私はぎょっとしたような顔になっているノイルート親子に向かって杖を振って、光線を飛ばす。アルファルドもそれに倣った。
「守護せよ!」
二つの声が同時に響いた。ノイルート親子のものだ。
でも、何だか様子がおかしい。
「父上!」
ノイルートが叫ぶ。ノイルート氏の体が吹っ飛び、そのまま大の字になって伸びてしまった。彼は息子に防衛魔法をかけたお陰で、自分の身を守る術を失ってしまったんだ。
「どうしてこんなことをしたんですか! 障壁くらい僕にだって張れますよ!」
ノイルートは信じがたそうな顔で父親の肩を揺さぶっている。私はそんな彼を哀れな目で見ながら、ノイルートに杖先を向けた。
「あなたはお父様を守るべきだったのよ。さあ、今度こそ……」
「ダ、ダメェ!」
どこからか声がして、私の体に衝撃が走る。バランスを崩した私は、その場に尻もちをついてしまった。
「ルイーゼ!」
アルファルドがすぐに助け起こしてくれる。敵襲かと思って一瞬身構えたけど、目の前に現われた人を見て呆けてしまった。私に体当たりしてきたのはオスカーだったんだ。
「ヘ、ヘルマンくんを傷つけないで!」
オスカーは両手をいっぱいに広げて、ノイルートと私たちの間に立っている。手も足も可愛そうになるくらい震えていたけど、その表情はいつになく真剣だった。
「何してるんですか、あなた」
さすがのノイルートもこれには驚きを隠せなかったらしく、ポカンとした表情をしている。
「防衛魔法の成績が悪いのにこんなところへ出てきて。怪我しても知りませんよ」
「ボ、ボクは怪我してもいいよ!」
オスカーはつかえながらも、はっきりと言い切った。
「でも……ヘルマンくんが怪我するのは嫌だから……だから……」
「……何言ってるんですか」
ノイルートはいよいよ不可解そうな顔になった。
「あなたがそこまで記憶力が悪い人だとは思いませんでしたよ。僕が前に言ったこと、忘れたんですか? 僕はあなたのことなんて……」
「友だちだと思ってないんでしょ! 知ってるよ!」
オスカーは投げやりな声で言った。
「でも、ボクはヘルマンくんのこと……や、やっぱり友だちだと思ってるし……だ、だから、ボクは戦う!」
オスカーは懐から杖を出した。その切っ先を私に向ける。
「か、かかってこい! ボクが相手だ!」
私とアルファルドは顔を見合わせた。
多分……って言うよりも絶対、オスカーじゃ私たちには敵わない。でも、私もアルファルドも彼に攻撃する気にはなれなかった。それよりも、この奇妙な友情がどう転ぶのかの方が気になっている。
「そ、そっちから仕掛けてこないなら、ボクが先に攻撃するぞ!」
オスカーは精一杯の虚勢を張りながら私に向けて魔法を飛ばす。私はそれを難なく反射の呪文で彼に返した。
「ひゃあ!」
オスカーが情けない悲鳴を上げながらその場に倒れる。
でもまだ諦めようとはせずに、もう一度杖を握りながら私に向かって来ようとした。