君と一緒に今度こそ(1/1)
いつの間にか気を失っていたらしい私は、ふわふわと体が浮遊する感覚で目が覚めた。
私の体は金のベールのようなもので包まれている。そのベールが形を変え、腹部の傷ヘと吸い込まれていっていた。
ほんのりと体が温かい。手を伸ばして確かめると、傷は塞がっていた。跡すらも残っていない。癒やしの魔法だ。しかも、すごく高度な。
周囲から輝きが消え、浮いていた私の体が地面にそっと横たえられた。そこに一人の少年が歩み寄ってくる。
「ルイーゼ……」
アルファルドは泣きそうな顔で膝をついて私の髪を撫でた。
「……生きてるんだな?」
「……あなたの方こそ」
私は重苦しい動作で身を起こしながら、アルファルドの頬に手を伸ばした。その温かい感触に笑みがこぼれる。確かに命ある者の温度だった。
「ルイーゼっ!」
アルファルドが感極まったような顔で私を強く抱きしめた。声を上げて泣く彼の背中を私はさする。
「何もかも……もう終わりだと思ってた……」
アルファルドはしゃくり上げながら涙声で話している。
「私はまた魔王になってしまったんだ、って。もう君にも会えないし、またたくさんの人を傷つけてしまうんだって……」
「大丈夫よ。あなたは何もしてないわ」
本当はアルファルドは会場で暴れ回っていたんだけど、それは今は伏せておくことにした。
「あなたはもう魔王になんかならないわ。だから安心して」
アルファルドが小さな声で「うん」と頷いた。その体は迷子になってしまった子どもみたいに震えている。
「でも……一体どうして……?」
やっと私から離れて、アルファルドが目元を拭いながら尋ねてくる。
「君は一体どうやって私の変身を解いたんだ?」
「それは後で話すわ」
私は立ち上がった。
「そんなことより、会場に戻らないと。九頭団が暴れてるのよ」
「奴らが!?」
アルファルドが目を見開いた。
「止めないといけないわ。せっかくあなたの変身を解いたって、九頭団のせいでたくさんの人が怪我したり死んじゃったりしたら何の意味もないから」
「ああ、分かった」
首を縦に振ったアルファルドは、ちょっと苦笑いした。
「実はね、ルイーゼ。私、九頭団と戦うなんて言っておいて、本当は怖かったんだ」
アルファルドはため息を落とした。
「悪人だろうが善人だろうが、私は人を傷つけるのが恐ろしかったんだよ。そんなことをする度、自分が魔王に近づいていく気がするから。ましてや殺してしまうなんて……」
アルファルドはちょっとうなだれつつも、私を見て微笑んだ。
「でも、そんな私にも立ち上がるときが来たみたいだね。今度こそ倒そう、九頭団を。……君と一緒に」
アルファルドは懐から杖を出して、私に渡す。「君の杖だ。あっちの岩がある辺りに落ちてたよ」と教えてくれた。
「……アルファルド、何も血祭りに上げなくたっていいのよ」
杖も戻ってきたし、何よりアルファルドと一緒にいられる。それだけで私は、普段の何倍も力が出せるような気がしていた。にっこりと笑ってアルファルドの肩を叩く。
「動きを止めるとか、拘束するだけでいいの。それだけで十分よ」
「うん、そうかもね」
アルファルドは晴れやかな表情になった。
「さあ、行きましょう!」
私とアルファルドは森の出口に向かって駆け出した。