吹き飛ばしちゃえ!(2/2)
「ルイーゼ、さすがにこれ以上はヤバいかもよ!」
コウモリの学級の副学級長が私と背中合わせで戦いながら、焦った声を出す。
「皆戦うために来てくれたけど、こんな乱戦、初めてだからね。いつまで持つか……」
「もう少しだけ!」
私は九頭団員を三人まとめて石化させながら返事する。呪いが傍をかすめ、副学級長の服の裾から煙が上がった。
「もう少しだけ待ってください! あの二人さえ帰ってくれば……!」
不意に向こうの方から地鳴りのような大きな音がして、私はハッとなった。直後、箒に乗った二人組が高速で会場に突っ込んでくるのが目に入る。私は歓喜の声を上げた。
「ミスト! ニケ副学級長!」
「待たせたな、ルイーゼ!」
ニケ副学級長が前に乗ったミストの体をしっかりと抱きかかえながら、ガッツポーズをする。
「ルイーゼちゃん! 一番大きい子、連れてきたよー!」
箒にしがみつきながらミストが叫んだ。その後を追いかけるように、一体の魔物が会場入りする。
「きゃああっ!」
それは魔王よりも二倍くらい体の大きな鬼――メガオーガだった。新手の登場と思ったのか、辺りにいた人たちは逃げ惑う。
けれど、メガオーガはそんな人たちには見向きもせず、会場の端の方で木の幹をへし折っていたアルファルドのところへ直行した。
「メガオーガさん! お願いね!」
ミストの言葉通り、メガオーガはアルファルドに飛びかかった。反応が遅れたアルファルドは、叫び声を上げながら地面を転がる。
「な、何だアイツは!?」
九頭団員は唖然とその光景を見ていた。私はニッと笑う。
あのメガオーガは、クレタの森の第三区画……つまり、一番危険な場所に住んでいる魔物だ。
今回の作戦遂行には、アルファルドを傷つけず、しかも遠くまで素早く誘導してくれる存在が必要だった。
そういう離れ業ができるのは、強い力を持っている魔物くらいだ。だけど、そんな魔物が簡単に人間の言うことなんて聞いてくれるわけない。
だからミストを使った。彼女が持つ特殊な力、魔物を従えてしまう獣王体質。それを活用しようと思ったんだ。
でも、一年生のミストじゃ第三区画までは行けないから、ニケ副学級長にも付き添ってもらった。それにニケ副学級長は箒の扱いも上手だから、素早い任務遂行にもピッタリだと思ったんだ。
「グググ……」
メガオーガと取っ組み合いになりながら、アルファルドは苦しそうな声を上げる。ニケ副学級長に私の隣に下ろしてもらったミストが「頑張ってー!」と応援していた。
周囲は戦闘も忘れて、突然始まったこの勝負の行方を見つめていた。
不意に、アルファルドの体がメガオーガによって持ち上げられる。ミストが顔を輝かせた。
「その調子だよ! 吹き飛ばしちゃえ!」
ミストの力強い言葉と共に、メガオーガはアルファルドの体を思い切り投げ飛ばした。
空の彼方までアルファルドは飛んでいく。そうかと思えば落下し始め、クレタの森の中へと消えていった。
「ルイーゼ、これ!」
ニケ副学級長が箒を投げて寄越す。私はそれを受け取ると、空に向かって飛び立った。目指したのはもちろん、アルファルドのところだ。