想定外の生け捕り
『…はぁ。
まっさかこーんな結果になるとは…
モールデースは何を想定していたか分かりません』
半透明の少女は胎児のように丸まって草原を逆さまになって漂っている。
その少女を中心にゴーグルやマスク、衣類の一部にナイフや何かの装置などがゆっくりと回っている。
まるで惑星と衛星の関係のようだ。
その下には大量の死体が山積みにされていた。
しかし、一箇所だけ綺麗に死体が片付けられた所があった。
まるで大きな力で大量の死体を掻き分けたような印象を受ける空間があった。
そこには半裸の女性が倒れていた。
女性には目立った外傷は見当たらず、死体と違って呼吸をしている様子が確認でき気を失っているだけのようだ。
少女の周りで回っているのはどうやらこの女性の物らしい。
『条件はいくつか思いつけますけど、これはまさしくモールデースの権能の効果に間違いありません。
私達の目的は原生物の全処分ではないので大きな問題ではないですけどぉ…
処分に関する制限なんて厄介な真似をしてくれましたよ、ほんとに。
はぁ、なんて置き土産ですか、全く…
もしかしたらこれ以外にも制限を設けている可能性も考えるべきでしょうねぇ、はぁ…』
少女の愚痴とため息が止まらない。
自身の思いつきが思わぬ所でつまずいて大きな失望を味わっているようだ。
まるで気絶している女性に八つ当たりするかのように言い続ける。
『魂の移動については次の機会に確認するとして。
この世界、なんて物騒な物を作っているんですか』
少女の目の前にナイフと衣類の一部が止まる。
どちらも見た目は何処にでもある普通の物だ。
『魂にダメージを与えるナイフに、魂を隠す衣服。
原生物の技術力も案外侮れませんねぇ、フヒヒ。
この技術は必ず回収しなければなりませんねぇ。
特に魂を隠す技術を応用すれば神格だって隠す事もできますよね!
隠れて研究し放題も夢ではありません!』
少女は無表情のまま興奮気味に叫ぶ。
欲望に塗れた大声がきっかけになったのか気絶していた女性が呻き声をあげる。
『あぁ、起きましたか、原生物。
創造神に感謝しなさい。
生きながらえているのは神のおかげですよ』
「…っ!」
少女の声が聞こえた途端に女性は俊敏に跳ね起き、見事な体捌きで少女から距離を取る。
そして流れるように腰に手を伸ばしたがそこで装備を剥がされた現状に気付くと険しい表情を少女に向けたまま、ジリジリと後退りしていく。
しかし、まるで見えない壁に当たったのかピタリと止まってしまった。
『逃しませんよ』
先程の澱んだ熱は何処へと消えたのか、心の芯まで凍る冷たい声が響く。
女性から少女の逆さまな背後しか見えないがさらに表情を険しくさせるには十分だったようだ。