尋常ではない野分け
『よいしょ!』
カタカタと音を立てて骨が崩れ落ちる。
今まで骨のみで動いていた不自然なモノがようやく本来の形へと戻ったのだ。
あとは自然に戻るのみだ。
その骨以外にも周囲には人の死体が一山も二山も積み重ねられていた。
周囲には背の高い草が生い茂っているが隠れていないほどだ。
死んでから時が経っているのか腐肉よりも白骨がやや目立つモノが多い。
その惨状の少し上に半透明な少女が浮かんでいた。
まるで海底に潜って漁をしているかのように足が上を向き、頭が下を向いていた。
闇夜を写したような髪がまるで水の中に居るように広がっている様は特にそう見えて仕方がない。
そしてその手にはたった今、骨から抜き出した青白い塊を両手で抱えていた。
『ふー、これで最後ですかね!
ささ、景気よく平らげてください!』
少女は自分にその塊を勧めながら嫌がるようにノロノロと口元へと運ぶと、まるで空気に溶けたように形を失いながら口の中へと吸い込まれていく。
数秒とかからずに青白い塊が全て無くなると少女は胎児のように丸くなった。
『…はい、魂の保管を確認しました。
死体からも魂を感じないので綺麗に具現化して抜き取れるようにできましたね。
いやぁ、初めての試みでしたが上手く成功させるとは流石は私!
伊達に創造神をやっていませんでした!
問題は一回一回手間がかかる点ですねぇ。
流石にこれ以上の簡略化となると魂が外に漏れちゃいますから二度手間になってしまいますから難しいんですよ。
ここは根気良く丁寧に回収するとしましょう!』
少女は遠い目をしながら己の行いを肯定していく。
なんとも自己肯定感の強い少女であった。
ふわりと高度が上がっていく。
まるで自身を褒める言葉を燃料に浮かぶ気球のようだ。
『それにしても動かしやすくなりましたね、あなた。
最初は浮かべる事すらも難儀していたというのに。
今では操作すればゆっくりですけど…こんなふうに動かせるようになりました』
少女はまるで油の切れかかった機械のようにぎこちない動きで両手を上げ下げし、高度や身体の向きも川に流される葉のようにぐりんと動き回る。
見ている者が居れば酔ってしまいそうなほど激しい動きだ。
『移動速度は変えられないのは気に入りませんけど…高速移動も視野に入れて弄ってみましょう。
とはいえ、いくら魂を保管しても蘇るシステムが見えてきません。
ここは思い切って原生物を処理してみて魂の動きを観察した方が良いかもしれません。
うーん、今は物理現象への干渉手段が皆無ですので移動よりもこちらを優先した方が良さそうですね』
少女は乱気流に巻き込まれた気球のような動きをしつつ物騒な事を呟く。
『邪魔をしなければ…と思ってましたけど気が変わりました。
試してみたい干渉方法もありますし』
突然、風も吹いていないのにザワザワと周囲の草が揺れ始めた。