泣き叫ぶ守護天使
『無理ですよぉぉ!
こんな腐った魂だけの存在なんかに世界なんか救えませんよぉぉ!』
とある麗かな森林に情けない声が響き渡る。
内容は諦めと悲観を混ぜたネガティブなものだ。
発声源はとても美しくも神秘的な少女からだった。
髪は長く黒い、まるで闇夜を写した絹糸のよう。
シンプルな白いワンピースからは透き通った手足がすらりと伸びている。
表情はどこか遠くを見つめるような何かを憂うような印象を受け、どこか儚げだ。
胎児のように丸くなり長い髪がさらりと靡く姿は見えない何かを抱えて守っているようにも見える。
声と見た目の印象の温度差があり過ぎる少女だった。
ただし、少女はまるで宇宙にでも居るかのように樹々の少し上空をふわりと浮かんで漂っていた。
その上、よくよく見れば文字通り透き通っていて まるで立体映像のような半透明な存在だった。
『もう少し!
もう少しだけ微調整すれば!
動けたのに!
腐った魂じゃ動きゃしませんよぉぉ!
終わりだ!
世界と私の終わりだぁぁ!』
少女から泣き喚く声は途切れない。
中身も変わらずネガティブだ。
しかし、不思議な事に少女の口は一切開いていなかった。
少女は重力を無視してフワフワとネガティブ発言を垂れ流しながら森林を漂っていく。
まるで世界を否定する事によって浮力を得たと言わんばかりのネガティブっぷりだ。
『…やっぱり惹かれてますね。
はぁ、覚悟を決めるしか…ないですかね』
突然、少女の言葉が途切れた。
その声音は先ほどのネガティブな発言を垂れ流していた時とうって変わって真剣なものだ。
そして浮遊する少女の下、木の近くには人影が集まっていた。
総じてボロボロに朽ちた服、蛆の湧いた身体には骨が見える者も居る。
中には既に白骨化した何かも居た。
明らかに屍となった者達がゾロゾロと集まっていたのだ。
『あれがこの世界の問題なんですよ。
この世界、モールデースはなんと死者が蘇る世界なんですよ。
もちろん、これは異常な事ですよ。
そういう世界として造られたならともかく、この世界では本来あり得ないんです。
管理していたモールデースは忽然と姿を消してしまった為、死者が蘇るシステムは原因不明で何故か世界の魂総量が減るばかり。
このままでは数千年も経たぬ内にこの世界は魂を全て消費して消滅してしまう。
あれを私達だけで解決しなきゃ世界と一緒に消滅しちゃうんです』
少女は誰かに語りかける。
目の前、真下で起きている現象と目標を誰かに伝わるように話した。
しかし、返事は誰からもない。
それは当然の事だ。
空中には漂う少女しか居ないのだから。
『本来ならば、この世界では魂は冥界で収集、加工されて次の肉体へと輸送されるのですが…地上に魂が溢れてます。
原因は今後調査するとして今はあの迷える魂を保管しましょう。
幸いな事にあれらは貴女に惹かれるようですし。
保管してしまえば魂の総量が減る事も抑えられるはずですから。
腐ってしまったとは言え、貴女は世界一つ分のリソースを使ってますからね。
魂の容量はこの世界と同等なので地上に溢れた魂を保管するぐらい訳ないですし。
とりあえずは保管機能を追加しま…
なんですあれ!?』
長々と独り言を話していた少女は驚きのあまり叫んだ。
なんと遠くから巨大な魚のような何かが空中を泳いで向かって来ていたのだ。