初夜のかくれんぼ
「夏のホラー2021」のテーマ「かくれんぼ」です。
20代のタケシは、大学で知り合った同い年の美しいルリコと結婚した。
タケシの両親は、彼が幼い頃に離婚していたので、ルリコが生まれた離島で式は行われた。
ルリコは真面目な女性で、結婚前にタケシと体の関係どころか、キスも許さなかった。
「離島出身の女の子は、クソ真面目な子が多いのかな?俺、本当は嫌われてないか?」
タケシは心配して友人に相談したくらいだった。
結婚式が終わって初夜を迎えたタケシは、風呂から上がり、浴衣姿でドキドキしながら旅館の部屋で待っていた。
ルリコはまだ入浴中だった。
(ルリコの実家じゃなくて良かった~。気を遣ってくれたのかな?あ~、やっとルリコとみんなが大好きなルリコと――ざまあみろ、男ども!ざまあみろだ!俺がルリコの最初の男だ!いやいや、ハズバンドだぞ!)
タケシは興奮して布団の上で転がった。
ルリコは、浴衣姿でコップを持って部屋に入って来た。
(最高~!神様ありがとうございま~す!ルリコのことずっと考え過ぎて、仕事じゃ失敗ばかりだったけど、東京帰ったら、バリバリ仕事がんばるぞー!)
「タケシ、これ飲んで」
ルリコは、コップを見せた。
「のどなんか渇いてないよ。早く寝よ」
タケシは、興奮して言った。
「これ大事な儀式の水なの」
「大事な儀式の水?」
「そう。この島で結婚した男性は、初夜にこれを飲んで、伝統ある大事な儀式をしなければならないの」
「そんなの~聞いてないよ~!待ちきれないよ~」
「もう私のカワイイ旦那さん、島の伝統は無視できないでしょ」
「う~!分かったよ。島の伝統を無視したら、ルリちゃんの両親に嫌われちゃうもんな」
タケシは、コップの水を一気に飲み干した。
「それで何やるの?儀式って?」
タケシは立ち上がって言った。
「【かくれんぼ】だよ。ただの簡単な【かくれんぼ】」
ルリコは笑顔で言った。
「【かくれんぼ】かあ!カワイイんだな~、この島の儀式は~」
「でしょう。この旅館の広いお庭でやるの」
「あ~、それでここ、『かくれご旅館』て言うのか」
「じゃあ、100数えたら来てね。今夜はここには戻って来ないから、そのつもりで。それじゃあ、待ってるからね~、がんばって~」
「がんばる~。ルリちゃんのためにがんばる~」
タケシがそう言うと、ルリコは旅館の部屋から出て行った。
(俺のためにがんばる~、だろ本当は。今夜はここには戻って来ないって?それって、野外でってこと!?)
タケシはそう思うと、興奮が高まり、右手を開いて、
「今夜は、ば~くねつ、ゴッドフィンガー!」
と大袈裟だが叫ばずに言った。
100数え終わったタケシは、浴衣のまま真っ暗闇の広い庭にやって来た。
旅館の玄関で、女将が「『もういいかい』って言うのを忘れずに」と教えてくれた。
タケシは、真っ暗闇に向かって「もういいかい」と言ったが、返事がなかった。
なので、次は「もういいかい」と叫んだ。
すると、「まあだだよ」と言うルリコの声がした。
タケシは「もういいかい」と再び叫んだ。
今度は「もういいよ」と言うルリコの声がした。
しかも、小屋の入口なのか、分かりやすく明かりがついた。
「ほんと、ただの簡単な【かくれんぼ】だわ」
タケシは、ドアが開いている小屋の中を覗いた。
そこには、高校生くらいの美しい少女が浴衣姿で座っていた。
「あっ!ごめんなさい!」
タケシは驚いて立ち去ろうとした。
「待って下さい!これも儀式なんです!」
少女は、慌ててタケシに言った。
「えっ!?」
タケシは足を止めた。
「タケシさんを、ルリコさんの声で呼んだのは私です」
少女はそう言って、小屋の中にあるスピーカーを指さした。
「ルリコはどこなの?」
「そろそろ効いてきませんか?」
「何が?」
「この儀式は、私と一夜を共にしないといけない決まりなんです」
「はっ!?」
「都会で汚れた新郎の体を、男性を知らない島の女の子の体で清めるのが仕来りなんです」
「ハハ、何それ?」
「ルリコさんと本当に結ばれたいのなら、私を受け入れて下さい」
「……無理!無理!無理!無理!」
「ルリコさんと本当に結ばれたくないんですか?」
「もういいから、ルリコと会わせてくれ!ルリコはどこ?」
タケシがそう言うと、少女が抱きついて来た。
「やめっ!!」
少女に抱きつかれたタケシは、体がゾクッとして興奮してきた。
(おかしい!?こんな子に抱きつかれたくらいで!!あ~っ!!あの水か~!?そうだ~、あの水だ~!!)
タケシの興奮が高まり、抱き着いた少女を受け入れたくなってきた。
(たえろ!たえろ!たえろ!たえろ!たえろ!たえろ!たえろ!たえろ!たえろ!たえろ!ああ~!たえられねえ!たえられねえ!たえられねえ!たえられねえ!たえられねえ!たえられねえ!たえられねえ!たえられねえ!たえられねえ!たえられねえ!おお~!ルリコ!ルリコ!ルリコ!ルリコ!ルリコ!ルリコ!ルリコ!ルリコ!ルリコ!ルリコ~!)
「タケシさん、よく思い出して下さい。私と一夜を共にさせるために、水を飲まされたはずです。その水は、ルリコさんからもらいませんでしたか?」
抱きついた少女は冷静に言った。
「!!」
タケシは、腰が痺れて脚がガクガクしてきて立っていられなくなってきた。
「ルリコさんも望んでます。タケシさんと本当の夫婦になるために――今夜だけ、私を好きにして」
少女の頬は赤くなった。
(ルリコ、本当なのか?キスも許さなかった君が、本当にこんな嬉しい――いやいや、こんなイケないことを望んでいるのか?)
タケシは、飲んだあの水の影響で、アメリカ映画の狼男みたいに野獣に変身する幻覚を見た。
タケシの目は真っ赤になっていた。
少女は目を閉じた。
タケシは、抱きついている少女の腕を解き、軽く突き飛ばした。
少女は小屋の床に横になった。
(やるぞ!いいんだな、ルリコ!君が望んだんだな!)
タケシはヨダレを垂らし、浴衣では見えないが下の相棒も狂暴になっていることが想像された。
「来て」
少女は目を閉じたまま言った。
タケシは野獣の如くドカッ!と飛びかかった。
「イッ、テェーーーーーーーーーー!!」
少女に飛びかかった、タケシの膝に、床から飛び出た釘がグッサリと突き刺さった。
タケシは膝を抱えてのたうち回る。
膝から血が噴き出してきた。
「スゴイわ、タケシ!」
ルリコが小屋に入って来た。
「はいっ!?」
タケシは一瞬痛みを忘れた。
「合格よ、タケシ。まさか、自分の体を傷つけてまで耐えきるとはね!」
ルリコは驚きを隠せない。
「いやっ、これは~」
タケシは痛くて泣きながら言った。
横になった少女はスースー眠っていた。
「その子、わざと紹介しなかったけど、私の妹なの」
「えっ!!」
「もしも、本当に襲ったら、パパが撃ってたわ」
「はっ!?」
タケシは、完全に痛みを忘れた。
猟銃を持ったルリコの父が小屋に入って来た。
「タケシくん、今夜が初めてだよ、撃たずにすんだのは!」
お読み下さった方、ありがとうございました。
ミッドナイトノベルズで連載しておりますので、18歳以上の方お読みいただけたら幸いです。
私の名前で検索していただけたら嬉しくて失神します。