土産
ごくり。
ルシャーナは自分の喉が鳴るのが分かった。
近い将来の為にお金を貯めておきたいルシャーナにとって、提示された報酬に心が揺れていた。
(うぐぐ…)
でも、このまま皇族と関わりあうのはよろしくないと思い、報酬に未練はあるが断腸の思いで大臣達に伝える。
「そ、そのご依頼…お断りさせていただきます。」
「そこをなんとか引き受けてくださいませんか。」
帝国内で婚約者を見付けたくて、切羽詰まっている大臣達はなかなか引き下がらない。
依頼を引き受けてくれるにはどうしたら良いのかをルシャーナに問い詰める。
返答に困っていると、応接室の扉がノックされ「失礼します」と執事が部屋に入ってきた。
「皇太子殿下、こちら頼まれていた物です。」
「ああ、すまない。あちらにいるルシャーナ嬢へ渡してくれないか。」
「かしこまりました。」
ルシャーナがキョトンとしていると、自分の側に執事が来て目の前に大きな箱を置いた。
「こちら、皇太子殿下からでございます。」
「えっ?」
ルシャーナは訳も分からず、セフィラスと執事を交互に見る。
セフィラスは「開けてみると良い」と言い、手のひらを箱の方へ向けた。
そっと箱を開けてみると、数種類のケーキの他に焼き菓子も入っていた。
箱いっぱいのデザートが視界に飛び込んできて、ルシャーナは驚きで声が出なかった。
「----っ!!!」
「皇宮の料理長自慢のデザートを土産に用意させた。」
確かにセフィラスは土産を手配しようとは言っていたが、社交辞令だと思っていた。
実際に手配してくれていた事に驚いた。
「あのっ…セフィラス殿下。ありがとうございますっ!!!」
(ふぁ~!!夢みたい…)
「礼はよい。あのように美味しく食べて貰えると、料理長も嬉しいだろう。」
庭園での光景を思い出したのか、ルシャーナを見てセフィラスがくくっと笑う。
(あのように…!!!)
きっとルシャーナがケーキに対する熱い思いを語りながら食べていた事だろう。
急に現れたセフィラスがいけないんだと思いながら、恥ずかしくて顔を手で隠した。
セフィラスとルシャーナのやり取りを見て、大臣の一人が何かを閃いたようだった。
大臣がおずおずと「ルシャーナ殿」と話しかけてきた。
「鑑定依頼の件じゃが、令嬢達の人数は制限するし、料理長のデザートを土産につける。
どうじゃろう、前向きに考えてもらえないだろうか?」
(むむむ…み、土産付きときましたか!!)
断腸の思いで断ったのに、そんな事おかまいなしでぐいぐいと心を揺るがしに来る。
目の前に置かれている土産を見て、依頼を受けるか断るかで悩む。
ぐらぐらと揺れているところに大臣は追い打ちをかけてきた。
「もしかしたら、次の夜会では新作のデザートが用意されるかもしれませんなぁ…。」
「やりますっ!」
ルシャーナは考えるよりも先に返事をしていた。
大臣がニヤリと笑ったのを見て、ルシャーナは策略に嵌った事に気が付いた。
(し、しまった。食べ物につられてしまった…。)
自分自身の失態に呆然としているルシャーナに、大臣達が次の夜会で行う鑑定について話を始めた。
今からでも断れるかもと思っていると、大臣達のにこやかな笑顔に「今更、断りませんよね?」と書かれていて、自分でやると言ったのは事実なので諦める事にした。
(仕方がない…次の夜会でしっかり鑑定して、報酬とお土産頂きましょう!!)
読んでくださってありがとうございます。
コメント、評価、ブックマーク、ありがとうございます。
とても嬉しく思っています。感謝です。
これからも頑張ります。