政略結婚
「えっと、あの、それは…。なんと言いますか…。」
セフィラスの質問に、ルシャーナはあわあわと挙動不審になり言葉に詰まった。
先ほどまでがっかりしていた大臣達が、急にギラッとした目でこちらを見たと思ったら、口々に「いたのですか?」「教えて下され」とルシャーナを追い込んでくる。
歯切れの悪いルシャーナに期待を高めた大臣達の圧がすごい。
(ひぃーー!!セフィラス殿下の運命の相手が私なんて言えないっっ!!)
チラリとセフィラスを見ると、視線をそらさずにこちらを見ていた。
その瞬間、また相性鑑定が反応して、セフィラスの小指から伸びる運命の糸が自分の小指と繋がって七色に輝きだした。
破格の報酬に惹かれて、この依頼を引き受けた事を後悔した。
汗ばんだ手と輝く運命の糸を見ながら、何と答えるのが一番良いのかを考える。
(あ…そうだ!いっその事、私と相性が最高ですって言ってしまおうかしら。
そうすれば皇族に守ってもらえるから、頑張ってお金貯める必要もないかも。
わぁ!!名案じゃない??
…いやいやいや!!冷静になるのよルシャーナ。
婚約者になりたいがために、相性を偽ったみたいになってしまうわ。
それに私には婚約者がいるじゃない…。
そんな事したら皇族に不敬を働いた者としてきっと極刑になるわね。
うぅ…それだけは嫌だわ。
あ、でも、まって!!セフィラス殿下は『いたのか?』て疑問形よ。
何とかなるかもしれない!)
目まぐるしく変わる自問自答を切り上げ、顔を上げてセフィラスを見て答えた。
「セフィラス殿下。私の言い方が悪くてすみません。『いた』ではなく『いる』です。
候補者以外の令嬢を探せば相性のよい方がいますよという意味でした。」
(よしっ!我ながら良い回答じゃない?)
またもや大臣達は見て分かるくらいに、どんよりとした雰囲気で項垂れていた。
「それなら良い。」
セフィラスはフッと笑い、どことなくホッとしているようにも感じた。
思っていたのとは違う反応に、ルシャーナは驚いてセフィラスを見つめる。
「私は婚約などどうでもいい。」
セフィラスの言葉に大臣達が顔色を変えて発言を止めに入る。
派閥の大臣達の耳には入れたくないのだろう。
ルシャーナは「婚約なんてどうでもいい」と言うセフィラスの真意が知りたくなった。
「今回、婚約させられるのではないかと、ヒヤヒヤしていたからな。
相性が良い相手がいなくて安心した。
大臣達は帝国内で婚約者を決めて、派閥の結束を強くしたいと思っているようだが、
私は他国との政略結婚でもいいと思ってる。外交も必要だろう。」
慌てる大臣達に、セフィラスはニヤリと不敵な笑みを向ける。
(セフィラス殿下は誰よりも帝国の事を考えてらっしゃるのかも。
皇太子の正妃が他国の姫となれば、帝国にとってこれ以上ない友好関係が築けるわ)
セフィラスにとって婚約結婚は帝国の為の職務でしかないという事だろうか。
容姿端麗なセフィラスと、政略結婚でもいいから結婚したいという女性は多いはずだ。
「皇太子殿下!お考えはご立派ですが、その役目はオーウェン殿下かサイシェル殿下ですぞ。
ワシらは帝国内の令嬢との婚約を諦めておりません。」
一人の大臣が立ち上がりセフィラスに向かって熱く語ると、セフィラスは「やれやれ」と呆れ顔で大臣を見る。
派閥の大臣達が『役目』の言い方にムッとして、すごい表情で睨らんでいる。
大臣はセフィラスの呆れ顔も、派閥の大臣達の睨み顔も、ものともせずルシャーナに話しかける。
「時にルシャーナ殿。爵位の幅を広げて婚約者の候補の探してみよう思うのだが、
また鑑定していただけますかな?」
「えっ…お断りします。人数が多すぎます。他の鑑定士をあたってください。」
「報酬は今日の2倍…いや3倍出そうではないか。」
(ぐっ…さ、3倍…)
ほんの少し前に、破格の報酬に惹かれて依頼を受けた事を後悔していたのに、
ルシャーナは今また同じ過ちを繰り返そうとしていた。
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