報告
どのくらいの時間、ベンチでぼーっとしていたのだろうか。
いつの間にか寝ていて夢でも見ていたのかもしれないと淡く期待したが、平皿に残る一口分のケーキを見て、現実に起きた事だったんだと痛感した。
(ケーキに罪はない、ちゃんと最後まで食べよう)
ルシャーナは残っていたケーキを口に含む。
少し乾燥していて口の中でボソボソしたが、それでも美味しかった。
気が付くと舞踏会の賑わいが聞こえなくなっていた。
既に舞踏会はお開きになっているのかもしれないと思い、ルシャーナは慌ててベンチから立ち上がり会場に戻る事にした。
庭園を移動し会場近くにある植え込みの間から、会場の様子を伺う。
舞踏会はお開きになったばかりのようで、会場の出入り口は馬車待ちの招待客で混雑していた。
その中にフレデリック達もいるかもしれないと思い、人がはけるまで植え込みに身を隠す事にした。
暫くすると騒がしかった会場も、徐々に静かになってきた。
植え込みから会場を見ると招待客が居なくなっており、大臣達がきょろきょろとしていた。
ルシャーナは自分を探していると気付き、大臣達の元へと急いだ。
大臣達に案内された来賓用の応接室に入ると、豪華な一人用ソファにセフィラスが座っていた。
セフィラスの姿を見付けて、心臓がドクリと跳ねる。
(やっぱり同席してますよねー…)
セフィラスとの運命の糸を思い出し、少し手が汗ばんできた。
ふるふると頭を振って記憶から追い出す。
促された席に座ると、紅茶とお茶菓子が出てきた。
先ほどのケーキで口の中が乾いていたのもあり、まずは紅茶を一口飲む。
ルシャーナが紅茶を飲むのを待って、大臣達が矢継ぎ早に聞いてきた。
「さぁさぁ、婚約者候補の令嬢達の中に最良の相手はいましたかな?」
大臣達はいまかいまかと、ルシャーナが話すのをじっと見ながら待つ。
セフィラスもソファに肩肘を付き頬杖をしながら、こちらを興味深そうに見ている。
「相性ですが…0~100の数値で表現致します。
ただ、その数値はおおよその値となりますので、それはご了承下さい。」
(まぁ、私には実際に数値で見えているんだけどね)
汗ばむ手をグッとにぎりしめ、鑑定の結果を大臣に伝える。
「残念ながらセフィラス殿下と相性の良い令嬢ですが…候補者の中にはいらっしゃいませんでした。
一番良い相性の方でも48と半分を下回っております。」
皇太子派閥の大臣達が、がっかりしているのが見て分かる。
オーウェンとサイシェルの派閥の大臣達が目をギラギラさせて報告を待っている。
「オーウェン殿下とサイシェル殿下には相性が良かった令嬢が何名かいました。
令嬢はお名前でなく挨拶した順の番号でお伝えしますね。
オーウェン殿下は10番目の令嬢が87、18番目の令嬢が74、12番目の令嬢が67です。
サイシェル殿下は14番目の令嬢が89、5番目の令嬢が70、16番目の令嬢が68です。」
「おぉ!いい数値ですな」とオーウェンとサイシェルの派閥の大臣達から歓喜の声が零れる。
それをおもしろく思わない皇太子派閥の大臣達がじろりと睨む。
大臣達は相性の数値についていろいろとルシャーナに質問する。
きっと婚約に踏み切って良いかの判断材料にしたいのだろう。
「何か他に聞きたいことなどありますでしょうか?」
「私からもいいかな?」
相性の報告も、大臣達の質問も、静かに聞いていたセフィラスが口を開いた。
(気になる令嬢との相性が知りたいのかしら)
「ええ、セフィラス殿下。何でしょうか?」
「君は相性の良い相手が候補者の『中にいない』ではなく『中にはいない』と言ったが…、
候補者以外にはいたという事なのか?」
(---------!!!)
ルシャーナは全身からぶわっと冷や汗が出るのを感じた。
読んでくださってありがとうございます。
コメント、評価、ブックマーク、ありがとうございます。
とても嬉しく思っています。感謝です。
これからも頑張ります。