運命の糸
「さぁさぁ、婚約者候補の令嬢達の中に最良の相手はいましたかな?」
大臣達が矢継ぎ早に聞いてきて、ルシャーナの手がどんどん汗ばんできた。
何でこんなことになったんだろうと、この依頼を引き受けた事を心底後悔した。
汗ばんだ手を見ながら、何と答えるのが一番良いのかを考えていた。
ルシャーナには、皇太子の小指から伸びている七色に輝く糸のようなものが、自分の小指とつながっているのが見えていた。
(さすがに皇太子の最良の相手は私で、しかも運命の相手でもありますなんて言えないっっ!!!)
***
ある日、伯爵令嬢ルシャーナの元に皇室から相性鑑定の依頼がきた。
10日後に行われる舞踏会に皇太子セフィラスの婚約者候補の令嬢達が集まるから、その中でも最良の相手を鑑定してほしいとの事だった。
ルシャーナが12歳の時、ある事がきっかけで視覚的に運命の糸や相性などが見えるようになっていた。
常に見えているわけではなく、確認したい相手を認識して意識すると見えるため、日常生活に特に支障はなかった。
いずれくる未来のためにお金を貯めておきたかったのもあり、その能力を活かし相性鑑定を始めた。
辺境の地の伯爵令嬢がやっている相性鑑定の存在を皇室が知っていたことに驚いた。
評判が良かったのは確かだが皇室まで話が行っていたとは。
どうしようかと悩みながらも、破格の報酬に目がくらみ依頼を引き受けた。
帝国内から家柄が良い令嬢達を招待し、皇宮で舞踏会が開かれた。
表向きはセフィラスの生誕を祝ってみんなで踊りましょうというとなっているが、セフィラスと婚約者候補の令嬢達との顔合わせが目的だと皆が気付いていた。
爵位が伯爵であるルシャーナは、皇宮で開かれる舞踏会とは縁がなかった。
今までに食べたことがない美味しい料理に感動して、この依頼を受けて良かったと思っていた。
(ん~最高に幸せ!)
デザートのケーキを口にふくみ、感動と幸福感と噛みしめながら、ルシャーナはこの後の事を考えていた。
もう少ししたら皇帝と共に皇族が会場に入り、20名ほどいる婚約者候補の令嬢達が一人ずつ挨拶するので、その時に相性を確認するのだ。
美味しい料理とデザートを堪能したルシャーナは、そろそろと会場の隅に移動した。
玉座が見渡せて、向こうからは柱があって死角になるあたりだ。
会場の隅に佇むルシャーナに目もくれず、招待客達は舞踏会を楽しんでいた。
存在が気付かれにくくするため、色もデザインも地味なドレスにして正解だった。
会場の熱気が上昇したのを感じ、会場の入口を確認すると皇帝と皇族達が会場入りしていた。
皆、頭を下げているのでルシャーナも頭を下げた。
皇帝が玉座に着き、皇族もその両脇に並んだのを待って、皆が頭を上げ始めた。
隅にひっそりと佇むルシャーナの側に、そそそと大臣が近づいてきた。
最初に依頼してきた皇太子派閥の大臣だ。
「今日はよろしく頼みますぞ。」
「ええ、お任せください!バッチリ相性鑑定を致します。」