第3章 「伸びろ蛇腹剣、必殺のスパイラルバインド!」
私とビアンカさん、そして部下である下士官達との連携攻撃が実を結び、サイバートリケラトプスのドリルミサイルは見事に無効化出来たんだ。
正しく、友情と絆がもたらした快挙。
正義の誓いを同じくする防人乙女の面目躍如だね。
「ガオオオンッ?!」
ところが、補助用の人工頭脳という枷が失われた事で、積み重なったダメージに耐えかねたサイバー恐竜が、苦痛の余りに暴れ始めたんだ。
とはいえ人工頭脳ユニットの破壊は、ドリルミサイルを封じる以上は避けては通れないプロセスだから、その点は対策済みなんだけど。
「頼んだよ、ビアンカさん!」
「OK、最後の仕上げデス!フレキシブルソード・スパイラルバインド!」
その対策の要こそ、ビアンカさんのフレキシブルソードだったの。
多節鞭に変形させた刀身が、グルグルと渦を巻くようにしてサイバー恐竜へ襲い掛かっていく。
その螺旋状の軌道は、まるで新体操のリボン演技を思わせる程に、鮮やかで美しい物だったんだ。
「OK!捉えましたヨ、そのデッカイ図体をネ!」
「ウガッ?!ガオオオンッ!」
フレキシブルソードの刀身を全身に巻き付けられ、動きを封じられたサイバー恐竜が、苦悶の悲鳴を上げているよ。
苦痛に耐えかねて無理に身体を動かせば、多節鞭と化した刀身が皮膚に食い込み、更なる苦痛を産む事になるのに。
それでも身動ぎせずにはいられないなんて、理性無き野獣の悲しい本能だよ。
「今ですヨ、ユリカ!殺戮ショータイムの御時間デ~ス!」
「よしっ!ここまで来れば!」
こうして敵の飛び道具を無力化した以上、私も晴れて陽動役から解放されて、アグレッシブに戦う事が出来る。
それを思うと、胸も声も自ずと弾んで来るよ。
「Go、ユリカ!サクッと殺っちゃって下サ~イッ!」
「うん!任せてよ、ビアンカさん!」
戦友の言葉に力強く頷いた私は、一気に距離を詰めたんだ。
「明王院ユリカ准佐、推して参ります!」
目指す相手は、手負いのサイバートリケラトプス。
血湧き肉踊る瞬間とは、正しく今だよ。
「ギロチンサイト・血風獄門斬!」
そうして頭上に敵を見据え、手にした大鎌を一閃!
「ガッ…!?」
人工頭脳の補助を失った今、サイバートリケラトプスの反応速度は往時の半分にも満たなかったようだ。
何の抵抗もなく、刃の洗礼を受け入れたのだから。
「うおおっ…!」
確かな手応えを感じなから、私は手首のスナップを利かせて、黒光りする刃で弧を描いたの。
金属細胞と装甲に守られた重厚な皮膚を切り刻む感触が、ギロチンサイトの柄から生々しく伝わってくるよ。
「たあっ!」
止めの一撃とばかりに鼻先を蹴り上げた私は、その反動を利用して大きく後ろへ飛んだ。
そうして錐揉み回転の体勢で宙を舞い、充分な間合いを取って大地へ音もなく降り立ったんだ。
「むっ…!?」
私は奥河内の大地を力強く踏み締め、ギロチンサイトを構えて敵手へ視線を走らせたの。
何せ私達が戦っていた相手は、太古の恐竜と科学兵器の融合した強力な戦闘生命体だよ。
どれだけ破壊力の高い攻撃を叩き込んだとしても、用心するに越した事はないじゃない。
だけど、どうやら私の心配は杞憂で終わったみたいだね。
「グボッ…カハッ!」
断末魔の短い呻きと共に、サイバートリケラトプスの嘴から鮮血が迸る。
太くて厳つい首筋に目をやれば、ピシッと走った赤い線がみるみるうちに広がり、そこからオイルと鮮血の混ざり合った液体がドッと噴き出したんだ。
そうしてスッパリと切断された首級がグラリと傾き、重量感に満ちた音を響かせて、アスファルトの路面へと落下する。
首を落とされた胴体もまた、地響きを伴いながら大地へ力無く倒れ伏した。
「敵サイバー恐竜の撃破を確認!直ちに、冷凍弾による死体の凍結処分に入って下さい!」
「はっ!承知しました、明王院ユリカ准佐!」
全身の至る所で小爆発を繰り返しているサイバー恐竜の死体を見据え、私は部下達に命令を下した。
「グレイト!やりましたネ、ユリカ!」
フレキシブルソードの刀身を縮めて格納した戦友の声は、何とも誇らしげに弾んでいたんだ。
「ええ!私達の勝利ですよ、ビアンカさん!」
それに応じる私も、満面の笑みを浮かべていたに違いない。
こうして正義の為に敵を屠った時の高揚感は、他ではちょっと味わえないよ。
白い遊撃服と私達の頬を赤々と照らす爆炎と閃光も、黒いセーラーカラーを揺らす硝煙混じりの熱風も、全てが実に心地良いな。