第2章 「増産されるドリルミサイル 唸れ、フレキシブルソード!」
しかしながら、まだまだ油断は禁物だよ。
「くっ…またしても!」
私が三発のドリルミサイルを大鎌で叩き落としたとみるや否や、すぐさま新手を発射してきたんだからさ。
金属細胞の急速培養と、3Dプリンターの原理を応用した体内工場。
これらの驚異のメカニズムによる、弾薬の無尽蔵製造。
実弾兵器を搭載したサイバー恐竜の持つ特性は、確かに厄介だったね。
「おのれっ、性懲りもなく!」
こうしてギロチンサイトで随時迎撃してはいるんだけど、敵への決定打をなかなか決められないんだから、もどかしくって仕方ないよ。
だけど、やられっ放しじゃいられない。
こちらにも打つ手はあるんだ。
理性を欠いた機械の獣には決して成し得ない、万物の霊長である人間だからこそ出来る対処法がね。
「今デス、滋賀里見世子分隊長!奴の脳天を狙うのデス!後の始末は、このワタシが付けてやりマスヨ!」
「はっ!承知しました、ビアンカ・ランシング上級大尉!」
そう、戦友や部下との連携だよ。
支局より直接出撃した本隊に参加していた同期の特命遊撃士が、援護射撃を特命機動隊に命じたんだ。
「徹甲弾、撃ち方始め!」
「承知しました、滋賀里見世子准尉!徹甲弾、撃ち方始め!」
分隊長である滋賀里見世子准尉の号令一発。
特命機動隊員達の構えたアドオングレネード付きアサルトライフルが一斉に轟き、サイバー恐竜の脳天に苛烈な集中砲火を食らわせる。
この手厚い支援攻撃が期待出来たからこそ、私はドリルミサイルに真っ正面から向かえたんだ。
それもこれも、サイバートリケラトプスの後頭部を事前に連携で攻撃し、角竜特有の大振りなフリル内に組み込まれていたレーダーを破壊出来ていたからだね。
あのレーダーシステムが未だに生きていたら、今のような後方や側面からの波状攻撃は難しかったろうな。
そうして黒い爆煙が収まった頃には、サイバー角竜の頭部は著しく損傷し、補助用の人工頭脳と思わしきコンピューターユニットまでもが露出していたのだ。
あのコンピューターユニットこそ、金属細胞の培養とドリルミサイルの製造を司る器官に違いない。
「ナイスシュート!後はワタシにお任せネ!」
この快挙に気を良くしたのだろう。
私の同期生である金髪碧眼の特命遊撃士がまくし立てる英語交じりの日本語は、贔屓のスポーツチームが得点を入れた時のサポーターよろしく弾んでいた。
「レディ…ゴウッ!」
クラウチングスタートの姿勢で大地をダッと蹴り上げたビアンカさんは、修羅の巷と化した奥河内の道路を一気に駆け抜ける。
「ポップ、ステップ…」
短距離ランナーを思わせるランニングフォームに、軽やかでリズミカルな足音。
どれを取っても、実に美しいね。
「仕上げは…ジャ~ンプですヨ!」
そうして充分に助走を付けた少女士官は、美しいブロンドを靡かせて空中へ舞い上がったの。
「よくもワタシ達の管轄地域で、好き勝手な真似をしてくれましたネ!コイツはそのお礼で~スッ!」
裂帛の気合いと共に押された柄のスイッチで、ビアンカさんの手にした剣の刀身がニョキッと延びる。
「ヘイ!とっとと地獄へ落ちなサ~イ!」
無数の関節を持った鎖状の姿へ変形した刀身は、真下にいるサイバー恐竜の脳天へと襲い掛かったんだ。
「フレキシブルソード・スネークアタック!」
雄々しくも澄んだ叫び声が表す通り、その動きは正しく、獲物を狙う蛇のようだったの。
ある時は剣、またある時は鞭。
戦局に応じて蛇腹状の刀身を自在に変形させるのは、フレキシブルソードの効果的な運用方法だよ。
「グオオオッ!?」
フレキシブルソードの切っ先が脳天に突き刺さった瞬間、小爆発を伴奏にサイバー恐竜が苦悶の絶叫を上げた。
ショートした集積回路から上がる火花と黒煙を見れば、ドリルミサイルの製造を司るコンピューターユニットが滅茶苦茶に壊れているのは明白だった。
その証拠に、先程までは無尽蔵に連続発射されていた角のドリルミサイルも、今じゃ再装填される事もなく沈黙しているよ。
「OK!手応え有りですヨ~ッ!」
フレキシブルソード使いの少女士官がまくし立てる北米訛りの日本語も、自身の挙げた戦果に明るく弾んでいるね。