〜仕返し?〜
アガツとエリーゼさんが驚いた後、俺たちは夕食を食べる。
うん、今日のカレンのご飯も美味しい。
てか、カレン凄いな。
ダンジョン行ってから、ご飯作るなんて。いくら好きでやっていることだろうとも、俺には無理だ。
カレンが食器を下げて、台所まで持っていき、食器を洗おうとする。
うーん、流石に皿洗いまでさせては、カレンの負担が大きすぎるよな。
そう思い俺は席を立ち、カレンの居る台所へと向かう。
「どうしたの、シキ?」
「いや、皿洗いやろうかな?って思って」
「え?あ、ああ。別に大丈夫よ」
「じゃあ手伝わせてくれ。それくらいなら良いだろ?」
「う、うん。わかったわよ。
なら、洗ったお皿をそこの布巾で拭いてもらえる?」
「わかった」
カレンの許可が降り、俺は皿を拭いていく。
2人して台所に立ってるのなんて、何年振りだろうか。
後ろでは「仲良いわね」なんてエリーゼさんが言っているが、無視。聞こえない。
水の音と、皿を拭く音だけが聞こえる。
そして隣にカレンが居る。
それだけで不思議と落ち着く。そんな時間。
「ね、こうして台所に並んで立つの、何年振りかな?」
カレンが俺に聞いてくる。
俺は自分がさっき考えていたことと、同じことをカレンも考えていたことに、嬉しくなった。
でも、正直に言うのは、なんだか悔しいので、少しふざけてみる。
「え?何…カレン…もしかして、エスパー?」
「はぁ?エスパーって何よ、エスパーって」
「いや、俺の考えていたことを、どんぴしゃで当ててくるんだもん。そりゃ怖いって」
「ふふ、そんなんだ。シキも同じこと考えてたんだ」
そう言ってカレンはお姉さんぽく笑う。
本当に台所に一緒に立ったのはいつ以来だろうか。
子供の時だったろうか。
アガツの家に住まわせて貰ってからはあっただろうか。
俺が1人で皿洗いすることはあっても、カレンと一緒にご飯を作ったりしたことは無いはずだ。
思い出せない。
でも、思い出せないことって言うのは、思い出さなくて良いことなのかもな。
そう思いつつ、水の音と、皿を拭く音だけが聞こえる心地よい時間を楽しんでいた。
*
エリーゼさんが家に帰り、俺は風呂掃除をしていた。
魔術が使えたらすぐなのかなー、なんて毎回思いつつも、手に雑巾を持って洗う。
とりあえず大雑把に綺麗になったところで、カレンを呼ぶ。
「カレン、お湯を頼む」
「うん。ウォーター」
そう言って、まず風呂に水を張る。
「ヒート」
その後、水に熱をかける。
「はい終わり」
「うん、ありがとう」
と、まぁなんとも魔術が使えれば簡単に、お風呂にお湯が張れるのである。
アガツも俺も魔術が使えない為、こういうことは、全てカレンに任せるしかない。
風呂の時だけでは無いが、カレンは他の家事も魔術を使って、簡単に時間短縮している。
俺はそれを、楽そうだな、なんて思いながら、眺めている。
しかしカレンは、料理だけは魔術を使わない。
理由を聞くと、「魔術を使った魔術料理より、手を使った手料理の方が美味しいでしょ?」と言う。
魔術料理なんてのはカレンの造語だが、カレンの手料理が美味しいのは確かである。
まぁ、料理の話はさておき、こういうちょっとしたことも、魔術でできてしまう。
少しでも魔術が使えれば良かったな、なんていつも考えている。
「何、考えてるの?」
「いや、別に」
とは言え、こんな簡単にお湯を張れるのは、カレンくらいなもので、みんながみんな青と赤の魔術が使える訳ではないから、井戸から水を運んでいたり、火をたいてお湯にしたりする。
カレンが居れば大抵の家事は楽にこなせる!
一家に1人カレンちゃんはいかが?
「次はな〜に考えてんの?」
「い、いや、別に、何も」
ちょっと変なこと考えてると、すぐ勘づきやがる。
俺もしかして顔に出やすい?
別に良いじゃねーかよ、考えるだけならタダだし、言わなければ、怒られることも無い。
「ま、いいわ。今日は私が先に入っていい?」
「え?ああ、良いぞ」
「ありがと。実は汗でベタベタだったんだー。
じゃあ先にいただきます」
「うん」
そう言って俺は、脱衣所から出て、リビングへ。
アガツはソファーで横になって寝ていた。
後で起こさないと。
とりあえず俺は自室へと戻り、夏雨を取り出し、鞘から抜く。
「美しい…」
何度見ても、美しい。
剣より、薄く、細い。それなのに今日の戦闘でわかった。
折れず、曲がらず、よく切れる。
あの鳥、ブルーファルコンの翼を根元から斬れるとは思っていなかった。
あれだけの戦闘で刃こぼれの1つも無い。
アガツの打った刀は凄いなと、改めて思わされた。
そんなことを考えていると、扉を叩く音がした。
「出たわよ」
カレンが一言言ってくれる。
「わかった。じゃあ入ってくる」
そう言って、カレンの横を通り過ぎ、風呂場へ。
脱衣所で服を脱ぎ、湯船に浸かる。
はぁ〜
今日は疲れた。
初めてのダンジョンで、鳥やろう基、ブルーファルコンを倒した。
それに倒し方が豪快だったよな。
俺自身あんなに跳ぶなんて思ってなかったし。
そりゃあアガツもエリーゼさんも驚くよな。
はぁ〜眠い。
っと、風呂で寝たらダメだ。早く出よう。
俺は風呂を出て、アガツを起こした後、自室へと戻った。
「あ、おかえり。今日は早かったのね」
なんで?
「さてと。ん?どうかした?」
どうして?
「どうしてなんにも言わないの?」
「どうしてカレンが俺の部屋に居るんだ?
それにどうして俺の布団の中に居る?」
そうなのだ。
カレンは俺の布団の中に居たのだ。
部屋に入ったら声が聞こえてきたからびっくりして、何も反応できなかったよ!
「どうしてって、どうしてだろ?へへ」
へへってなんだ、へへって!
くそ!いつもお姉さんぽく振舞ってる癖に、ふとした時子供っぽくなるの反則だろ!
「まぁもういいけど、とりあえず俺疲れてるから、早く寝たいんだけど…」
「寝たら良いじゃない」
「だから!カレンが居たら寝れないだろ!」
「え〜?私居たら寝れないの?
この前一緒に寝たのに?」
「いや、あれは…」
「まぁ良いから早くこっち来なよ」
そう言ってカレンは掛け布団をめくり、トントンと俺に来るように促す。
カレンのパジャマは相変わらずの白。
「あのー、本気、ですか?カレンさん?」
「……本気じゃ無かったら…こんなことしてない…」
あー!もう!どうして顔赤らめる!
どうしてさっきまで余裕っぽく振舞ってたのに、いきなり照れる!
「はぁ、もう分かったよ」
俺は折れた。
そしてカレンの隣へ寝転がり…
「ね、ねぇ、シキ?
ど、どうして、こっち、向いてるの??」
「え?別にどっち向いたって、俺の勝手だろ?」
そう、少しだけ仕返しをした。
と言っても、カレンの方を向いて、余裕な態度を取るだけ。
それでもカレンは良い反応をしてくれる。
「いや、そうだけど、そうだけど〜〜〜〜〜」
「別に嫌ならカレンが向こう向いたら良いだろ?」
「え?いや、それは、なんか負けた気がするし…」
なんだよ、負けた気がするって!
俺が負けそうだわ。
仕返しのはずが、仕返しされそうになっているのだが…
まだだ、俺は余裕だ。
おちゃらけるんだ。
「なに、その負けた気がするって。
我慢大会か何かかよ」
「うーん、ある意味そうかも」
「どうしてだ?」
「向こう向いたら、シキの顔見れない…」
え?
いやいやいや、いやいやいやいや。
そこまでストレートに言われると、余裕な態度取れなくなるんですが??
あー、なんか今日暑くない?
「そ、そうか…」
そうかってなんだよ、そうかって。
どもるし。
余裕もへったくれもねーなおい!
「うん、この前はシキ、すぐそっぽ向いちゃって、顔全然見れなかったし」
ダメ!もうこれ以上は、これ以上は!
「すいませんでしたカレンさん」
「ふふ、私の勝ち!」
俺はカレンより先に逆方向を向いてしまった。
カレンは、嬉しそうにお姉さんぽく笑う。
「おやすみ、シキ」
そしてカレンはまた俺に抱きついてきて、俺を抱き枕のようにする。
「ああ、おやすみ、カレン」
ああ、また眠れない夜を過ごすことになりそうだ。
明日はダンジョン潜れるかな…
アガツ「上でイチャイチャしてんじゃねぇ!」