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〜それぞれの夜〜

冒険者カード的な物を作った俺たちは、アガツとエリーゼさんに言われて、今日は帰ることになった。

俺は早くダンジョンに行きたいのに。

そして『9層者』を目指したい。

師匠がなったのなら俺も、と思うのは自然な事だ。

しかしアガツは、ダメだと言う。

今日は大人しく帰るぞと。


「どうしてだよ?」

「いやお前、武器どうするんだよ」

「あ…」

「まさか素手で行こうとしてたのか?

格闘家ならわからんでも無いが、お前は違うだろ」

「違う…」

「だろ。格闘家でも無い限り、武器なしでダンジョンへ潜るなんざ、馬鹿のやることだ。

わかったなら大人しく帰るぞ」

「わかったよ。でも武器はどこで調達するんだよ」


俺は失言したと、言った後思った。

アガツからの怒声が飛んでくる、そう思った瞬間、エリーゼさんは笑っていた。


「あはははははははは!!!!

シキ、お前、武器どこで調達するんだって、ははは。

目の前に鍛冶屋いるじゃん、ははは!」

「お前はなぁ…」

「あ、それともアガツの腕じゃ不安だって?

不安なんだってアガツ、ははは!お腹痛いいいい。あははははは!」

「うるせぇぞエリーゼ!

それにシキもだ。お前俺の武器じゃ不満か?」

「そ、そんなこと…」

「なら、黙って俺の武器使え!」

「はい!」


結局怒られた。

エリーゼさんはまだ笑ってるし。

カレンは微妙な顔をしてるし。

でも、アガツは俺にアガツの武器を使うことを許してくれた。

素直に嬉しかった。

エリーゼさんはひとしきり笑ったあと、俺の方へ寄ってきて、一言。


「よかったなシキ。武器作ってもらえるって」

「はい。あれは失言でした」

「だよね〜。でも良かったじゃん」

「はい、エリーゼさんのおかげです」

「じゃ、貸し1つね」

「は、はい…」


あ〜、1番貸しを作りたくなかった人に貸しを作ってしまった。

何を頼まれるのだろう。後が怖い。



エリーゼさんに笑われた後、俺とアガツはそのまま家へ、カレンとエリーゼさんは「女子同士の秘密よ」とかなんとか言って、どこかへ行ってしまった。

カレンは今日帰ってこないだろう。

アガツが夕ご飯を作ってくれ、夜になった。


「シキ、着いてこい」


そう言われ、俺はアガツの工房へ足を運ぶ。


「シキ、木刀の具合はどうだった?」


新しい武器のことを尋ねられた。

なるほど、どういう具合だったか知りたかったのだろう。

しかし、それならば何故ここで?

とりあえず、使い心地を伝える。


「良かったです。軽いですけど、丈夫で、力というより、疾さ、技が必要になってくると思いました。

そこまで力が無い俺には合ってると思います」

「そうか。木剣を木剣で折る力が、無いとはあまり思わんがな。シキが思うのならそうなのだろう」


あ〜そういや木剣折ったんだったわ。

だけど、あの時だけだったし、アガツなら受け止められると思ったから、あれだけ力を出せた。

カレンには、そこまで力が出せなかった。

無理だよ。


「まぁいい。それより、お前さんに渡さなくてはいけないものがある」


なんだ?あ、武器!

やった!なんだろ?

でもアガツが作った武器だ、どれも一級品。

剣かな?剣が良いな。


「これだ」


鞘に入った剣?が渡された。


「抜いてみろ」

「はい」


俺は剣を抜いた。

刃は片方にしかなく、刃の先は反り返り、刃には美しい刃文が浮かび上がっていた。


「美しい…」


俺は思わず言葉を漏らしていた。

この世にここまで美しいものがあるのか、と。


「そうだろう。薄く、細く、美しい。

叩きつける、などと言った木剣の様な使い方はできずとも、強度は十分。

『折れず、曲がらず、良く切れる』とは良く言ったものだ」

「こ、これを、俺に?」

「ああ、そうだ。何年も前から東の国の剣を研究して、完成させた、俺の最高傑作の1つ。

名を『夏雨(なつさめ)』」

「夏雨」

「ああ、夏雨。気分屋のお前さんにはピッタリな刀だろう。

なぁ、シキ」

「はい」

「こいつと一緒に頑張れ」

「はい」

「こいつを、俺も見たことの無い場所まで連れて行ってやってくれ」

「はい」

「それと…」



アガツは少し迷いながらも、決心を決めたという風に、言葉を吐き出す。


「死ぬなよ」

「はい」


その後俺は少しおどけて見せて…


「だって、夜はみんなでご飯を食べなくちゃいけないですもんね」


アガツは少し照れていた様な、それでも嬉しそうな顔をしていた。



カレンとエリーゼは、エリーゼの家に居た。


「エリーゼさんの家は何度か来たことありますけど、今日は久しぶりですね」

「そうか。まぁ上がってよ」

「はい。…お邪魔します」


エリーゼの家は、他の家と同じように木製だが、他の家より少し大きい。

しかし中は、相も変わらず、エリーゼが飲み食いしたであろうものが、そのまま残っていた。

カレンは少し顔を引き攣らせながらも、エリーゼの家に。


「この前片付けたんだけどね。すぐこんなんになっちゃって…」


言い訳をするエリーゼは苦笑いしていた。

カレンはどこへ座れば良いのかわからなかった。


「あ〜ごめんねカレンちゃん。今日はこっち」


エリーゼに言われ、カレンはエリーゼの家で唯一入ったことの無い部屋に連れられる。

そこは他の部屋とは異なり、綺麗に整理されていて、いや、逆にされすぎている。

部屋にはベッドと数冊の魔術書のみ。

殺風景にも程がある。


「ここはね、あたしの寝室。って言っても何も無い」


カレンは少し不安になった。しかし次の言葉で、その不安は別の不安へと変わる。


「何にも無い。あたしみたいだ。

見回り隊と言っても、非正規。いわば傭兵みたいなもの。

アガツのように、鍛冶という仕事も無い。

それに、カレンちゃんや、シキくんのように、誰かを守りたいって言う、強い意志も無い。

何も無いから、何かあるように見せかけて、部屋を物でいっぱいにしたくなる。

誰かと関わることで、何かあるように見せかける。

本当のあたしはなんにも無いのにね」

「そ、そんなこと…無いと…」

「無いこと無いんだよね。

今だって空っぽの笑顔を貼り付けてる。

いつも空っぽの笑顔を見せてる。

だからね、私はカレンにこの部屋を見せて、言わなきゃいけないことがあるの」


エリーゼはこれが最後の授業だと、特訓だと言わんばかりに、カレンに言う。

その顔は少し辛そうで…


「カレン。

昨日のカレンからは、想像できない程良い目になった。

今のカレンなら、絶対に死ぬことは無い。

なぜなら、今のカレンは守りたいものをどうすれば守れるか、それが明確にわかったから。

何かあるなら、その何かを手放さないようにしな。

そうじゃないと一生後悔することになるよ」


エリーゼの言葉はカレンに突き刺さる。

昨日、エリーゼから、死ぬと言われ、シキに励ましてもらい、絶対に死ぬことは無いと言われた。

それは素直に嬉しかった。

しかしカレンはエリーゼの言葉が全て真実とは思えなかった。


「エリーゼさんは、空っぽなんかじゃないと、思います」

「…そう」

「はい。エリーゼさんには、私がいます」

「すぐに離れていくよ」

「そうかもしれません。私はシキを守らなくちゃいけないので」

「ほら。どうせみんなあたしから…」

「でも!」


エリーゼはカレンが言葉を遮り、大きな声をあげたことにびっくりしてしまった。

カレンは普段大きな声は出さないし、ここまで強く言われたことは初めてだった。


「私も、シキも、エリーゼさんの元を離れる時が来るかもしれません。

でも、アガツさんだけは別です。

あの人はなんだかんだ言っても、私たちを心配してくれています。

私たちの側にいてくれます」


カレンはアガツのことを信頼している。

村が襲撃され、全焼した時、何故かアガツが居て、運良く助けられて、その上家に住まわせてもらった。それは今も続いている。

普通、そんな意味の無いことはしない。

助けたのなら、売ればいい。

それでも、アガツはそんなことせず、シキの師匠になり、カレンにエリーゼを紹介し、シキとカレンの親代わりになった。

その恩を強く感じているカレンだからこそ、アガツのことを強く言える。


「アガツさんは、関わった人を関わり続けるまで見捨てたりしない。

だからエリーゼさん、あなたにはアガツさんがいます。

それにまだ私たちもいます。

何も無いなんて、そんな寂しいこと言わないでください」


何も無いと思っていたエリーゼは、カレンの言葉で気付かされる。

同じパーティから離れてしまってからは、接点が無かった。

カレンが現れてから、また接点が持てた。

1度空っぽになったエリーゼの元にアガツが現れた。

だから何も無いなんて、嘘だった。

そう思い込んでいただけだったのだと、気付かされた。


「……ふふ。そうだったのね」


エリーゼはカレンに聞こえないように呟く。

カレンは、何を言ったのか聞こえず、どう対応すればいいかわからなかった。


「いや、男に慰めてもらった女は強いなって」


それでも、今までの性格は直ぐには変えれず、またおどけてみせる。

するとカレンは顔を真っ赤にした。


「何顔を真っ赤にしてんのよ。

そんなの初めからお見通しだったんだからね。

今更よ今更」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

「さぁーて、昨日何があったか根掘り葉掘り聞かせてもらうよ!

今日は帰さないからね!」


カレンはさらに顔を真っ赤にし、もうエリーゼの顔は見れないとばかりに、顔を逸らす。

エリーゼカレンのその仕草が可愛く、またからかいたくなったが、さすがに辞めた。

その代わり、心で呟く。


『カレン、ありがとう』と。

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