〜ギルド〜
「…うーん」
俺は起きれなかった。
というか、目は冴え渡り、頭はフル回転しているが、体が起こせない。
「……ふふふ」
何笑ってんだこいつ。
俺は未だカレンの抱き枕となっていた。
早朝なので、まだカレンが起きる時間ではない。
俺は結構遅い時間に寝たはずなのに(実際は首を絞めて自分で自分を落とした)、こんな時間に起きるなんて。
にしてもこれは些かきついものだ。
体勢がきつい。
色々なところが痛い。
しかしカレンが幸せそうに寝ているため、この体勢を変えることができない。
そしてまずい。
非常にまずい。
ナニがまずいとは言わないが、まずい。
「…ん!」
ギューーーーーっ!
きついきついきつい!
痛い痛い痛い!
俺はカレンが早く起きてくれることを願うしか無かった。
*
「あ、シキおはよ〜」
「お、おはよう…」
「どうしたの?朝からしんどそうな顔して」
「色々と察してくれ…」
「ん?変なの。まぁいいや」
よくねーよ。
俺の睡眠時間返せよ。
「私ご飯作ってくるけど、シキはどうする?」
「俺も一緒に下降りるわ。ここ居たら寝そう」
「そう」
「ま、下のソファで寝るだけだけど」
「結局寝るのね」
カレンは、はぁ、とため息をつく。
誰のせいだ誰の!
俺は寝不足なんだよ!
ま、そんなこと言わないが。
そんなこんなで下へと降りる。
カレンが色々と準備を始める。
フライパンやら、食材やら。
ジュー、といい音が聞こえてくる。
この音を子守唄に俺は眠りへ…
「お、なんだシキ。今日は早起きなんだな」
落ちれなかった。
後もうちょいだったのに!
「うるせぇよアガツ。昨日寝れなかったんだよ」
「なんだ。もしや…」
「もしや?」
「もしや…」
もしや…なんだよアガツ!
早く言えよ。気になるだろ?
「もしや、今日ようやくギルドへ冒険者登録に行くから楽しみで眠れなかったのか?」
そうなのだ。昨日食堂で、明日、所謂今日にギルドへ冒険者登録をするために行くと決まっていた。
しかし、なんだよその眠れなかった理由。親に旅行とか、どこか遊びに連れて行って貰う前日の子供かよ!
ただ、その勘違いを利用させてもらう。
「そうだよ。悪いかよ」
「ふっ…ガキ」
「うるせぇ」
「シキは子供ね」
カレンまで…
だいたい誰のせいで…ってもういいわ。
とりあえず飯まで眠気を耐えなくては。
あ〜ダメだ。
寝転んだらダメだ。座ろ。
「はーいできたよー」
ナイスタイミング。
今出てきてくれないと寝てた。
「ありがとうカレン」
「毎日悪いな」
「良いんですよ、好きでやってることなんで。それよりアガツさんお願いします」
「うん。では、いただきます」
『いただきます』
今日はパンにバター、ほうれん草とベーコンのソテー。
うん、朝からオシャレ。そして美味い。
ガツガツガツガツ、手が止まらない。
「カレン、今日も美味しい!」
「え、あ、う、うん。そ、その、ありがと」
うん?何顔赤くなってんだ?
それに凄く噛んでるし。
大丈夫か?
そう思いながらカレンの方を見ていたらしい俺はカレンに、「何見てんのよ」と言われてしまった。
はぁ、今日は朝から調子が狂う。
「さて…と、朝飯も食ったし、行くかギルド」
「おう!」
「私も行きます」
「うん」
カレン、本当に冒険者になるつもりなんだ。
俺としては嬉しいばかりだ。
*
俺とカレンとアガツは出店や、商店が並ぶ道を通り、レンガ作りの多い地域へ。
その中でも木造で、一際大きい平屋であるギルドの前へと来ていた。
「おっはよ〜。みんな元気してた〜?」
ギルドの前にはエリーゼさんがいた。
「お、お前…仕事はいいのか?」
「いいのいいの。どうせ部下たちで片付けられるわよ」
「それはサボりだろ…」
「良いじゃない少しくらい。今日はシキの晴れの日なんだし」
「はぁ」
本当にこのエリーゼさんはアガツに対して強い。
まぁアガツが諦めている所もあるかもしれないが。
それより俺の晴れの日だなんて、照れる。
そんな時、カレンが口を開く。
「あ、あの。エリーゼさん」
「ん?なんだい?」
「…も」
「ごめん、聞こえなかったわ。もう一度お願い」
「私も、冒険者になります!」
「はぁあああああああああ!!!!!」
叫んだのはのはアガツ。
いや、そこまで驚かんでも。
ここ、ギルド前。うるさい。誰か来ちゃうでしょうが。
そんなアガツを他所に、カレンとエリーゼさんは話し合っていた。
「本当になるのね?」
「はい」
「死にたいの?」
「違います。私はシキを守ります。シキが死ぬまで私は死にません」
おーっと?なんだか重い話?
てかそこまで面と向かって言われると照れてしまうよ〜。
「ふっ、本気なんだね」
「はい、本気です」
「この1日で何があったか知らないけれど、もう大丈夫みたいね」
「そ、それなら…」
「良いわよ、カレン。あなたの望むがまま」
「ありがとうございます!」
「別に冒険者なんて、誰かに許しを貰って始める職じゃないしね。感謝なんて要らないわよ」
「それでもです」
2人は笑いあっていた。
こうしてみると、師弟関係というより、姉妹に見える。
「じゃ、じゃあカレンもなるのか?冒険者に?」
「はい、なります。アガツさん」
「そうか、頑張れ2人とも」
『はい!』
俺たちは元気よく返事した。
*
「さて、それじゃあこんな所で油売ってても仕方ない。中入るか」
「そうだね」
そう言って俺たち4人はギルドの中へ。
ギルドの中は、まず、受付があり、受付嬢がいた。
その隣は厨房だろうか。
このギルドは食堂も兼ねているということか。
厨房の前では、丸テーブルが15個程置いてあり、そこで冒険者達は卓を囲みながら、酒を飲んでいた。
ローブを羽織った魔術師がほとんどで、剣士や槍士、盾士、弓士などはあまり見かけない。
また反対側には、依頼書が貼ってある掲示板がある。
「とりあえず、受付行こうか」
「はい」
俺たち4人は受付へ。
しかし受付へ行く途中に、冒険者から色々な声が聞こえてきた。
「おい、9層者のエリーゼがいるぜ」
「あれは、9層者のアガツか?ウィークの9層者とかやべぇ」
「おい、あの魔術師の子可愛いな」
「うちのパーティー誘ってみるか?」
「いや無理だろ。どう見てもガード固いだろ」
「だからこそじゃね?落とせた時の達成感って言うかさ」
「お前1人でやってろ」
うーん、みんな噂されまくっているな。
俺のはなんもなし。
まぁこの面子だと仕方ないだろうな。
しかし、9層者って言うのはなんなんだ?
「よう久しぶりカトレア」
「あ、アガツ様。それにエリーゼ様も。今日はどうされましたか?」
「ああ、様は別に要らないんだがな。まぁいいや、いや〜、こいつらが冒険者になりたいって言うから、登録を、な」
「なるほど。わかりました。ではここに名前をお願いします」
「ほら、お前ら」
紙が1枚渡された。
そこには名前を書く欄が。
とりあえず『シキ』っと。
「はい、シキ様とカレン様でよろしかったですね?」
『はい』
「ではこのカードに、拇印をお願いします」
俺は針で親指を少し刺し、血が出てくることを確認すると、拇印を押した。
「はい、ありがとうございます。こちらのカード、紛失した場合、再発行致しますが、お金がかかるので、あまり無くさないでください。
またこちらのカードは、ランクの証明、ダンジョンからのドロップアイテムの交換、クエスト受注の際などに使用します。
ここまでよろしいでしょうか?」
俺とカレンは共に頷く。
「ありがとうございます。では説明を続けさせていただきます。
こちらのカード、御二方も『1層者』となっております。
これは、ダンジョンへ行っても良い階層を示しています。
ダンジョンは、1層、2層、3層とどんどん下へと降りる形式となっております。
その時、初めは1層まで、力が付けば、2層まで、といった風に到達できます。
もっと深くに潜りたい場合は、こちらのギルドが示すアイテムをギルドへ提出してください。
それで、次の階層へ行くことができます。
最大9層まで行くことができ、9層まで行けるもの達を敬意を込めて『9層者』と呼んでいるわけです。
あなた達も、『9層者』を目指して頑張ってください」
「はい!ありがとうございます!」
その後もどうやってクエストを受注すれば良いか、ここの酒場は朝でも、夜でも使っても良いことなどを教えてくれた。
にしても、アガツもエリーゼさんも『9層者』だなんて、凄すぎるだろ。
そんな人から教えて貰ってたのか俺たちは。
そう思うと何故か自分が誇らしく思えてきた。