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みえない聲   作者: 智和
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【序章】ノートと名前

 桜が舞う通学路。颯爽と駆け抜ける春風。父親に頼んで新調してもらった自転車は、高校生の自分にはまだ恥ずかしくも感じる白のクロスバイクだ。馴染んだ制服と使い古しのカバンを下げ、今日からまた新学期が始まる。

 俺は、幼い頃から面白いことを探すのが好きだった。雪の上に良く煮詰めた砂糖水を流し込むと飴ができる。蟻が毛虫を巣に運び込むとき、全ての毛を抜いて芋虫状態にする。何てことない日々が嫌だったからか、授業内容なんてそっちのけで、何か面白いことがあればいいのにと、窓から空を見上げて毎日のように考える。例えば、父親が再婚するとか。友達が下らない度胸試しをして怒られるとか。通学中に一目惚れするとか、されるとか。転校生がくるとか。

 高校2年生という肩書きは、ほんの少しくすぐったい。特に部活にも入らず後輩も先輩もいないが、自分自身がどこかでそれを意識する。校長からは中弛みに気を付けよと言われ、担任の八重悟 通称八重ちゃんからは新入生の手本となるようにと念押しされる。いつもと変わらない始まりだった。ホームルームは八重ちゃんの真面目な話と、それを茶化すクラスメイト達で成り立つ。いつもと同じ。休み明けだから懐かしい感じすらする。違うことなんて起こらない。そう思っていた。


「じゃあ、ここでサプライズといこうか。」


 八重ちゃんは騒がしいクラスを宥めるように言い、にやっと笑った。「入ってくれ」の合図の後で教室前方のドアが開く。そう言えば、いつから隣に机が増えていたのだろうか。そんなことを考えながら、教壇横まで歩くその姿を目で追った。全員の視線が釘付けなのが分かった。興味、好奇、恍惚、一驚、様々な眼差しが入り交じった先は、黒髪のマスクをした女子ただ一点。


「転校生だ。名前は、はせ ゆづき。」


 黒板に綴られた“馳 佑月”という、彼女の名前。馳さんは、小さくお辞儀をした。一瞬の間。そして矢継ぎ早に質問が飛び交う。とてもじゃないが答える時間もないほどに、クラス全体が彼女に興味津々だった。単純な質問から恋愛まで、その幅は広い。しかし、その声は八重ちゃんによって遮られる。


「彼女は、声が出せないのでそんなに早く答えられません。」


 しんとした空気の中、彼女はカバンからノートを取り出し、人差し指で軽く2回叩いた。これで返事をする、ということだろうか。そして振り返ってはチョークを手に取り、名前の横に、よろしくお願いしますと書き加え、再び小さくお辞儀をした。ポツポツと聞こえ出す、宜しくという声。温かく迎えられたその雰囲気に、なんとなく彼女の目元が緩んだ気がした。そして案の定、予め用意されていた隣の席がこれから彼女の居場所になる。


 ーーー馳です。よろしく。


 ノートの1行目は自己紹介。俺は小さく返事をした。


「さくま しょう。よろしく。」


 差し出されたノートに付け加えられたのは、汚い俺の文字。


 ーーー佐久間 しょう。


 高2の春に始まった、平凡が平凡でなくなる話。マスクで隠された口元と、澄んだ瞳が物語る、俺と馳の話。





《あとがき》


閲覧いただきありがとうございます。

作者の智和(ちわ)です。


本作品は、完全オリジナルとなっております。

ゆるゆる更新です。



声の出せない馳佑月と

面白いことが好きな佐久間しょう。

ありきたりな転校生という設定が、多分一番いいんだろうな。そんな感覚です。

あらすじには苦しい話と書きましたが、すこしファンタジーに近いのかも…。幽霊がみえるとか。オーラがみえるとか。そんな類いの。


しばしのお付き合い。ちょっとでも気に入っていただけたらいいな。


次回更新をお楽しみに。

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