表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹色の扉  作者: ひめみや
5/68

再会

十二月から一月にかけての休暇はゆっくりと過ぎて行った。


ホリデーシーズンに突入してから公開されたD映画のプリンセス・ストーリーを、小さな女の子達に紛れて鑑賞したり、大晦日にはアパートの掃除を済ませ、年越し蕎麦を食べ、家の近くから花火を見たりしたマキであった。


元旦はある日本人家庭に招待され、アメリカにて初の手作りおせち料理を堪能した。


当日、天気は見事に晴れ、ハイウェイを南へと向かいながら見えたものは雪化粧をした山だった。


当地の日系人に「富士の山」と呼ばれている標高4千メートル以上の山である。


この地域の山脈内の最高峰だ。


冬の間はカラリと晴れる日が少ないため、今年はよい年になる、という気がした。



楽しみにしていたハワイ旅行も終了した一月末のある日のこと。


マキの就業終了時間は五時。タイムカードを押して、オフィスを出る。


エレベーターを降りてから、ロビーでコンビニエンス・ストアを営む韓国人の主に日本語でさよならを言うことが日課になっており、それを済ませた後、ビルの回転ドアを抜けて外に出る。


朝とは違って、ハイウェイ公園とコンベンション・センターの下を通ってから帰るのだ。


コンベンション・センター内の長いエスカレーターに乗っていると、男が真横を過ぎて行った。


ん?と首をかしげる。男はミスター・ローヤーに似ているではないか。


しかし、彼に初めて会ったのは約一カ月前のことなので、早歩きで歩くその姿に確信がなかった。


マキも脚を早め、追いかけた。


同じような黒いコートにおじさんが持つような革のバッグにも見覚えがある。


そして、見間違えるはずはないプラチナ・ブロンドの髪。


(やっぱり、彼だわ)


と、マキはまた脚を早めた。


ドアに到着すると、せかせか歩いていた彼はくるりとこちらを向き、尻でドアを開けて見せた。


しっかりと目が合った。


だが、彼は何も言わず、またくるりと進行方向を向き、どんどん歩いて行ってしまった。


(な、なにー、今の?あたしのこと覚えてないってこと???)


彼女もこの間と同じ黄緑色のダッフルコートを着ているのだ。


会話もしたではないか。


覚えてないわけないではないか。


タヌキにばかされたような気分になって、彼女はこういう結果に達した。


(あの人は石畳の君じゃないわ。


彼の君はあんなにせかせか歩かないもの。


ゆったりとした歩調で歩いてくるのよ)




◆◇◆




一週間が過ぎた。


昼休み、マキがエレベーターを降りてロビーへ出ると、ミスター・ローヤーも上層階用のエレベーターから降りてくるのが見えた。


既に彼は自分の待ち人でないという結論に至っていたので、興奮するどころか、


(あれ、いる)


くらいにしか思わなかった。


丁度自分の目の前を歩いている彼の井出達は、紺色のジャケットにモスグリーンのズボン、襟から見えているシャツの色はブルーだ。


ミスターは本日、先日とはうって変わってゆったりと歩いていた。


なかなかよい姿勢をしている。


この時、彼の髪が首の後ろでまるで筆の一刷毛分を残したかのようにちょこんと出ているのに気付いた。


男性全てがこうなっているわけではないようだが、たまに見かけることがある。


(これって名前があるのかしら)


と、マキは思った。



彼は左へ、彼女は右へ。では、さようなら。


しばらくブラブラしてから、マキは日本語の本を借りに中央図書館へ向かった。


西海岸のこの都市は、様々な人種で成り立っているため、外国語の図書が豊富に揃えてある。


チャイナタウンにある日系書店で和書は買えるのであるが、輸送代が入るため実に高い。


本好きの彼女としては読みたい本は帰国すれば原価で買えるのだし、外国市民のために結構な冊数の蔵書を抱えている図書館をありがたく、最大限に利用している。


本を一冊抱え、マキは歩いていた。


彼女のオフィスがあるビルとつながっている隣のビルの通路にチェーンのコーヒー店、オーガニックのサラダやサンドイッチを扱う店がある。


店前にはテーブルが設えてあり、そこにまたミスター・ローヤーを発見した。


初老の男性と話している。


彼の注意を引こうなどとは露にも思わず、ただ通り過ぎようとしていたら、


「ヘイ!」


と、また大きな声が聞こえた。


一瞬耳を疑った。


自分に当てられたものなのか、と。


その声の主は紛れもなくそこに座っている彼であり、当人はニカーッ、と、やんちゃな笑顔を見せて、こちらに手を振っている。


彼女も笑顔で返し、手を振った。


心中はドキドキ、バクバク状態だ。


(なにーーー?あたしのこと覚えているじゃないのー!)


その日、彼が彼の君ではない、という結論は直ちに覆され、


(やっぱりこの人かも)


に、変えられた日となった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ