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その九十五

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークまでしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m

 ※※※


「あ、あの、風呂、先、入る?」「あ、うん。ありがとう」


 俺が湯船に湯が張れた事を確認して、風呂場から声をかけると、柊さんは言葉に詰まりながら返事する。


 今日の泊まりは、以前柊さんが俺ん家に泊まったのとは違う。前は姉貴の部屋に柊さんは寝たけど、教は一緒の部屋に寝る、という事だから……。


「え、えーと。じゃ、じゃあ。お先に」


 柊さんはそう言って、急ぎ足で俺の横をすり抜け、廊下横にある風呂場に向かった。どうやらお泊りセットは持ってたらしく、パジャマ代わりのスウェットを抱えてた。歯磨きセットも持ってたみたいだ。そういや今日、夜中抜け出してネカフェに泊まったって言ってたから、事前に用意してたみたいだな。え? 下着はって? そこまで俺が知るわけないっつの。


 カララと風呂場の戸を閉め入っていく柊さんの背中を見ながら、俺は一人なんとなくいたたまれない気持ちでテーブルの前に座る。静か過ぎるのが辛抱できなくなって、特に見たくもないけどテレビを付けその音で気持ちを紛らわせる。流れてるのは情報番組。でもアナウンサーの声を内容を把握する事なくぼーっと聞いてる。


 あの柊さんの目。あれは何か覚悟を決めたような、そんな決意のこもった瞳だった。……それって、もしかして、もしかするのか?

 でも、俺の勘違いかも知れない。もしそうだったら、俺の早とちりだとしたら嫌われるかも知れない。


 そりゃ、俺だって男だから彼女である柊さんともっと進展したいとは思うけど、早まってしまって柊さんを傷つけてしまったりしたら……。


 いやでも、泊まるって柊さんから言ったんだ。柊さんの言う通り、タクシー呼ぶなりして今日はこのまま帰るかネカフェに泊まる事だって出来たのに。お金の節約? いやさすがにそれはないはず。ならやっぱり……。


 でもそうだとしても、未だ覚悟が出来てない情けない俺。だって初めてなんだから仕方ないじゃん。心の準備と言うか、……って心の準備ってどうすればいいんだ? 空手の試合前みたいなイメージでいいのか?


 情報番組の狭間、ちょうどテレビには柊さんが出演してる清涼飲料水のCMが映ってる。素敵な笑顔でドリンクを飲んでる様子が映し出される。俺、もしかして、今からこの子と……?


 ※※※


 湯船に張ったお風呂に鼻先まで潜り、そのままじっとして中々出れない私。


 ここに泊まりたい。それは言わば、意思表示の表れ。その意図を武智君が汲み取ったかどうか分からないけど、一緒に夜過ごしたら、その、きっと、そんな雰囲気になる、気がする。……初めてだから分からないけど。


 大胆だったかな? はしたない子って思われたかな? でも、今日さよならしたらきっと当分は会えない。だから、後悔したくなかった。私らしくないかも知れない。私は弱い子だから。でも、それでも、私は武智君しか……。


 ずっとお風呂に浸かってたらのぼせてきた。もう既に体は洗ったから、湯船から出たら外に出るしかない。当然ここにずっといるわけにもいかないから出なきゃいけないんだけど、勇気が出ないというか。今更何悩んでるんだろうってバカバカしく思うけど、そんな強くないんだから仕方ないじゃない。


「……あれこれ考えたって仕方ない」もう賽は投げたんだから。だから意を決して思い切って立ち上がる。ザパァと湯船から若干のお湯があふれる。それが何だか、タイムリミットを伝えてるような気がした。


 体を拭きパジャマ代わりのスウェットに着替え、ふろ場を出てすぐのところにある洗面台に備えついてたドライヤーを借りて、壁についてる鏡を見ながら髪を乾かす。……私顔真っ赤。これってお風呂上がりだから? それとも……。ブォーっとドライヤーの音を聞きながら、これが終わったら、次に武智君がお風呂に入って、それから……。


「アチッ」しまった。ついぼーっとしてずっと同じ箇所に温風当ててた。慌ててドライヤーをずらす。そして髪を乾かし終わり、ふう、と息を吐いて何となく気合を入れ、カララと風呂場の戸を開けて出た。


「あ、あの、武智君。お風呂お先に頂きました」「あ、う、うん」


 武智君、何だかぎこちない返事。……やっぱり意識してる、のかな?


 ※※※


 俺が風呂から出ると、ちょうど柊さんはスマホで通話を終えたみたいだった。


「あ。あがったんだ」「う、うん……。というか、今誰かと電話してた? 微かに話声が聞こえたような気がしたんだけど」


「あ、うん。明歩から電話があって話してた」「ああ。安川さんか」


 そう話しながら俺はバスタオルで頭を拭きつつ、さっきコンビニで買っておいたドリンクを冷蔵庫に取りに行く。カウンターキッチン越しにそれを飲みながら柊さんをチラリと見ると、俺の事をみてたようで目が合ってしまい、二人してバッと視線を反らした。


「ハ、ハハ。ど、どうしたの?」「え? べ、別に何も……」


 そう言いながら顔を赤くしうつむく柊さん。……間違いなくお互い意識してる。前俺ん家泊まった時は、姉貴のパジャマを使ってて、結構際どい格好だったけど、今日はスウェットだというのに、何故かあの時より色っぽく見える。スタイル抜群な柊さんの体のラインがはっきり分かるからだろうか?


 因みにこの部屋にはベッドが一つ。ソファもないから寝るとしたら一人は床に、……か、もしくは一緒に、と、いう事になる。


 勿論柊さんを床に寝かせるわけにはいかないから、そうならないのであれば、俺は進んで自分から床に寝るつもりだけど。……そうならないなら。


 俺は冷蔵庫からもう一つ、ドリンクを持って柊さんが座るテーブルの反対側に腰を下ろす。そしてどうぞ、と柊さんにもう片方のドリンクを差し出す。いや、柊さん別にほしいって言ったわけじゃないんだど、何となく手持ち無沙汰と言うか。つい勢いで持ってきちゃったんだよね。


 柊さんはありがと、と小さく返事し、黙ってキャップを取って飲む。テレビはずっと付いたままだから、テレビに視線をやれば気は紛れるけど。


 コンビニで買ってきたお菓子をつまみながら、報道番組を観てる俺達。二人揃って沈黙したままで。でも俺の鼓動はずっと早い。風呂上がりで体温が上がってるのとは関係ないのは分かってる。


 チラリと壁にかかってる時計を見ると夜十時前。まだ寝るには少し早い。普段はもう少し遅い時間に寝てるし。


 柊さんを見ると俺の事を見てたようで、また視線が合いサッとお互い視線を反らす。


「「……」」


 今度はお互いそのまま黙ってしまう。あーもう気まずい。ケンカしたわけでもないのに。


 報道番組は明日の天気予報を説明してる。明日も快晴。相変わらず猛暑らしい。まあ別に明日の天気なんかどうでもいいんだけど、何か考えてないと、俺の気持ちが持たないと言うか。


 このままじゃずっと会話しないままは気まずい。どうやって寝るのか相談しないといけないし。俺は意を決して柊さんに声をかける事にする。


「「あ、あの……」」


 何と俺と同じタイミングで柊さんも声をかけてきた。すぐに顔真っ赤にしてまたもうつむく柊さん。俺も同じくうつむいちゃったけど。


「ど、どうしたの?」「た、武智君こそ」


「い、いや、特に……。あ、そうだ。安川さん、何の用事だった?」「特に用事があったわけじゃなくて、今日武智君と会う事知ってたから、どうだったって連絡してきただけ」


「そ、そっか」「うん」


 それで話が終わってしまう。そしてまたも二人して沈黙。テレビ付いてなかったら間が持たなかっただろうな。今日ほどテレビに感謝した日はないな。


「……ああー、もう!」「え!? な、何?」


 突然大声出した俺にびっくりしてる柊さん。お互い変に気を使ってるのが我慢ならなくて、つい叫んじゃった。


 そして俺はおもむろに柊さんの隣に座る。ビクッとして驚く柊さんだけど、逃げる事なくじっとその場に座ったまま。肩と肩がほんの数ミリ離れてるくらいの近さ。柊さんの熱を感じるくらいの。


「ど、どうしたの?」「この妙な雰囲気に耐えられなくなった」


「た、確かに。私も正直いっぱいいっぱいだった」「だよね? お互い様だ」


 それから俺は柊さんの顔を見る。風呂上がりだからか、頬がほんのり赤くてシャンプーのいい匂いが柊さんの髪からエアコンの風に乗って漂ってくる。……改めてこの至近距離でじっくり見ると、柊さんの顔ってこんな小さかったんだ。それなのに切れ長のきれいな黒い瞳に、長いまつ毛、通った鼻に小さなか唇。まるで造られたように整った顔立ちに、つい見惚れてしまう。


 ずっと横顔を見られているのに耐えられなくなったのか、柊さんは下を向いて声を掛ける。


「……何?」「見惚れてました」


「それは、今の妙な雰囲気を壊したくて言ったの?」「いや、普通に本音」


「相変わらず恥ずかしがらず、平気な顔してそういう事言うよね」「俺、今平気な顔してないと思うけど」


「フフ、ホントだ。すごく緊張した顔してる」「そりゃそうだよ」


 そうだよね、とニコリとしながら、柊さんが返事し、それからリモコンを手に取りテレビを消した。更に部屋の明かりも、柊さんは消した。


 急に真っ暗になる室内。いきなり視力を失った事で何も見えない。すると次に、暗闇の中、何やらゴソゴソと布がすれる音が聞こえた。これって……。


「……待ってる、から」


 かすれるように小さく、そして震えてる柊さんの声が聞こえた。暗いけど、そのこわばった声で、柊さんがどこで何を待ってるのか、すぐに理解出来る。


 柊さんも緊張してるんだ。そりゃそうだ。つか、本当は男の俺が柊さんをエスコートしなきゃいけないはずなのに。情けないなあ俺。でももうこれで、後戻りはできなくなった。柊さんがここまでしてるのに、じゃあお休みて言って床で寝ちゃ、それこそ最低だ。


 ふうー、と大きく息を吐き、俺は柊さんが待つベッドに入る。途端、ビクッと柊さんの体が反応したのが、触れていなくても伝わってきた。どうやら柊さん、俺とは反対側の横向きで丸まってるっぽい。


 かぶってるシーツ越しに、柊さんが震えてるのが伝わってくる。俺はそんな柊さんが愛しくてたまらなくなって、丸まった背中側からギュッと抱きしめた。その時もビクって反応したけど俺は気にせず腕に力を込める。夏で暑いけどエアコンがかなり効いてるから、然程暑いとは思わない。


 ……柊さん、すごい心拍音だ。ドクン、ドクン、と俺の体が振れてる柊さんの背中越しに振動が聞こえてくる。まあ、俺の鼓動も負けじと相当すごい事になってんだけど。


「武智君も、緊張、してるん、だね」「そりゃ、ね」


 俺の激しい鼓動を肌に感じたんだろう、柊さんは背中越しにそう呟く。柊さんの体温が伝わる。男とは違う柔らかい感触。何度か柊さんを抱きしめた事はあったけど、その時は違う心地よさ。素肌に近いからだろうか?


「柊さん、こっち向いて」俺はそう言って柊さんの肩を引き俺の方へ顔を向けさせる。暗いけど目が慣れてきたのもあって、震えてる柊さんの瞳がよく見える。


「無理しなくていいよ。俺……」急がないから。そう、言いかけたところで、柊さんは突然、俺に口づけた。


「大丈夫。大丈夫。だから……」強い眼差しでそう伝える柊さん。そして柊さんは俺に抱きつく。


 その言葉がきっかけとなったらしく、俺は自分の気持ちが抑えられなくなる。この子と……。


 俺は分かった、と答え、柊さんに覆いかぶさった。


 そしてこの日、俺と柊さんは、お互いの初めてを失った。




次回更新は金曜日の予定です。

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