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その九十三

いつもお読み頂き有難う御座いますm(_ _)m

ブックマークまでしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(_ _)m

 ※※※


 コンビニ行って帰ってきたら、柊さんの頬から涙が。俺はそれを見て固まってしまった。でも、床に置いてあった柊さんのスマホの(恩田さん)の文字を見て、何かあった事はすぐに把握できた。


 そして俺の胸に飛び込んでくる柊さん。何があったか分からないけど、俺はコンビニ袋を床に置き、柊さんの頭をなでた。


 するとごめん、ごめん、と謝りながら、柊さんはそのまま泣き続ける。でも、悲しいってより悔しいって感じみたいだ。


 少し泣き続けてから落ち着いた柊さんに、俺は買ってきたペットボトルのお茶を渡す。まだヒックヒック、と嗚咽しながらも、ありがとう、とお礼を言いながら、柊さんはそれに口をつけた。


「で、どうしたの?」


 俺がそう聞くと、柊さんは、恩田社長から連絡があって、当初柊さんの場所を聞いてただけだったのが、そのうち恩田社長が俺との関係を認めてないと言った事、安川さんから、あのときの音声データを譲ってもらうよう動く事など話して、言い合いになってしまった、と説明してくれた。


「私、もうどうすればいいか分からなくなってきた。確かに恩田さんの言う事も分かる。今の映画のオーディションがうまくいって、万が一主演獲れたとして、そんな女優に彼氏がいたと世間に見つかったら、大騒ぎになるって事くらい。でも、見つからないようこうやって変装してるし、今日だけだし、迷惑かけるつもりは全然ないのに」


 視線を下に落とし、柊さんは続ける。


「もっと言えば、寧ろ私と武智君との付き合いを前向きに捉えてくれて、一緒になって応援してくれて、会社ぐるみで隠してくれたっていいじゃない。どうして否定する選択肢しかないの?」


 そこでまた柊さんは泣きそうになる。おおっと、せっかく落ち着いたのに。


「安川さんの件で反省さえしないって事は、多分恩田社長は自分が悪いなんて全く思ってなくて、その考えは変わらない気がする。だから恩田社長にいくら自分の意見を言っても通用しないんじゃないかな?」


「じゃあ……、どうすればいいんだろ?」


「とりあえず芸能界の仕事は続けながら、俺とはお忍びで会うとか?」「……それが現実的なのかなあ?」


 そう言って柊さんは俺をじっと見つめる。泣きはらしやや腫れている、でも切れ長のきれいな瞳で見つめられると、ついドキッとしてしまう。未だ慣れないなあ。


「私、何のために芸能界で仕事するんだろ? 自分の想いは拒否され、隠し通さなくちゃならないって」


 俺に解答を求めるかのように視線を外さずそう語る柊さん。何だか気まずくなって、俺は無意味に天井を見て視線を逃がす。でもすぐ俺は、柊さんの顔を見つめ返す。


「とにかく目の前のやるべき事をやってみたらどうかな? ……俺みたいな将来何したいか決まってないヤツにいわれても説得力無いかも知れないけど。もしかしたら、芸能界の仕事の中で、柊さん自身が何か見つけられるかも知れないし。俺との事は、まあ連絡さえ付けば何とかなるんじゃないかな?」


 俺の言葉を聞いて少し呆気にとられたような顔をし、でもすぐクスクス笑う柊さん。


「簡単に言うね。でもそうね。武智君の言う通りかも。私結構深刻に考えてた。……親の期待や恩田さんがこれまでやってくれてた事とか考えると、わがまま言えないって考えちゃうけど」


「柊さんの人生は柊さんのものじゃん。サポートしてもらってたかも知れないけど、最悪それが全部無駄になったとしても、親やサポートしてきた大人なら、柊さんの気持ちを優先すべきじゃないの?」


「そんな簡単に受け入れてくれたら良いんだけど」


 そう言いながら、再度ブーブーと床で鳴ってるスマホに目をやる。画面表示は(恩田さん)。さっきから何度も掛けてきてるけど、柊さんは出ずに放置してる。それを見てはあ、と疲れたようなため息をつく。


 どこかあきらめのような表情。その中に不安が入り混じってるような気がする。……柊さん、結構一杯一杯なんじゃないか? でも、詳しい事を余り知らない俺が、あれこれ言っていいんだろうか? でも俺一応彼氏だし、励ましの言葉の一つでもかけるべきなんじゃないだろうか?


 エアコンのおかげで部屋内はかなり快適な涼しさになってきてる。防音が効いてるからか、外の音も一切聞こえないほど静かな空間。既にスマホのバイブは止まってるから、部屋の中はシーンと静まり返ってる。


 かける言葉が見つからない。柊さんは特に俺の言葉を待ってるわけじゃなさそうだけど、さっきからずっと黙ってる。何だかいたたまれない雰囲気。


 そこで突然、俺の腹がグウ~ゥ、と、部屋が静かだった事もあって、かなりでかく響きわたった。


「……プッ、アハハハハハ!」


 柊さんがお腹を抱えて笑う。俺もまさか自分の腹が鳴るとは思ってなくて、すごく恥ずかしくなる。


「アハハハ! 何でこのタイミングでお腹鳴るの? アハハハ! あーおかしい!」「お、俺だってびっくりしたよ」


 自分の腹の音にびっくりするってのも結構恥ずかしいけど、……って柊さん笑いすぎ!


「も、もう笑うの止めてもいいだろ! あーめっちゃ恥ずかしい」


「アハハハ……、ごめんごめん。そうだね。そろそろお腹空いたね」「お、おう」


 まだクスクス笑ってるし。……まあ確かに、何か緊張感漂う雰囲気だったから、余計面白いのは分かるけどさ。


 そして柊さんは突然立ち上がりキッチンに移動する。それから何やらブツブツ言いながら物色しだす。冷蔵庫も開けたりして。何してんだろ?


「食材は何もないけど、調味料はあるね。武智君のお姉さんも料理してるだろうから当然か。多分暫く家を空けるから、食材は敢えて置いてなかったのかな? とりあえず食材買いに行こっか。ご飯作るよ」「え? 柊さん作ってくれるの?」


 うん、と笑顔で返事する柊さん。おお、それはかなり嬉しい。彼女が作る晩ご飯って結構テンションあがるじゃん。


「そういやコンビニ行く途中にスーパーがあったよ。よし、じゃあ行くか」「うん」


そして俺と柊さんは、二人で買い出しに繰り出した。


 ※※※


「じゃあ武智君、卵とパン粉とコショウとひき肉を混ぜたタネをこねてね」「ういっす」


 玉ねぎを細かく刻みながら俺に指示する柊さん。スーパーに行く途中、今日はハンバーグを作る事になって俺も手伝ってる。二人でやったほうが早いからね。って、これっていわゆる共同作業だよな? やばい。こんな可愛い彼女と一緒に晩ご飯作ってるって考えただけでも何か嬉しくて、ついにやけてしまうな。


「どうしたの?」「え? あ、い、いや……」おおっと。テンション上がってニヤニヤしてました、なんて言えない。俺は柊さんから視線を外すため、わざとらしくタネをこねてるボールを見る。


「……って、そんなに玉ねぎ使うの?」そう。さっきから気になってた。既に柊さんが刻む玉ねぎは五つ目だ。滅多に料理しない俺でも、このタネの量からして多すぎるのは分かる。てか、じゃがいもに人参? それとひき肉とは別の肉も買ったみたい。何でだろ?


「あ。実はハンバーグとは別にカレーも作ろうと思って」俺がそっちの食材を見てるのに気付いた柊さんが答えてくれた。


「え? カレー? 何で?」確かに腹減ってるけど、ハンバーグとカレー両方食うって事? まあ食えなくはないけど多いような? 


「明日も明後日も武智君、ここにいるんでしょ? ご飯に困るんじゃないかなあって。カレーなら沢山作っておいて食べれるかなあと思って。あ、ちゃんと冷蔵庫に保管してね」


 俺の気持ちを察したのか、包丁を持つ手で額の汗を拭いながらニコッと俺に微笑みかける柊さん。……俺の明日以降の飯の事を考えてくれてたのかよ。


 ヤバい。つい嬉しくて抱き締めたくなる。けどグッとこらえる。だって手がハンバーグのタネで汚れてるからね。しかし柊さんのうなじが近い。ちょうど俺の位置から見下ろす感じで見えるけど、何と言うか、ただの首筋なのにそそるというか。


 そんな邪な事を考えてる俺を注意するかのように、突然ピーっとご飯が炊きあがる音が鳴り響く。俺はビクッと反応してしまい、柊さんがそれを見てクスクス笑う。どうやら俺の邪な思いはバレてないようでホッとする。


 そしてハンバーグが出来上がったところで、皿に盛り付けテーブルに運び、二人で美味しく頂いた。


 ※※※


 カレーのいい匂いが部屋中に充満してる。そういや合宿とか以外で他人が作るカレーって初めてかも? しかもそれが俺の彼女って。ヤバいな。嬉しくて仕方がない。


「換気扇付けたんだけど……。大丈夫かな?」


 そんな変なテンションの俺を差し置いて、柊さんは匂いを気にしてるようだけど。


「大丈夫大丈夫。姉貴帰ってくるのもうちょい先だし、それまでにはさすがに匂い無くなってると思うし」「そう? ならいいけど……、って武智君、さっきから何でそんなに嬉しそうなの?」


「だって彼女が俺のためにカレー作ってくれたんだからね。嬉しいに決まってんじゃん。ハンバーグだってそう。俺も一緒に作ったってのがすげぇ嬉しい」


 俺がニコニコしながらそう答えると、一気に顔が赤くなる柊さん。


「も、もう。またそうやって平気な顔して恥ずかしい事を言うんだから。そもそも、お弁当なら作った事あったじゃない」


 そういや柊さんと屋上で会ってた時、作って持ってきてくれた事あったな。


「あの時はまだ彼女じゃなかったし、あれって元々お詫び目的だったじゃん。でも今日のは俺のために作ってくれたじゃん。それは大きな違いだよ」「そ、そうなの?」


 何だかモジモジして恥ずかしそうにしてる柊さん。その姿もまた可愛い。


「わ、私も実は……、嬉しかったりするんだから」そう言いながらプイ、と拗ねた感じで顔を背け、いそいそとテーブルの食器を片付け始める。そんな柊さんが可愛いなあと思いながら、俺も同じく手伝おうと立ち上がった。


 よし。作ってくれたお礼じゃないけど、食器は俺が洗おう。柊さんにそれを伝えようとしたところで、またも柊さんのスマホが振動する。慌てて柊さんが片付けかけてた食器類を机に一旦置き、画面を確認してから出る。どうやら恩田社長じゃなかったみたいだ。


 俺は机に置かれた食器類をカウンターキッチンに運ぶ。柊さんは俺を見てごめんね、と口パクして頭をペコリと下げる。俺はいいって、と手でゼスチャーしてそれに返事した。なんかこのやり取りもカップルっぽくていいね。


 なんて一人勝手に妄想しつつ、洗い物を始める俺。水の音で柊さんが何を喋ってるか聞こえないが、柊さんは神妙な顔をしながら、電話口で謝ったり相づちを打ったりしてるのを何となく見ながら食器類を洗う。


 そしてキュッと蛇口を締め水を止めたところで、柊さんの声が聞こえた。


「……はい。今日はとりあえずこっちで泊まって、明日そちらに戻ります」


 ……え? 今泊まるって言わなかった?



次回投稿は明日の予定です。

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