その九十一
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恩田社長の怒鳴り声をドア越しに聞いた後、そそくさとビルから逃げるようにビルから出てきた私。どうやらあの二人が会うのってお忍びだったっぽい。バレちゃ不味かったっぽい。でもそんなの私知らないから仕方ないよね。
でも気まずい気持ちになったのは事実。ビルから外に出てきた途端、暑い夏の日差しを浴びると同時に、ふう、と一息つく私。
「でもまあここに来て恩田社長と話して、何で武智先輩を誘惑するよう私に指示したのか聞けたし。良しとしよう」
武智先輩と柊美久には悪い事したかもだけど。しかしまさか、贔屓にしてる新人女優が彼氏持ちだと困るから、引き離そうという事だったんだなんてね。そしてそのために武智先輩を誘惑し引き離すなら、それなりに可愛い子じゃないとダメだろうという事で、私に白羽の矢を立てたのか。うん、なるほど。それはよーく理解出来るね。
利用されてるって気持ちも無くはないけど、まあ再度転校できたし、うまくいけば将来女優としてデビューさせてもらえるかも、という可能性もあるから、まあやるだけやるけどね。
ユーチューバーなんてずっとやってける仕事じゃない。可能性あるなら華のある芸能界でお仕事出来たらラッキーだしね。
でもあの茶髪ボブの黒縁メガネが柊美久だったなんて。黒髪が凄く特徴的だから、変装完璧じゃない? 私だって武智先輩が名前呼んで気付いたくらいだし。つか、そもそも一般人の武智先輩を誘惑するって事自体、おかしな話でずっと理由を探ってた私だからこそ、気付いたようなもんだし。
しかしさすがに暑い。立ってるだけでジワリと汗が額ににじむ。私は急いで近くの自販機で水を買い一気飲みする。
「さて、これからどうしよっかな……」
初めて来た東京だし、観光でもすれば良いんだろうけど、どうも気乗りしない。それはどうやら暑さのせいだけじゃないっぽい。
「デートかあ。……いいなあ」
何故羨ましいと思ったのか。そんな疑問が湧く事もなく、とりあえず私はK市に戻る事にした。
※※※
俺と柊さんはさっき入ったオシャレなカフェで、お互いの近況を話した。
柊さんは今、新作映画のオーディションを受けるためのレッスンをしてるらしい。そのオーディションで受かれば本格的に女優業がスタートするそうだ。更に上杉っていう女性マネージャーと、二人で暮らしてるって事も教えてくれた。
一方俺は、さっきも話した塾の事や、空手部の大会の事、そして将来的に東京に住もうと考えてる事を話した。他にバイト先で口が悪い安川さんの事を話したり、雄介とは相変わらず仲いい話をしたりするたび、柊さんは笑ったり頷いたり反応する。
そんな他愛のない様子も見ているだけで楽しい気持ちになる。やっぱ好きな子と一緒にいるって本当幸せな気分になるな。
しかしお互い話してみて思ったけど、たった二週間しか離れてないのに、結構色んな事が進んでる気がした。そして柊さんはやっぱり俺みたいな一般人とは違う世界の人間なんだなあ、と話を聞いて改めて思い、少し距離を感じたからか、心臓のあたりがチクリとした。柊さんには内緒だけど。
それでも、俺は出来るだけ柊さんの傍にいようと勝手に努力するつもりだ。柊さんが本格的にテレビや映画に出演するようになり、芸能人になっていったとしても、出来る限り会えるようにしたい。どこまで出来るかさっぱり分からないし、柊さんの都合もあるだろうけど、父さんにも言われた通り、やらないよりやって後悔した方がまだマシだから。
それからその店で少し早めのランチを食べ、真夏の屋外へ出る。遠慮なく日差しは俺達に降り注ぐ。それでも俺と柊さんは自然と手を繋ぎ、初めての東京を二人で散歩デートする事にした。時々屋内に入るも、今日は立ってるだけで汗が吹き出すほどの暑さだ。お互い汗をかきながら、それでも笑顔であちこち散策した。
……そういや今日ずっと柊さん、茶髪ボブのウイッグつけっぱなしだ。この暑いさなか大丈夫なのかな? 柊さんは以前、余り蒸れないって言ってたけど、それでも地肌よりは暑いはずだろうし。
そんな事を考えてたら、俺はふと自販機にとある清涼飲料水を見つけたので、おもむろにそこに向かって二つ買い、一つを柊さんに渡した。
「ありがと」「どういたしまして」
柊さんはそれを笑顔で受け取るもすぐにハッとする。それはたまたま見つけた、柊さんがCMで出てた清涼飲料水。ふと自販機見つけたらそこにあったんだよな。
「ねえ、これわざと?」「いや、たまたま見つけたからさ」
「もう! バカにしてる?」「「ハハハ。バカにしたわけじゃないよ。どんな反応するかなあって興味があって」
こういう反応です! とちょっとほっぺを膨らませながらその清涼飲料水を飲みだす柊さん。それを見て俺はおかしくて笑いつつも可愛い反応だなあと密かに思いながら、俺も自分用に買ってきた、柊さんと同じ清涼飲料水を飲んだ。……まあ昔からある有名なドリンクだから、特に美味しいとか感じなかったけど。
「あ、そういや私、スマホの電源切ったままだった」「今日は良いんじゃない? 入れなくても」
「うーん。でも一応、上杉さんに連絡しときたいなあって。日向さんにもだけど。心配してるだろうし、そろそろ大丈夫かなあって思って」
そう言って柊さんはかばんからスマホを取り出し電源を入れる。でもその途端、急に顔がこわばってきた。……どうしたんだろ?
「武智君どうしよう……。私と会ってるの恩田さんにバレたみたい。日向さんからlineが来てた。恩田さんからも着信あったみたいだし」
……え? バレた? 何で? だって日向さんはうまく言っといてくれるって言ったんじゃなかったっけ?
俺が柊さんの言葉に驚いてたら、ちょうど柊さんのスマホに着信があった。相手はどうやら日向さんらしい。慌てて柊さんは電話に出る。
『ようやく繋がったか。lineした通りだ。恩田社長にバレてしまった。ああ、勿論俺は言ってない』「なら、どうして……」
『詳しい事は後だ。とりあえず一旦帰ってこい。恩田社長、かなりご立腹だったからな』「で、でも、私と武智君、公認のはずですよね? 休みの日に私が会おうと自由だと思うんですけど」
傍らでやり取りを聞きながら俺は同意するように頷く。柊さんの言うとおりだ。先日あのヒロ君がやらかした事件の際、恩田社長と約束したんだし。だから恩田社長にあれこれ言われる筋合いは無いはずだ。
『今受けているオーディションの映画は主演を獲れ、と恩田社長も言ってただろ? そんな大事なオーディションを受けている最中に、スキャンダルはそれこそ大問題だって分かるだろう?』「で、でも日向さん、私を逃してくれましたよね?」
柊さんが疑問に思い、そう言ったところで、「まだ見つからないの! 何やってるのよ! GPSが切られてたっておかしいじゃない!」と、そばにいる俺にも聞こえるほどの恩田社長の怒鳴り声が、柊さんのスマホから聞こえてきた。
「……恩田社長がそばにいるんですね。だから私を逃してくれた事は言えない、と」『察してくれたか。俺は恩田社長の様子を伝えようと思って、わざと恩田社長のそばで電話した。あの金切り声を聞いて分かると思うが、恩田社長はかなり怒ってるのが分かっただろ? 早く帰ったほうがお前のためだぞ』
そして日向さんは、また連絡する、と言って電話を切った。そして柊さんはスマホをギュッと握りしめ、悲しそうにうつむく。
「……そろそろ帰る?」
俺は気遣うつもりでそう柊さんに伝える。時刻は四時過ぎ。時間帯としては夕方だけど、まだ真夏なので日は高く暑いけど。まあでも、そこそこ長い時間一緒にいたと思うし、頃合いなんじゃないかな。
「……嫌だ」「へ?」
そう言って柊さんは俺の手を掴む。
「これで帰っちゃったら、恩田さんに認めて貰った意味ない。そもそも今日、私休みなんだから、武智君に会おうが何しようが私の勝手じゃない。しかもこうやってバレないように変装してるんだし。それに……」
そこで言葉に詰まり下を向く柊さん。でも俺を見据え話を続ける。
「それに……、今日さよならしたら、暫く会えないのは分かってるんだもん。だからもう少し一緒にいたい」「……」
言いたくなかったのか、言いにくかったのか分からないけど、柊さんは意を決したように俺にそう話しかける。
そりゃ俺だって本当はもっと一緒にいたい。柊さんの言う通り、今日これで別れたら暫く会えないだろうから、本当は俺だって嫌だ。
じゃあ、柊さんがそう望むなら……。
「そしたらさ、これから俺が泊まる姉貴の家に来る? そしたらもう少し一緒にいれる」「え? どういう事?」
「今日向さん達が柊さんを探し回ってるんでしょ? まあこんな沢山人がいる東京で、そうそう見つかる事はないと思うけど、万が一があるからさ。姉貴のアパートに行けばまず見つからないと思うし。都心から少し離れてるから、そこにいたらまずバレないだろうし」
柊さんは俺の提案に少し躊躇した様子だったけど、すぐにコクンと頷き、それいいね、と笑顔を俺に返す。
「それに柊さんのウイッグ、さすがにこの炎天下じゃ暑いでしょ? そろそろ外したいんじゃないかなあって思ってたし」「確かに。じゃあ決定! 武智君のお姉さんのお家に行こう」
ここでさよならするかもしれない、という不安が払拭されたからか、柊さんは飛び切りの笑顔で俺の腕に絡みつく。俺は汗をかいてる事と俺の体の匂いを気にしながらも、それでも遠慮なくくっついてくる柊さんの体温を、心地よく感じていた。
次回更新は明日の予定です。





