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その九十

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークまでしてお待ちして頂いている方々、感謝ですm(__)m

「どうしたの? 柊さん怖い顔して」


「武智君、今の電話の相手って?」「ああ。さっき言ってた空手部のマネージャーだよ」


「何で武智君、その子の電話番号知ってるの?」「え? ああ。今行ってる塾が同じで、部活帰り一緒に行ってるんだけど……」


 と、途中まで話しかけて俺はハッとする。しまった。山本と一緒に塾通ってるって柊さん聞いたら、また余計な誤解させてしまうじゃん!


「あ、え、えーと……。誤解しないで聞いてほしいんだけど、あいつがたまたま塾で絡まれてて、俺が助けて、それから絡んだ奴がまたちょっかいかけられるかも知れない、心配だから一緒に塾に行ってくれって言われて、それで待ち合わせに連絡先交換しようって言われて……」


 俺があわあわとしどろもどろになり、そして早口になりながらも説明する。それを黙って聞いてた柊さんは、ジロリと俺を一睨み。


「モテるんだね。武智君」そう言い残してプイと踵を返し、スタスタと一人で歩き出してしまった。不味い。せっかくさっき誤解とけたのに。俺は慌てて柊さんを追う。今度は走ってないからすぐ追いついて柊さんの隣に並び、歩きながら話しかける。


「頼むから勘違いしないでくれよ。本当、山本とは何の関係もないんだって」


「山本さんって言うんだ。へーぇ。チラッと見たけどあの子可愛いよね。しかも先輩先輩ってあんな可愛い子に言われてちゃって。何だか慕われてるみたいだし? 武智君も嬉しいんじゃないの?」


「別に何とも思ってないって。俺本当、本当柊さんに会いたくて、それだけのために、実は今日、姉貴のアパートの部屋の鍵まで借りてんだよ。もし柊さんが今日都合つかなくなった場合の事まで考えてさ。日数余裕持たせようと思って。だから今日から数日こっちに泊まりなんだよ」


「……そうなの?」「そうだよ。それくらい考えて準備してたんだよ」


「……そうだったんだ」「そもそも、さっきも言ったけど合宿休んで来てるんだよ? それくらいの強い気持ちで俺が柊さんに会いに来てんだって。山本は本当に、ただの部活だけの繋がりなんだよ」


 俺が柊さんと並んで歩きながら必死になって弁解してると、ピタ、と突然柊さんが立ち止まった。俺が「?」ってなってると、


「……プッ、クスクス」と、笑い出した。


「ど、どうしたの?」「アハハ。だって武智君、凄く必死なんだもん」


「そ、そりゃ必死にもなるよ。もう疑われたくないから。好きな子に疑われるって嫌だから」「……え?」


 そこで急に柊さんが顔を真赤にする。……あ、俺今、好きな子って言っちゃったか。いやでも、彼氏なんだしいいじゃん別に。でもやっぱり恥ずかしいけど。


「……分かった。もういいよ」「ほ、本当?」


「そこまで必死に話すんだもん。それに考えたら武智君って嘘付けない性格だもんね」「そ、そうかな?」


 そうだよ、と言いながら今度は急にほっぺをぷくぅと膨らませる柊さん。しかも何だか顔が赤いけど。何だろ?


「私だって、今日凄く楽しみにしてたのに、あんな風に親しげに女の子と電話してるの見たら、何ていうか、その、……し、嫉妬しちゃったの!」そう言いながらプイと恥ずかしげに明後日の方を向く柊さん。それを見て今度は俺がプッっと吹き出してしまった。


「アハハ。そうなんだ。ヤキモチ焼いてくれるなんてなんか嬉しいな」「ちょ、ちょっと、嬉しいなんて言わないでよ。何かかっこ悪いし」


 未だあっち向いてる柊さんが何だか可愛らしくて、俺はついギュッと抱きしめてしまった。驚いた柊さんは俺の方に顔を向ける。抱きしめたから顔が近い。それに恥ずかしくなった俺達だけど、そのまま俺は黒縁メガネの柊さんを見つめる。


「こういう拗ねた柊さんもいいね。何だか一層彼女っぽく思えたよ」「そ、そうなの?」


「だってヤキモチ焼かれるって、それって好きだって証拠じゃん」「ま、またそうやって恥ずかしい事平気な顔して言っちゃって」


 恥ずかしそうにしてる柊さんがまた可愛らしい。そう思いつつさすがに暑いので、俺は柊さんから離れる。ふう。ようやく落ち着いたかな? つか、山本、あいつは地雷だな。あいつとはある程度距離おいたほうが良さそうだ。柊さんが傍にいなくても。


「汗かいたし喉も乾いちゃった。ねえ武智君、どっか入らない?」「そうだね。じゃあ東京ならではのオシャレなカフェとか案内してよ」


 私もよく知らないよ、と言いながら、ようやく満面の笑みを向けてくれる柊さん。茶髪ボブで黒縁メガネでも相変わらず可愛らしい。そして俺は遠慮なく柊さんの手を握る。少し汗かいてたけどまあいいよな? 柊さんも気にしてない感じだし。


 そして俺と柊さんは、少し歩きながらカフェを探し、テラスのある小洒落たカフェに入った。


 ※※※


「ったく! 何なんだっつーの!」


 置いてきぼりを食らった私は、一人愚痴りながら踵を返し駅に向かう。


 つか、あんな人多いところで放置するってひどくない? 武智先輩って基本優しいから、すぐ駆けつけてくれるかと思ったのに。……ま、ああやって彼女さんが逃げちゃったら、優先順位はやっぱそっちになっちゃうか。


 そんな事を考えながら、私山本玲奈は気持ちを切り替え、とある場所に向かうため駅へ行き、そして電車に乗った。それから退屈しのぎに何となく、東京の風景を車窓から眺める。


 ……悔しいな。ふと、さっきの事を思い出したら、そんな感情が湧き上がってきた。


 そしてそう思った瞬間、私の心の中がチクリとした。……何だこれ? 何だか寂しくて悲しい痛み。今まで経験した事のない、初めての感覚。ていうか、そもそも私、何で悔しいって思っちゃったんだろ? ……まあ多分、武智先輩が私より彼女さん選んだからだろうけど。


 ……いやだから。何でそれが悔しいの? 


 意味不明な感覚に自問自答をしていたら、電車は目的地の最寄り駅に到着した。私は降りる前にブンブンと頭を横に振り、余計な事を考えないよう努める。


 そして改めてスマホの地図を見て場所を確認する。初めて来たけど有名な会社なので、スマホのナビで難なく場所は分かった。とあるオフィス街の一角にある結構大きなビル。……ここだ。


 ちょっと緊張しながら大きな自動ドアが開き中に入る。入ってすぐに受付代わりのインターフォンがあって、コホンと咳払いして受付を押す。


『いらっしゃいませ。恩田プロモーション、受付で御座います』「あ、あの、すみません。恩田社長はおられますか?」


『恩田で御座いますか? 失礼ですがどちら様でしょう? アポイントは取っておられますか?』「あ、えーと、アポは取ってないんですけど。山本玲奈と言えば分かると思います。いなければ出直します」


 少しの間があってから、少々お待ち下さい、と返答があり、少し待ってからインターフォンからどうぞお入り下さい、と返答があった。私はホッとしてその奥の自動ドアが開いたのを確認し、中に入った。


 ※※※


「どうしたの玲奈? わざわざお盆の最中、東京のうちの会社にまで来るなんて。確かあなた、K市に引っ越したんじゃなかったかしら?」


「あ、はい。実はひょんな事から東京に来る事になって。それでお伺いしたい事があって来たんです。恩田社長の連絡先知らなかったので突然来てしまいすみません」


 社長室? に呼ばれ緊張しながら頭を下げる私。長テーブルに対面のソファに座りながら、ちょうど時間空いてたからいいわよ、と秘書? の人がテーブルに置いたお茶をすする恩田社長。


「で? 久々に私の顔を見に来たってわけじゃなさそうだけど」


「えと、まずは引越しのお金とか、あと転校の手続きとか色々して頂いたみたいでありがとうございました」


「いいのよ。こちらにもやってほしい事があっての事だし……って、お礼はついでなんでしょ? 本当の目的をおっしゃいなさい」


「……日向さんから、あの高校の武智先輩を誘惑するよう言われて一応そのように動いてるんですけど、それって何でかなあって聞き忘れてたんで、日向さんに直接聞いてもはぐらかされると思って、東京来たついで、恩田社長に聞いてみようと思ったんです」


「思いつきで動くのはいいけど、私もこう見えて忙しいのよ。もし私がいなかったらどうするつもりだったの? ……武智君はねえ、私にとっては邪魔者なのよ。でも、強引な手口も使えないから、あなたにお願いしたのよ。ま、それだけ分かってればいいわ」


 何だそんな些細な用事なの? とでも言いたげに明らかに呆れた顔をしながら、残りのお茶を飲み干す恩田社長。


 でも、私はさっき武智先輩が呼んでた彼女の名前を聞いてた。だからここに来た。


「……柊美久、が関係してるんですよね?」「……」


 私がその名前を言った途端、ピクと片方の眉が釣り上がる恩田社長。


「どこでその名前を?」「そりゃあ、あの高校では有名人ですからね。転校したてでもよく名前聞きましたよ。CMにも出てたって。あ、私実は空手部のマネージャーしてるんです。今は夏休み中ですけど、部活には毎日行ってたので、生徒とは既に交流してるんで」


「……どうして武智君と美久が関係してると思うの?」「だってさっき、二人会ってましたもん」


 私がそういった途端、恩田社長はソファから勢いよく立ち上がった。


「な、なんですって! 武智君と美久が?」「ええそうですよ」


「まさか……。武智君、東京に来て美久と会ってるの?」「そうみたいですよ。実は私、武智先輩と一緒に東京に来たんです。で、彼女さん……柊美久さんで良いんですよね? を見つけて、走って行っちゃったんで」


「……な、何て事なの」


 私が傍から見てても分かるほど、怒りにわなわな震える恩田社長。


「でも、どうしてあなたが武智君と一緒に東京来たのよ?」「私は武智先輩と来てみたかったからですよ」


 嘘は言ってない。……ん? 武智先輩と来てみたかったっての、嘘じゃないの? 私。


「でもまあ、恩田社長のその反応で、何で武智先輩を誘惑するよう言ってたか分かりました。柊美久から引き離すためだったんですね。それならそうと言ってくれれば良かったのに」


「まだデビューしたての美久の事を知ってるとは思ってなかったし、美久は東京に来ているから武智君とは二度と接触しないと高をくくっていたから、あなたにわざわざ教える必要ないと思ってたのよ……とにかく、急いで美久を探さなきゃ」


 そう言って恩田社長は自分のデスクに戻り、スマホを取り出しどこかに連絡しだした。


 やっぱりあの茶髪ボブの黒縁メガネは、変装した柊美久だったんだ。武智先輩があの時、大声で名前呼んだから気づいたんだけどね。突如新人ながら有名飲料水のCMに抜擢された謎の美少女。私は以前から気になって自身のネットワークを使って調べてたんだよね。透き通るような黒髪の超絶美少女。あんな綺麗な女の子、初めて見たかも。そう思ったから。


 そして調べた時に、ここ恩田プロモーション所属だという事も知った。だからそれを確認したくて今日来たんだよね。日向さんははぐらかすし、恩田社長とは私面識あるから、聞き出せるんじゃないかって思ってきてみたら、ドンピシャだったな。


 でもまさか、私の転校した高校に通ってたなんて知らなかったけど。そしてまさかまさか、武智先輩とその柊美久がカップルだったとは。


 まあだからこそ、私が派遣されたんだね。私も超絶可愛いしね。


 私は謎が解けてスッキリしながら、出されたお茶を飲み干す。その傍らで恩田社長がスマホ片手に怒鳴り声をあげながら何やら指示してる。そんな大事なんだ。柊美久って子。


「玲奈、貴重な情報持ってきてくれて感謝するわ。でも悪いけど今日はもう帰ってちょうだい」


 一旦スマホを切り私に話しかける恩田社長。私も聞きたい事聞けたし長居する理由もないから、分かりました、と素直に席を立つ。でもすぐ、とある事を確認したくて恩田社長に振り返り、声をかける。


「今回の件、うまくいけば私も女優デビュー考えてくれるんですよね?」「え? ええ、そうよ。あなたは()()()()()()()とは違って、ユーチューバーやってる事もあって表現力や人前で話し能力鍛えてるようだから、才能はある可能性高いから」


 あの役立たず達? その言葉が気になったけど、私には関係なさそうだったのでスルーし、社長室から出ていった。


「上杉! あなたが傍にいながら何をやってるのよ! 日向や他の者も使ってさっさと探してきなさい!」


 出た途端、中から聞こえる怒鳴り声。……私もしかして、余計な事言っちゃったかも。





次回更新は金曜日の予定です。

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