その三十九
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※※※
「……」「……」
今日もいつもより早く来たつもりなのに、何と武智君とバッティングしてしまった。まずいな。驚いてしまっていつもの演技が咄嗟に出てこない。つい無言で武智君を見つめてしまう。武智君も、いつもみたいに悪態をつかれないから、ちょっと呆気にとられた表情。でも、
「あー、今日はダンマリってわけですか」「え?」
すぐに武智君から声をかけられた。驚いた顔になりそうな私に、合わせて合わせて、と小さく呟く武智君。そっか、私が反応できなかったのを察して、咄嗟に武智君が気を利かせて嫌われてるように見せる演技してくれてるんだ。
「そ、そうよ」「へいへーい。すみませんっしたあ」
何とか声を絞り出す私。そしていつもの通り、さっさと先に行ってしまう武智君。お昼会えないって伝えた後なのに、それなのにああやって私に合わせてくれて……。本当優しい。チクリ、と胸の奥に痛みが走った気がした。
「ウオッホン!」その場で固まってしまってた私の後ろから、突如わざとらしい咳払い。その正体は綾邊さんだった。そして私はハッとして慌てて靴を履き替え、教室へ向かう。綾邊さんも一緒に。
「ち、因みに、武智とは、どういったご関係なの?」「……えーと」メガネをクイと上げつつ、私の隣を歩きながら、どこか疑いの目で見る綾邊さん。そりゃそうだ。お昼は一緒なのに朝のあれは何なの? って思うのが普通だ。昨日仲良く? なったからか、余り聞かれたくない事ツッコんできたな。でも、それでもコミュ障? らしいからか、何処か緊張してる感じはするけど。
「毎朝ああやって武智を嫌っているのに、お昼は一緒にいたわけでしょう?」「……」
一緒に教室へ向かう廊下を歩きながら、更に追及してくる綾邊さん。どうしよう。確かに怪しいよね。……でもまあ、真相を教えてもいいかな? もうすぐ夏休みに入るし。
「そうよね。気になるよね。じゃあ明日のお昼、私が武智君と行ってたとこ行ってみる?」「へ? い、いいの?」キョトンとした顔になる綾邊さん。まさかそんな事言われるとは思っていなかったんだろうな。
いいよ、と私が返事したら、「っしゃおらああ!!」と拳を握って気合一発、廊下で大きな雄叫びを上げる。その声で一斉に注目を浴びる綾邊さんを放置気味に、逃げるように先にそそくさと教室に入る私。そしたら丁度明歩が教室に入ってきた。今日来るのちょっと早いね。
「美久ー! おっはよ……て、なんだあれ?」「えーと、あれはねえ」廊下からよっしゃよっしゃとガッツポーズしながら、教室に入ってくる綾邊さんを見ながら、不思議そうな顔をする明歩に対し、苦笑いを返す私。そして私達が会話しているところへ、ササっと勢いよくやってくる綾邊さん。
「こ、コミュ力お化けの安川さん? わ、わたくしの、お、お友達の、柊さんに、な、何のよう、かしっ、かし~ら?」物凄くたどたどしく、お友達のところを特に強調しながら、メガネをクイと上げつつ緊張した面持ちで明歩を睨む綾邊さん。その様子がちょっとおかしいから、ついフフっと笑ってしまった。
「おー、美久! 生徒会長ともダチになったん? よっすよっすぅ~。アタシは美久の超マブダチ、つか、彼氏? 的な感じだよ~ん」「こらこら。誰が彼氏なのよ」明歩女でしょ。全く。そして遠慮なく私に抱きついてくるし。
「えー、いいじゃーん。もしアタシが男だったら、美久となら超絶最強のカップルになってたって!」「じゃあ三浦君はどうすんのよ?」更に頬をスリスリしてくるので、三浦君の事言ってやった。
するとハッとした顔になって私から離れる明歩。そして結構真面目に狼狽える。ど、どうしよ、雄介大事だし美久も大事だし、これ、あれだ、ハーレム的な感じじゃないと解決しなくね? とかブツブツ言ってる。……何わけのわからない事言ってんだか。
「じゃ、じゃあアレだ。ほら、女同士で、ね?」「ね? じゃない」今度は百合関係勧めてくるとか。明歩、錯乱しすぎ。
「オッホン! とにかく、今日のお昼は美久様をお借りするわよ」「へ?」
「あ、えっとね」そう言いながら、明歩に、武智君と二人で屋上に行ってたのを、綾邊さんに見られていた事を耳元で伝える私。
「て、事は……」「うん。もういいかなって」
「そっか。じゃあアタシも行く!」「へ? いや安川さんは来なくていいわよ」
綾邊さんの狼狽えようを気にする事なく、いーや、行く! と、言いながら、今度は急いで教室を出ていく明歩。多分三浦君にお昼一緒できないって言いに行ったんだろうな。
「明歩も来ることになっちゃったね」「み、美久様的には、それは大丈夫なの?」
「うん。明歩は大丈夫」「そ、そう……」そしてチッっと舌打ちする綾邊さん。せっかく美久様と二人きりで……、とか言ってるの聞こえてるんだけど。……綾邊さんのこの様子だと、明歩が来てくれる事になって、もしかしたら良かったかも知れない。
※※※
「じゃあ今度の休み宜しくぅ~」「うん。また連絡するね」
校門から出ていく美久を一人見送るアタシ。美久ん家に今度の休みお邪魔する事になった。今から楽しみ。因みに昼休み、生徒会長とアタシ、そして美久の三人で屋上でお昼食べた。何だか美久楽しそうだった。どうやらアタシ以外にダチ出来たのが嬉しいんだきっと。……ちょっと嫉妬しちゃうけどねー。
たけっちーとの朝の嫌われ演技についても、生徒会長に正直に話してたけど、なんでかあんま驚いてなかったなあ。寧ろ、ああやっぱりね、ってな反応だった。何となく分かってたんかな? で当然、何でたけっちーなん? って生徒会長は美久とアタシに質問してきたけど……、美久がたけっちー好きだからだよーん、とか言えないから、二人してお口チャックでやり通した。
……嘘つける人って凄いなー。アタシも美久も咄嗟に嘘つけないから、言いたくない事聞かれたら黙るしかないっつーのがねー。……恩田社長みたいな大人になれば、アタシも変わるんかねー。
そして美久を見送って、アタシも校門から出て一人で帰る。今日も雄介は空手の練習、で、アタシはバイトの面接に行くから別行動。まあ最近ずっと、雄介と二人で帰ってたから、たまには一人もいいかも?
アタシん家はガッコから近いからいつも歩きで登下校してる。そして今日はバイトの面接行くから、いつもより距離歩かなきゃいけないんだよなー、とか考えながらバイト先に向かってたら、向かい側から男子大学生? 数人がアタシを見てニヤニヤしてるのが見えた。あ、これナンパされるわ。で、あいつらはなんかヤバい系な気がする。これまでも何度かナンパされた事あるけど、カッコはBーboy系だけどそういうファッションだけしてる奴らとは違う、アブナイタイプだ。
アタシは怪しまれないよう踵を返して急ぎ足で離れようとした。どうやら車は無さそうだから、もし追いかけてきたら走れば撒ける。そう思った途端、ガッと肩を掴まれた。ビクっとして恐る恐る振り返る。
「ねえねえ、キミ超可愛いねー。俺らと遊び行こうよ」いつの間にかアタシのところまで追いついてた。耳にピアスしてキャップ被った、目元に切り傷がある明らかにヤバい臭いがする奴。他の二人もニヤニヤしながらこっち来る。怖いけど毅然としとかないと、こういう奴らは図に乗る。
「いやアタシこれから用事あるんで」パッと肩を掴んでる手を払い、そそくさとさいなら~、しようとするも、今度は別の男がアタシの前に回り込んでた。
「いいじゃんいいじゃん。せっかく会ったんだからさあ。いい店知ってんだよ。行こうぜ~」更にもう一人、計三人の男達が、アタシを取り囲んだ。やばいやばい。これじゃ逃げれない。
「いや行かない。ウザいからどいてくんない?」正直怖いけど、ヘラヘラした口調も腹立ったし、そもそもアタシ、これからバイトの面接行かなきゃだから用事あるのは本当だし、結構イラっとしてしまい、つい口調が強くなった。
「おーこわっ。見た目キツそうだけど性格もそんな感じ?」「ねえねえ名前なんてーの?」「まあいいや、とりあえず俺らと来いや」一人の男がアタシの肩をグイっと抱いて、むりやり連れて行こうとした。
「ちょっとやめてよ!」さすがに怒ったアタシ。ドン、とその男を突き飛ばした。そのおかげで少し距離ができる。けど、そのせいで三人の雰囲気が一気に変わる。
「可愛いからって調子乗ってんじゃねーぞ」「言うとおりにしとかねーと後悔すんぞ」「悪いようにはしないからカラオケでも行こうや」またも三人はアタシを取り囲む。今度は殺気立った雰囲気。アタシもさすがに怖くなって足がガタガタ震えてきた。雄介、怖いよ、助けて……。
「おい、お前ら怖がってんだろ」そこで、知らないイケメンが声をかけてきた。……雄介じゃない。
「んだあコラぁ!」「お前にはカンケーねーだろ?」「痛い目あいたいのかよ?」
「つーか、そんなデカイ声出したらさすがに目立つぞ」そう言いながら、スマホを取り出し110、と番号を見せる知らないイケメン。
「……ケッ、行こうぜ」警察を呼ばれちゃまずいと思ったのか、三人は地面にツバを吐きながらその場を去っていった。その瞬間、ヘナヘナ~とその場でへたり込むアタシ。
「大丈夫かい?」「は、はい。ありがとうございます」身長180cmくらい? 雄介とほぼ変わらないけど、細マッチョって感じのイケメンが、アタシに手を差し伸べる。アタシもさすがにすぐ立ち上がれないからそれに甘えて手を取った。
「俺、大内弘明ってんだ」「あ、えーと、アタシは安川明歩、です」
いきなり自己紹介されたから、仕方なくアタシも名前言ったけど、問題ないよね?
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