その三十八
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※※※
昨日のお昼の私は、どうかしてた。
もう少しで、武智君に私の気持ちを明かそうとしてしまった。これ以上武智君といたら、きっと気持ちを抑えられない。だから、今朝武智君には嫌われ演技の際、メモで「お昼もう会えなくなる。ごめんなさい」とメモ書きをそっと武智君のポケットに入れた。
実際に会えなくなる夏休みまでは、まだ期間があったから、それまでは本当は大丈夫だったんだけど。……けど、私の気持ちがもう……。
……あのお昼の時間は本当に楽しかった。他愛ない会話しかしてなかったけど、私にとってはとても大切な時間。昼休憩、四十五分だけの楽しい一時。青臭い言い方だけど、あれが青春って事だと思う。でも、もう終わりにしないと、ずるずる想いを引きずって、そしてどんどん気持ちが大きくなってしまうと、もう抑えが効かなくなる。そうなったら武智君に迷惑がかかる。
本当、勝手でごめんなさい。本当、色々面倒をかけてごめんなさい。でも、本当はね、本当はね……。
「……あの、大丈夫?」「え? グス」
声を掛けてきたのは綾邊さんだった。私、知らない間に泣いてたんだ。今はもう放課後の帰る時間で、教室の中は私一人だと思ってたのに。明歩は今日も、三浦君と一緒に帰るって言って先に帰ったし。綾邊さん、多分後で入ってきたのかな。
「良かったらこれ」「あ、ありがとう」心配そうな顔でそっとハンカチを差し出してくれた綾邊さん。勿論自前のハンカチはあるけど、出してくれた手前、それを借りて頬を伝う涙を拭った。でも私、自分が泣いていた事にさえ、気づかないなんて。
「超絶美少女で凜として、かっこいい、いつもの美久様じゃないみたいだわ」「美久様って。アハハ、私超人じゃないよ。ただの女子高生だよ」グス、と涙を拭いながら何とか笑顔を作る私。
「でも、成績優秀で運動神経良くて超絶美少女じゃない」「アハハ。そうかな? でも褒めてくれてありがとう」
毎度よく聞く褒め言葉。いつもならうんざりしていただろうけど、今は心が弱ってるからか、素直にお礼を言う事が出来た。
「えーと、ウオッホン! それで? どうしたの? 私で良ければお悩み聞くわよ」そして何だか改まってわざとらしく咳をする綾邊さん。メガネをくクイ、と上げながら。どうやら気を使ってくれてるみたいだけど。
「ありがとう。でも、気持ちだけで充分。それに……」そう。綾邊さんはファンクラブ会長。そんな彼女に私が本音を打ち明けられるわけがないし。
「あー、ファンクラブの件は気にしなくて大丈夫よ。私と副会長の飯塚君は、ただの神輿だって知ってるから」「……神輿?」
そうよ、とため息混じりに返事する綾邊さん。どういう事だろ?
「彼らは、美久様を監視するために契約しているエージェントみたいなもの。ファンクラブという体裁を保つために、何も知らない私と飯塚君を一応トップに置いて、美久様の監視をファンクラブの連中が学校内でしてた。そういう事よ。あ、飯塚君ってのは、普通科のラグビー部の部長ね」
そういう事だったのか。知らなかった。でも、最近は余り監視されてなかったような?
「ご存知の通り、美久様が二年生の頃まで写真を撮りまくっていたけれど、途中で方針が変わって、写真を撮るのが禁止になったのよ。理由は聞かされてないけど。それから朝の監視だけになったのよね。まあ、私と飯塚君はその監視さえ外されてたけど。元々は余計な輩が美久様に近づくのを制するためで、清田先生も含めて監視してたのよね。因みに、私は彼らとは違い、純粋に美久様のファンよ」
「そ、そう? ありがとう」胸を張り自慢気に、面と向かってファンだと言い切る綾邊さん。でも、本人にファンですって言うの、恥ずかしくないのかな? 言われて恥ずかしいって思ってるの私だけ?
「で、何を泣いてたの?」「え? あー……」言えるわけない。好きな男の子の事考えてたって。裏切って辛かったなんて。
「……武智の事でも考えてたのではなくて?」「え?」まさか綾邊さんの口から、武智君の名前が出てくるとは……。言い当てられてつい目を見開いて綾邊さんを見てしまう私。
「ほぼ毎日、視聴覚教室や調理実習室しかない校舎に二人で行ってたら、何かあるって思うわよ」「……知ってたの?」
「気づかない方がおかしいわ。だって私、美久様のファンなんだもの」「そ、そう」当たり前でしょ? って感じで言われてちょっと引いてしまう私。そうか見られてたんだ。
「でもまあ、安心して。連中は気づいていない、というより、普段から余りやる気がないみたいで、朝だけ監視してたみたいだから知らないわ」「そうなんだ」さすがファンクラブの部長だからか、その辺りもよく知ってるみたい。
「まあ私も、奴らに踊らされてたみたいで気分悪いから、こうやって美久様に近づけて、今はしてやったりなのよ。……コミュ障だけど」コミュ障? だから何度も声かけようとして留まってたのかな?
「でもさすがに、一人であんなつらそうに泣いてる美久様見たら、コミュ障の私でも気になって声かけちゃうわよ」「もっと気軽に声かけてくれて良かったのに」
「それが出来れば苦労はしないのよ。だって私コミュ障だからね」「……生徒会長なのに?」自慢気に言い切る綾邊さんに、ちょっと呆れた感じで返してしまう私。そう、確か綾邊さんって生徒会長のはず。
「ハッ、み、美久様にツッコまれた?」「ま、まあそりゃあ、寧ろツッコまないと失礼というか」そしてツッコまれて何だか嬉しそうな綾邊さん。……その反応、ちょっと違うような?
「とにかく、美久様って止めてほしいな」「え? 美久様は美久様でしょ?」
「いやあの、出来れば美久って呼び捨てのほうが嬉しいけど」「ひょえええい? よ、呼び捨……て?」
変な声。 そして物凄く体反らせてびっくりしてる綾邊さんのゼスチャーが、大げさでついおかしくなっちゃった。
「アハハハ! 綾邊さんって面白いんだね」「み、美久様の大笑い? これは大変貴重だわ!」
「いや、あのね……」「と、とにかく、もうお友達よね?」
「へ? あ、えーと」「ち、違うの?」上目遣いで悲しそうな目をして、メガネの奥からジーッと覗き見る綾邊さん。
「じゃ、じゃあ友達かな」「うっしゃあああ!!」いきなりグッと拳を握りよっしゃよっしゃと大喜びする綾邊さん。何だか、悲しかった気持ちが少し晴れたかも。一応綾邊さんに感謝かな。
※※※
「武智君! おーい武智君!」「え? あ、は、はい!」
「そっちのオーダー、もう出来上がってるから持っていって!」「は、はい!」
マスターに大声で注意され、急いでテーブルに料理を運ぶ俺。いけないいけない。今はバイト中なんだからボーッとしてちゃいけない。相変わらず今日もこの店は忙しくドタバタしてる。
俺がボーッとしてる理由は、朝柊さんから貰ったメモのせい。もう会えなくなるって書いてた。その前の日柊さんと、距離が近くなった後だから、何だかぽっかり穴が空いたような気がして、どうも落ち着かない。
多分そろそろ夏休みだし、朝の嫌われ演技が終わるから、その前に俺との友達関係も解消しようって事なんだろう。……前から言ってた事じゃないか。仕方ないよ。分かってる。でも……。なんだろう、この淋しさと空しさは。
「武智君! ほらお客さんが呼んでるよ!」「あ、はい!」またも仕事中にボーッとしてしまった。いけないいけない。俺はマスターに言われ、急いで注文を取りに行った。
そんなこんなで今日も慌ただしくバイトが終わり、疲労を感じながら後片付けしてると、「そろそろ武智君もバイト終わりだね」とマスターが同じく片付けをしながら俺に声をかけてきた。
「そうっすね。でも夏休みの間はもうちょっと来れそうですけど」「無理しなくていいよ。既にバイトの募集は始めてるから」
そうなんすか、と返事しながら、床掃除を続ける俺。まあ、そろそろ辞めてもいいかもな。でも、ここには疋田さんとの思い出があちこちに残ってて、若干名残惜しい気もするんだよな。でも、そろそろ割り切らないと。
後片付けを終え、着替えを済まし、マスターにお疲れ様でした、と挨拶して、喫茶店の裏に停めてある自転車に跨がる俺。前までは疋田さんを送りながら、自転車を押しながら歩いて一緒に帰っていたこの道も、もうすぐ使わなくなるんだなあ、と変に感傷的になりながら一人帰路につく。
……つーか、バイト中は柊さんの事考えてたくせに、今度は疋田さんの事考えてるって。俺、どうなっちまったんだろう? 疋田さんには随分長い間会えてないから仕方ないじゃん。柊さんは本当魅力的な子だから仕方ないじゃん。って、意味不明な言い訳をしてる俺がいるし。
もうすぐ夏祭り。そこで疋田さんに久々に会える。会えばきっと、俺も疋田さんへの想いを再確認できるはず。告白をするって決めてんだから、ブレちゃダメだろ。と、一人勝手に言い聞かせながら、今晩も疋田さんへlineを送ろうと改めて思った。
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