その百
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「ほら美久、行くよ」「……」
「そんな隅っこで座ってたって、どうしようもないの分かってるでしょ?」「……行きたく、ありません」
「もう! ダダこねないでよ。怒られんの私なんだからさあ」
そう言いながら力ずくで連れて行こうと、私の腕を掴み無理やり立ち上がらせる上杉さん。……ここでじっとしてたってどうしようもない事くらい、言われなくても分かってる。でも、未だスマホ取られちゃった事が納得いかない。このまま言いなりになるのが気に入らない。
上杉さんもあの時以来、私に遠慮が無くなってきた。言葉使いが少し横柄になり、今日みたいに私が言う事聞かないと、語りかけるんじゃなく力ずくでなんとかしようとする。私は一応商品だから、手を上げたりはしないけど。
「ほら早く! ちゃっちゃと着替えて! グズグズして間に合わなかったら、恩田社長スマホ壊しちゃうかもよ!」「……」
最近の脅しの常套句。スマホ壊しちゃうかもよ、がまた出た。これを言えば私は言いなりになると思ってるみたいで。そして確かに私はその言葉に対して、過剰に反応してしまうのも事実。なので私は嫌々ながら立ち上がり、着替え始める。
今日は新作映画の主演オーディションの日。でも、私はずっとこんなだからレッスンにも全く身が入らない。
ていうか、もういい。どうでもいい。主演なんかならなくたっていい。私みたいな実績も経験もない、ポッと出が主演オーディションに参加できるって事が相当特別扱いなのとても理解してるけど、恩田さんが関係者にかなり無理を言って、今日のオーディションに参加を認めさせたのも知ってるけど、そんなの関係ない。
武智君……。会いたいよ。パジャマのボタンを外しながら、自然と涙が溢れてくる。
「うう……。グス」「もー! また泣いちゃったの? 泣いたって今日の予定は変わらないよ! ほらさっさとしないと!」
苛立った上杉さんが私の方へ着替えを放り投げる。拒否したってオーディションは待ってくれないのも分かってるから、私は仕方なしにしゃくりあげながら、黙ってそれを手に取る。
もうやだこんなの。そもそも私、芸能界でやっていきたいのかさえ分からないのに、何でこんな気持ちで頑張らなきゃいけないの? そりゃ、恩田さんには恩を感じてるけど、こんなのあんまりじゃない。
……逃げちゃおうか。でもどこに? 家に帰ったところで両親は恩田さんの味方だし。明歩の家? それとも武智君の家? ううん、それも出来ない。迷惑かけたくないから。それに、武智君ととりあえず頑張るって約束したし。
……でもこんなの、私、まるで奴隷みたいじゃない。
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「おはよう。あら、美久はどうしたの?」「おはよう御座います。今はトイレに行ってます。……恩田社長、美久が来る前にちょっとお話宜しいですか?」
「どうしたの? 上杉。改まって」「美久の事なんですけど、精神的に相当ヤバいです。スマホ取り上げられたのが余程効いてるみたいで」
「効いてるなら良かったじゃない」「いや、そういう事じゃなくて、かなりショック受けてて。下手したら自殺するかも」
「大げさねぇ。あの子にそんな度胸あるわけないでしょ」「でも恩田社長。最近の高校生って、追い詰められたら結構危険ですよ?」
「……そうね。それには同意するわ。はあ、全く。仕方ないわね。上杉、後で美久呼んできてちょうだい」
それを聞いてとりあえずホッとして早速トイレに向かった美久を呼びに行く私。恩田社長、何かしら策を講じるみたい。ったく、同居してる私の身にもなってくれって思うよ。美久、ずっとあの調子でこっちだって気分悪いっての。……私だってそれなりに罪悪感感じてんだから、そんな状態で一緒に暮らしてる気持ち考えてほしいわ。ま、恩田社長には分かんないだろうけど。
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「ほ、本当ですか?」「ええ。嘘は言わないわ。ほら、この通りちゃんと持ってきたわよ」
そう言って恩田さんが私のスマホをポケットから出して手にとって見せる。
「さっきも言った通り、今日のオーディション、無事主役を獲れたら一〇分間だけ使っていいわよ」
……一〇分だけか。でも、それだけあれば、武智君から来たlineの内容が見れる。武智君へ返信出来る! 私はついテンションが上がる。
「で、でも、どうして今更?」「あなたが思った以上にショックを受けてるって上杉に聞いてね。そんな調子でオーディション受けて落ちたらこっちも困るのよ。私がどれだけ苦労して今日のこの日をセッティングしたのか……。いい? 約束したからには絶対物にしなさい。いいわね?」
ギロリ、と睨むように私を見据える恩田さん。その眼力に少し怯む私だけど、でも、武智君と連絡が取れるなら本気で頑張れる。
「恩田さんが、約束を守ってくれるなら」「あら。私が嘘を付くとでも?」
「はい。恩田さんはそういう人です。目的のためには平気で人を騙せる人ですから」「フン。生意気言うわね。一応褒め言葉とうけとっておくわ。安心なさい。この件に関しては嘘偽りはないから」
「……分かりました。正直、その交渉条件を聞いて、ようやくやる気が出てきました。頑張ってみます」
「全く、手のかかる子ね。まあいいわ。高校時代ずっとあなたがレッスンしてきた事を思い出しながら、必ず物にしなさい。この主役の件は、いくら私の力でもどうしようもないんだから」
そう。恩田さんの言う通り、今日のオーディションは何の忖度もなく、参加者全員をに対して監督や演技指導の人が採点をして決める事になってる。そして主演だけでなくサブヒロインや他の配役までも今日決める予定。しかも監督は何作もヒットを世に出している有名な方という事もあって、オーディションには既に芸能界で活躍している有名女優も複数参加してる。だから結果はどうなるか分からない。でも、スマホが返ってくるなら、出来る限り頑張ろう。ようやくそう思う事が出来た。
なので私は、はい、と力強く返事する。じゃあ頑張ってきなさい、と恩田さんに声をかけられ私は部屋を出た。出たところでドアの辺りで待っていた上杉さんが声をかけてきた。
「ドアの外から聞いてたよ。とりあえず良かったね」「……上杉さんも共犯だったじゃないですか」
「それは今でも悪かったと思ってるよ。でも私、この仕事失くしちゃったら無職になっちゃうからさ。仕方なかったんだって。そこは理解しといてほしいな」
そう言ってごめんごめん、と苦笑いする上杉さん。この人も結構勝手だ。だけど悪い人じゃない。だからこそ憎めないからフラストレーションが溜まってたのも事実。
上杉さんは元々芸人やってたけど、鳴かず飛ばずで諦めようとしてたところで、日向さんから私の専属マネージャーやらないかって誘われたらしい。歳が若く女性で芸能界の事を分かっていて、しかも人気なかったから余り顔が効かない、そこが良かったみたいだけど。
なので上杉さんにとっては今の仕事は天職みたいなもので、私が初の担当という事もあって気合入ってる、という事も知ってる。だから辞めたくないって心底思ってる事も。
「じゃあ、待合室行ってきます」「分かった。頑張ってね」
上杉さんが手を振り私を見送るのを見て軽く会釈する私。そして他の参加者もいる待合室に向かった。
とりあえず、主演を勝ち取って武智君に連絡するんだ。それが今の、私のささやかな希望なんだから。
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※読者様より多くご指摘頂いた事もあり、軌道修正の意味も含め明日更新します。





