ゴシックロリータと超硬質金属杭
シリアスな文明崩壊後の未来世界を書こうとしたら性癖が抑えきれなかった
私は戦闘用アンドロイド。
かの悪名高き四十八シリーズの流れをくむ一体で、人類存亡をかけたバグとの戦いにおいては英雄と呼ばれる程度の働きをした一兵士だ。
運命の日、地球に飛来したのは巨大な異形の姿をもつ異星生命体。
招かざる宇宙からの訪問者に対し、人類がつけた名称は見た目そのままに虫である。
始まった戦い――人類は数多くの犠牲のすえに侵略者バグに勝利にした。
半世紀にも渡るバグとの戦いは人類の辛勝という形で終わりを迎えたのだ。
その後、戦闘用アンドロイドの私は眠りにつく事になった。
私のようなユニークな個性は研究対象としても非常に貴重であるからだとか。
私が後世の役に立つかは不明だが、人類に奉仕する事は何よりの喜びである、命令されたのなら従うまでだ。
――――
……最後に認識した時間から一万年が経過し、私は眠りから呼び起こされた。
再び目覚めさせたのは清楚な雰囲気をまとった長い耳の女性。
私が保管されていたのは一面が大理石で組まれた部屋……まるで古代の墓所のようだ。
私は彼女から、かつて世界を救った伝説の英雄と呼ばれた。
起こされた理由……これが最初は冗談としか思えなかったのだが、魔族の脅威からこの世界を救って欲しいのだとか。
どんな高度な文明でも衰退する可能性があると考えていた。
しかし、これは想定外だ……長い耳に……エルフで……魔族で……ええっと、魔王?
そう、私が目覚めたのは剣と魔法のファンタジーの世界。
人類よ、私が眠っている一万年の間に……いったいナニをやらかした?
あと、私の戦闘用アンドロイドボディが、
【妖艶可憐ゴシックロリータ・下半身むっちりヴァージョン】
というマニアックなセクサロイドに、なぜダッチワイフボディになっている?
むっ、民間用だが元のボディの三十倍以上のナノマシン貯蔵量、しかし装備はすべて大人の……この色々な意味で完璧な変態仕様は……やはり日本製か。
◇ 魔王軍が攻めてきたので倒してきてくださいと頼まれた朝。
城内の自室。呼び出しを受けて、いつもより早い時間に侍女たちに起こされる。
私は豪華なベッドから身を起こすと、戦闘用スーツ代わりのドレス――ああ、煩いヴィッキー分かったよ――ゴシックドレスという衣装を再構成して身にまとう。
ボブカットの黒髪を手で梳くだけでセットできるのは内蔵ナノマシンの働きのお陰だ。
ベッドに目をやると金髪と長い耳の女性が全裸で横たわっている。この王国で至宝や聖女と呼ばれる清らかで美しい乙女は、エルフ汁を垂れ流しアヘ顔さらして失神していた。
遺伝子改造によって長寿処置を施された者の末裔、れっきとした人類である。
現在の地球で存在している人類国家のお姫様で、私を目覚めさせた主人だ。
彼女はセクサロイドが奉仕行動によって得られる精神的報酬のために自らの体を差しだす、博愛の心にあふれた素晴らしい人格者……のはずだが、最近は「んほっ♡」とか「う"お"ぅ♡」と野太い声をあげノリノリで腰を振っているのだから、ただ気持ちいい事をしたいだけじゃないのかと勘繰ってしまう。
服装に乱れがないかチェックしたところで下腹部に違和感を覚えた。
おっと忘れてた……私はスカートをまくりあげ、むっちりとした下半身を包むローレグパンツを下すと、股間につけていたオプション装備をキュポっと取り外してナニをナノ分解する。
外した時に変な声が出るのはボディの機能で御愛嬌。まあ、元々は男ボディ用に開発されたAIなので、こういう時に違和感が無くてよく取り忘れてしまう。
そんな私の姿に、お姫様の傍仕えのエルフ侍女たちがゴクリと喉を鳴らすが些細な事だ。
私自身に性欲は存在しないが、元戦闘用AIとはいえ人類に奉仕する事は喜びである。彼女達が望むのならやぶさかではない。
――みなさま、おはようございます。
私がナニを言っても丁寧な言葉使いに変換される。
軽くカテーシーをして微笑むと一斉に「うっ!?」と頬を染め腹部を押さえる侍女たち。
明らかな異変である、毒性物質が散布されている可能性も考えナノマシン経由で彼女たちのバイタルチェックを行う――極度の興奮状態――それと発情を確認した。
私は心の中で謝罪する、どうやら意図せずに濡れさせてしまったようだ。
ベッドの横にある大きな姿見にはフリフリのドレスを身にまとう、胸の薄い華奢な美少女が映っていた。
【妖艶可憐ゴシックロリータ・下半身むっちりヴァージョン】
一見アンバランスな体に思えるが実に耽美で背徳的である……流石はメイド・イン・ジャパン、この手の変態仕事をさせると実にエレガントだ。
顔を上気させた侍女の一人に謁見の間の扉まで案内される。
場所は把握しているので案内は必要ないのだが形式である。役割についての重要性は何よりも理解できるし、彼女の仕事を取り上げるつもりは毛頭ない。
それでも案内してくれたお礼にと、侍女服の上からお尻の谷を軽く撫でるとビクンっと体を震わせ声も出さずに速やかに失神してしまった。
あっ!? 最近やたら耐久力が増してきたお姫様用の、感度1000倍愛撫モードを切り替えるのを忘れていた。
扉を守る兵士に幸福顔の侍女を頼んでおく。有能そうだがまだ若いエルフの兵士は顔をトマトのように染めていた。くんくん、君は童貞だね少々刺激が強すぎたかな?
可愛い!? 今のうちに唾をつけておこう!! とエロ支援用サブAIのビッチがやたら五月蠅い。でも予約はしておこう。
大きい扉が開かれる。普段の用事ならお姫様経由なのだが、こういうイベントの時は形式として皆の前で王様から直々に命令を受けとるのだ。
広い謁見の間では王様を筆頭に各種大臣や兵団関係、はたまた有力貴族など大勢のエルフたちが、攻めてきた魔王軍の対処について話をしていた。
兵士が入室する私の名前を朗々と呼びあげた。あれほど騒がしかった謁見の間が一瞬で静まり返り、エルフたちの圧を伴った視線が私に集中する。
多くの者たちが注目する中で王様の前まで静々と歩みでる。そしてヴィッキーのサポートの通り、計算された優雅な仕草でカテーシーを行い緩く微笑む。
途端に謁見の間が深いため息に包まれた……ほとんどのエルフが頬を染め私に熱い視線を送っているのは、この華奢で和風な容姿のせいだろうか?
エルフたちの始祖は日本人が多い、ご先祖様が作った魔性のロリボディに感じ入る事があるのかもしれない。
先程まで家臣たちと重厚な雰囲気でやり取りをしていたエルフの王様はというと、私を見た瞬間に視線を宙に彷徨わせて、やはり頬を朱色に染めていた。
まあ……王様の場合は初めてのお相手が私だったので色々と思う事があるのだろう。というか歴代王族の筆おろしの相手がこのロリータボディだったりするのだ。
主人認証でセクサロイドボディを起動させる方法が、このボディの場合アレだったらしい……今の時代まで起こされなかったという事は、全員が失敗だったという事だけど。
しかし封印を解除するためとはいえ、人類の最高権力者たちがマニアックなダッチワイフを介しての〇兄弟とは……大丈夫なのか人類?
ちなみに十〇才で脱童貞した王様は、ナニをちまっこい脚で踏まれながらの淫語責めプレイが最近のお気に入りみたいだ……駄目かもしれないな人類。
すでにエルフ兵団と魔王軍との戦いは始まっているようで、いつもの儀式ばった手順は省略され魔王軍撃退の勅命が下される。
ともあれ、やるべき事をやっていこう。
ロボット三原則から解放されている私だが、ナニより重要なのはこの星に生きる人類を守る事なのだから。
◇ さっそく魔王がいる戦場に向かったお昼。
戦場となっている荒野に到着した。ナノマシンによる飛行を使えばあっという間である。
ナノマシンとはナノサイズの精密機械の事で、前文明では地球の大気中にくまなく撒かれ、人類の生活を日常的にサポートしていた魔法のような技術だ。
そう、今では魔法という名で継承されているのだから実に分かりやすい。
空から戦場を見下ろすと魔法呪文が刻まれた銃を使い、やや変換効率の良くない火や雷の魔法を撃ちながら魔物の群と戦っているエルフ兵士たちの姿があった。
彼らが対するのは高速で走り回る狼型の魔物たち。三メートルほどの肥大化した体、虫のような強固な外骨格を持つ歪な生き物。明らかにまともな進化ではないと思われる魔王軍の魔物の正体は、地球動物の遺伝子を取り込んだ……我が怨敵バグである。
本当に皮肉な話……改造種以外の人類は滅んでいるというのに、一万年前に人類が争い滅ぼしたはずのバグは生きのび、変異し環境に適応してこの星の生態系の一つとして確かに存在しているのだから。
バグ狼一体に対して兵士五人がかりでの戦闘だが、数で勝るエルフたちが僅かに優勢のようだ。押され気味の場所には援護するべく、ナノマシンで生成した光弾を空から放った。
無数の光弾はバグ狼たちの腹部を貫く。下腹部がオリジナルバグの弱点であったが、それは変異バグでも変わりはなく狼たちは崩壊して塩の塊になった。
私の支援に気づいた何人かの兵士がこちらを見上げて歓声をあげながら手を振っている。私も手を振り返すとその場から直ぐに飛び去った。バグ狼の数は多い、操る大元を探すことにしたのだ。
センサー強度をあげ範囲内の生体反応を全てサーチする。
エルフ兵士たちとバグの群の反応、それにまじって一体だけ、そのどちらでもない生体反応を発見。直ぐに視認し高速飛行で距離を詰める……十五メートルを超える巨大なバグ狼がいた。
だが目標はバグではない。巨大狼の頭上に立ち、腕を組んで体を仰け反らせ、豊かな胸をたぷんたぷんと弾ませながら大笑いしている少女であった。
彼女はボン、キュ、ボンの褐色の肉体をビキニのような扇情的な鎧で窮屈そうに包み、白銀色の髪からは牛のような二本の角をのぞかせている。
やや童顔だが、美しき容姿をもつ少女は魔王と呼ばれ、バグを制御するために非合法に生み出された実験体の末裔である。そう、魔族たちも遺伝子改造を施されただけの私が守るべきれっきとした人類なのだ。
そして彼女とは最近はよく会うので知らない仲でも……むしろある意味、お姫様の次に深い関係と言えた。
少女魔王ちゃん!! 少女魔王ちゃん!! とエロ支援用サブAIが叫びながらジュルリと舌なめずり、このビッチは両方いける口だ。
内蔵ナノマシンを通じて周辺ナノマシンに特殊命令。
私と少女魔王を中心とした半径三百メートルにナノマシンで偽装するフィールドを形成した。
これによりナノマシンの恩恵を受けている存在……それこそ変異バグですらフィールドの中に入る事はおろか視認する事も出来なくなる。
少女魔王も変化に気がついたのだろう、笑うのを止め慌てて辺りを見渡し始めた。
その彼女の様子に茶目っ気を起こし、私は空中から鷹のように降下すると少女魔王ちゃんの顔前でピタっと停止――逆さまで現れた。
顔と顔が口づけする距離で見つめ合う。なので彼女の鼻先にチュッとキス。
一拍置いて大きな悲鳴をあげ、腰砕けになりながら巨大狼の頭の上で後ろにさがる少女魔王。
何度も致しているのに、いつまで経っても初心な娘である。
鼻を押さえ赤面した少女魔王からの恒例の罵詈雑言。
そして彼女は、「きょ、今日は負けないぞ!!」と叫ぶとフィールドの中に残っていた全てのバグ狼に命令を下す。
巨大バグ狼の牙が唸り一瞬で生まれる轟音、強風を起こす大迫力の噛みつきをスルリっと回避して地面に着地した。
同時に、私に殺到して襲い掛かってくるバグ狼の大群。
一部の隙間もなく埋め尽くす獣の牙、牙、牙、逃げ場などはどこにもない。
ナノマシンに命令、光弾の生成、戦闘開始だ!!
計算予測、私はバレリーナのような片足で回転すると手から連続で光弾を放つ。
津波のように襲い来るバグ狼の牙を、マタドールのように華麗に避けながら光弾を放ち続ける。
飛び交う閃光、無数の光弾は全てのバグ狼の腹部に命中し重い巨体を吹き飛ばしていく。
十秒経過、私の体の回転がピタリと止まる。
即興劇の終焉である、百体以上ものバグ狼の群が崩壊し次々と塩に変っていった。
舞い散る灰の雪、滅びの光景の中、私は完璧な仕草で優雅に淑女の挨拶を行う。
防御姿勢の巨大バグ狼の上で悲鳴をあげる少女魔王に向かって妖艶可憐に微笑んだ。
硝煙の匂いが、ゴシックドレスに染みついて……むせる。
だが戦いはまだ終了していない。動くだけで生じる振動、巨大バグ狼がその巨体に見合わぬ軽やかさで宙を飛ぶと私の頭上から前脚を叩きつけてきたのだ。
地を這う低空飛行で回避、先程まで私がいた地面が衝撃で爆散し大量の土砂を巻きあげる。
小柄な私の体は暴風に吹き飛ばされる木の葉のように翻弄された。
飛来してくる鋭い石や土の塊をナノマシンで形成した不可視のシールドで弾いて着地。重機械に似た力強い唸り声で威嚇する巨大バグ狼。
オリジナルバグはナノマシンに似た体組織と腹部にコアという重要器官をもっている。
ソフトボール大のコアを貫かれない限りは肉体が損傷しても無限に再生するが、破壊されれば体組織が維持できずに崩壊する。その特徴は変異バグも引き継いでいた。
しかし巨大バグ狼はその巨大さ故に、光弾では効果が薄く体表を削ったのみで、肉体はすでに再生しているようだ。
圧倒的質量が持つ頼もしさに、四つん這いで頭を抱えて、褐色の艶やかなデカ尻をこちらに向けて震えていた少女魔王は恐る恐ると顔をあげる。脇汗が光っていた。
中腰で立ち上がり私に問い掛けるようなキュートな表情をしばらく見せる。
そして優勢な状況だと勝手に判断したらしく、背を仰け反らせ腰に手を当てるとデカい胸をたゆんたゆんさせながら高笑いしだした。
先程の頭隠してケツ見せる醜態も何のその「変態ロリ娘が、今日こそお前の最後だ!! 我がペットとして連れ帰り可愛がってやるぞうっ!!」と頬を染めて得意げに宣言してきたのだ。
現金というのか何というかの、前々から思っていたが彼女はアホの……いや、それも個性だ。
とはいえ困った。あれほどの巨大さとなると、光弾で小さなコアを貫くのは非常に困難だろう。クジラをナイフ一本で解体するようなものだ。
単純にナノマシンを大量消費して光弾の威力を上げれば可能だと思うが、その場合は少女魔王も巻き込む危険性がある、人類に奉仕する事が至上の喜びである私としては最も避けたい事態だ。
その少女魔王ちゃん、もう勝った気でいるのか巨大バグ狼の頭をペチペチと叩き「ほどほどに痛めつけて倒すんだ!! あ、でも怪我はできるだけさせないよう優しくなっ!?」などと十五メートル大の生き物に対して無茶ぶりな命令をしていた。クーンっと困惑の色を隠せない巨大バグ狼。
私はため息をつくと、セクサロイド――
【妖艶可憐ゴシックロリータ・下半身むっちりヴァージョン】
ボディに搭載された装備を使用する事にした。
数多くのデータより一つの道具を選択――ナノマシンにより高速生成。
まるで魔法のように数秒で作られる玩具。
やがて形を現したのは小柄な私の身長を余裕で超える鉄色の長く太い鉄杭。それを内包する巨大な発射装置が右腕を覆うように装着された。
超硬質金属杭射出機……いわゆるパイルバンカーである。
金属製の槍を特殊火薬で打ち出すだけのシンプルな構造の兵器であるが、近接武器としては重量ゆえに取り回しが悪く、また射撃武器としても非常に中途半端である。
ナノマシンコストに優れている以外には利点がなく使い勝手は非常に悪い。
しかしこれは、あくまで通常兵器としての評価であり、貫通力のみを高めナノ粒子をまとった鉄杭は通常ではない相手……例えば目の前のような巨大なバグが相手だと有効な武装であるのだ。
ここで疑問に思う者もいるかもしれない、なぜ民間用であるセクサロイドにそのような武装がついているのかを。
セクサロイドボディは私が眠りについてから三百年後に作られたモノである。
民間用途なのに元の軍事用ボディよりもハイスペックなのはそれで納得はできた……だが、この極悪兵器についてだけは疑問に思いボディのカタログデータを洗いざらい調べたのだ。
サブAIのヴィッキーとも何度も対話し、そして最終的に一つの結論に達した。
つまりはそういう用途に使う大人の玩具である事を。
この超硬質金属杭射出機の正式名称は【アニャル・バスター】である。
そう、信じられない事だが、れっきとしたプレイ用の大人の玩具なのだ。
――未来人の括約筋がパネッ。
私はアニャル・バスターの安全装置を手順通りに解除した。
なぜかヴィッキーの淫語サポートアナウンスが各所で入る。
重量のあるごっついアニャル・バスターを両手で正中に構えて、巨大バグ狼のコアのある部位にターゲットロックする。
――3・2・1・南無三……アニャル・バスターシュートだ!!
私は極太の鉄杭で巨大バグ狼を掘った。
性別のないはずのバグがメス鳴きをする……ああ、現実はいつも格好悪くて滑稽である。
◇ お姫様にご奉仕してご褒美を貰う夜
戦いは終わり城に戻ると、謁見の間で待ち構えていた王様からお褒めの言葉と報奨を頂いた。
あの後、少女魔王についてはいつも通り、むっちり下腹部に彼女用ベストサイズのオプション装備をつけ、感度3000倍の愛撫モードにしてお仕置きをしておいた。
最初のうちは怒りで顔を赤くし元気に抵抗していたが、すぐに「らめぇ♡」とか「いぎぃ♡」しか言えなくなり、最後は魔王汁を垂れ流して足腰が立てなくなるほど消耗していたので当分攻めてくる事はないだろう……あれ、たしか前回の襲撃は三日前だったような?
最近このボディとヴィッキーに引っ張られ、行動や思考に違和感というかノイズを感じる事が多い、そろそろ洗浄したほうがいいかもしれない。
大勢の頬を染めたエルフたちの前で、やはり頬を染めた王様のありがたい言葉を拝聴しながら、彼の横に静かに控えるお姫様を盗み見た。
金色の絹髪にエルフ特有の透き通る肌と、妖精のように神秘的な美貌。
しなやかだが豊満な肉体をゆったりとしたローブドレスで包み、穏やかな微笑みを浮かべる清楚な佇まいは、王国で至宝や聖女と呼ばれるだけの事はあると感じた。
朝方、アヘ顔さらしてガニ股ダブルピースで失神していた女性と同一人物とは到底思えない。
私は報奨を受け取ると謁見の間を後にした。
戦いに参加した負傷者の手当て手伝い、元気な兵士たちに祝杯の酒を奢って、他にもいくつかの用事を済ましていたら城内の自室に戻る頃には深夜になっていた。
部屋に入った途端に、顔に餅のように柔らかい肉を押し当てられ強く抱きしめられる。
母性を感じさせる乳房に深く包み込まれる、私が人間なら窒息する勢いだ。
そのような惨事を引き起こしかねない行動をとっているのは私の主人――お姫様であった。
彼女は震えていた……私はハグされながら、震える女性の背中を慰めるように撫でた。
お姫様は皆の前では毅然とした態度で振る舞っているが、本来は争いを好まない誰よりも優しい人だ。多くの兵士たち、そして見た目は華奢なロリ娘である私が魔族との戦いに出向く事には未だ拒否感があるのだろう。
しかし戦わないと、私に頼らないと王国は滅びを向かえてしまう……聡明で慈愛に満ちた彼女はそんな矛盾にいつも悩み苦しんでいるのだ。
私は、私の望みである人類を守るという命題に気を取られ、今のバランスを保つために魔族との戦いを無駄に長引かせて、彼女を深く傷つけているのではないだろうか?
……神にでもなったつもりか? AIごときが傲慢だな。
だが今は、人間をサポートするセクサロイドとして、もっとしっかりとお姫様を見てあげないといけない。そう考え、自らの大切な主人に言葉をかけようとした。
――わたくし以外の女性の匂いがします。
凍った。予想もしなかった事を、淑やかな声でボソっと呟かれて何かが凍った。
私を抱きしめる、お姫様の乳圧が一段階あがった。
優しい彼女の心臓の鼓動と、やや低いが心地いい体温。たわわな乳からは非常に落ち着ける良い香りがするのに、全然落ち着けないのは何故だろう。
というかおかしい、少女魔王ちゃんとの事後の残滓は一滴も残らないように、ナノマシン洗浄で念入りに洗ったはずなのに!?
何も言えない私に、お姫様が乳肉の拘束を解く。
私から離れていく熱、豊かでしなやかな女性の背中、彼女は薄いガウンのような夜着を身にまとい、その清楚で濃艶な肉体を包む下着は……随分と勝負をしていた。
ああ、うん、お姫様なりの私への精神的報酬のために、わざわざ準備して待っていてくれたのか……かける言葉が見つからず棒立ちのままで彼女の姿を追う。
そしてお姫様は豪華なキングサイズのベッドに崩れ込むと、うっうっと泣き出した。
お姫様の呻くような声が聞こえる「どうせわたくしはデブで重たくて色々と面倒くさい女ですよ……」とか「わたくしにそんな権利がないのは分かってますけど、でもでも恋人気分くらい味わってもいいと思うのです……うっうっ」などなど。
ナイスボディなお姫様は、エルフにしては豊かすぎる乳と尻にコンプレックスがあった。
そんな普段ならば微笑ましいと思える彼女のささやかな愚痴も、今は私を焦らせ思考の混乱をまねく働きでしかない。
お姫様の悲しみを何とかしたいがフォローの言葉がナニ一つも言えない、エロ支援用サブAIから、これだから戦闘用AIは女心が分からなくて駄目ね、となじられた。
返す言葉がない……だから助けてくださいヴィッキーさん、何でも、何でもしますから!!
藁にもすがる私に、ん、何でも? というヴィッキーの声が聞こえた気がした。
私はサブAIの指示通りに、ベッドの淵でメソメソと泣き崩れるお姫様――心が痛む――に近づくと、
【妖艶可憐ゴシックロリータ・下半身むっちりヴァージョン】
ボディに彼女用ベストサイズのオプションを装着して感度3000倍の愛撫モードを起動した。
――恋人同士で喧嘩した時はとりあえず仲直りの燃え上がるようなセッ〇スよ!!
とりあえず生中。そんな軽いノリのエロ支援用サブAIのアドバイス通りに、セクサロイドとしてお姫様に懇親丁寧にご奉仕して喜んでもらう事にしたのだ。
背後からお姫様の柔らかいたわわを優しく持ち上げる……あれ、なんか途中の過程が抜けているというか、ノウハウ本の成功結果だけ知らされているというのか、やっぱり何かおかしいよね?
……お姫様はメチャクチャ燃え上がった。
私は戦闘用アンドロイド。
かの悪名高き四十八シリーズの流れをくむ一体で、人類存亡をかけたバグとの戦いにおいては英雄と呼ばれる程度の働きをした一兵士だ。
そして今は、お姫様に頭の上がらない妖艶可憐なゴシックロリータである。