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キルユー キルミー!  作者: 星崎咲也
殺し屋と不死鳥
4/50

殺し屋と死にたがり その3

 取り敢えず今の状況を整理してみる。

 氷点下に近い気温の夜、

 人通りなど全くない公園、

 いるのは闇に紛れるぐらい暗い服と拳銃を持った男と、

 赤い染みをいくつも着けた白いワンピースを着た少女…


「不味すぎるだろ、この状況…うう、だんだん冷えてきたし、一回家に来い」

「あ、はい」


 出来るだけ大通りを進まないよう回り道をして帰る。

 男の部屋に初対面で同世代の女の子を連れて行くのはヤバいかもしれないが、既にヤバい状況なのでそんなことに構っている場合ではない。

 家に帰ってくるとアリスさんは相変わらず、こたつでぬくぬくしながらパソコンをいじっていた。

「おかえり〜 ひk…え?」

 アリスさんは振り返った直後、硬直した。

「訳あって連れて帰ってきた」

「…ってことはこの人が大堰川未来おおいがわ みくさん?でも殺すんじゃなかったの?」

 アリスさんは頭にはてなマークを浮かべているので事の顛末を話した。

「いやいや、まだ意味わかんないんだけど…取り敢えず未来さんに詳しい話聞こうか…」

 話を聞いてもまだ混乱している。まあ、俺もまだよく分かっていないのだが、

「未来さん、その…不死身の身体というのはどういう事ですか?」

 今度はこっちが緊張しながら尋ねた。

「すみません、ちょっと話が長くなるのですが構いませんか?」

 構わない、それで謎が解けるなら。

「わかりました、ではお話しさせていただきます」


「私は、研究者の父と主婦の母の間に生まれました。見た目は普通の赤ちゃんで今もこうして普通に成長しています。しかし、生まれつき怪我はすぐに治り、病気という病気は一度もしたことがありませんでした。

 父は私が生まれたあと、直ぐに海外へ転勤になり5年後音信不通となってしまいました。

 シングルマザーとなった母は、私の身体のことについて不審に思い、夫の研究所の同僚に私の遺伝子について調べてもらったんです。

 そうしたら私の身体は、突然変異で新陳代謝が異常に早く細胞が老化することもない、いわゆる超速再生能力と不老不死能力を持っていると告げられたのです。」

 彼女は淡々と続ける。恐らく何度もこの話はしたことがあるのだろう。

「あまり超常現象は信じるタチじゃないですけど、実際に体験しましたから信じない訳にはいきませんね」

 俺はそう答えた。もう、なる様になれって奴だ。

「それから私の生活は変わりました。細胞の検査と言われ皮膚を採取されたり、再生力の調査と称して腕や足を傷つけられたり、実験動物モルモットのように扱われる毎日でした。

 そしてついに、もうこんな生活が嫌だと母に相談しました。母はとても私に優しく接してくれて、泣きつくと一緒に逃げようとしてくれました。

 でも、研究所の人間がそれを許す訳は無く、ある時家に突然入り込んできて銃を乱射しました。

 母は、私を包み込むように庇いました。不死身の私を抱えて死んでいきました。

 それからというもの、私は親戚や友人を頼りにしては、良くて厄介払い、悪くて懸賞金目当てで差し出そうとしたり。

 いっそ死ねたらいいのにと思うことは何度だってありました。でも、いくら腕を切っても首を吊ってもビルから飛び降りても、傷が治るこの身体が憎くて憎くて…

 この前は、泊めてくれた友人の家に突如入り込んできて。私を窓から逃げ出させる内に撃ち殺されました。

 そんな時にライトさんの噂を聞きました。アメリカの大統領でさえ静かに殺す事が出来る貴方に頼めば、私も死ぬ事が出来るかもしれないって…」


 彼女はその後黙って下を俯いた。俺は声すら出す事ができなかった。

 泣き声がした。嫌なことを思い出させてしまったのか、少し罪悪感が走ったがそれは気のせいだった。

「ぞんなびどいごどあっだのでずがぁぁ、がなじずぎまずぅぅ」

 何故かアリスさんが号泣している。一番動じないと思っていた彼女が大泣きしているのは久し振りだ。

「……すみません、俺の力不足で殺すことが出来なくて」

「いいえ、こちらこそすみません。いくら稀代の殺し屋でも不死身の私を殺すことなんて無理な話ですから」

 恐らく悪気は無いと思うが、なんだか馬鹿にされているようでちょっとムカついた。

 でも、流石に人外を殺すのは俺にも出来ないと思う。こんな依頼は取り下げてもらうのが一番だ。


 しかし、この日の俺は何かおかしかった。

「いや、一度受けた依頼ですから精一杯やらせていただきます。」

 未来さんは眼を見開いてこっちを見た。信じられないという感情と死ぬ事が出来る希望を半分ずつ抱いた眼で。

「え?あ… ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

「ええ、あなたを絶対に殺してみせます!」

 俺はこたつの下で拳を握りしめ、決意の眼で彼女を見返した。

 こうして、高校生にして殺し屋の俺『桐崎ひかる』と不死身の身体を持つ不思議な少女『大堰川未来』の物語は、凍えるような星空の下、暖かなこたつの元で始まった。

 そして、俺の日常は終わりを告げる事にもなるのだった。

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