第1章《箱庭戦争》(7)
明朝、晶たちはすぐに拠点をたった。
向かった先は、同盟の本拠地。
森を抜け、山岳地帯へと登り、太陽が真上に来る頃には到着した。
耳元を風が通り抜ける。
「ここが我々の本拠地、竜の谷です」
山岳地帯の合間。
目眩のしそうな高見から見下ろす絶景。
崖と崖の合間が、竜のあぎとのようにそびえ立つ。
大地の裂け目、竜の谷。
そして、その崖の中腹辺りに、いくつかの横穴があり、その中には街が納まっているらしい。
巧妙に偽装された入口を降りると、門扉があり、門番のチェックを受けて、中へと入る。
中は10メーターほどの洞窟天井で、衝立を立てるような形で、建物の外壁が連なっている。全体図がわからないが、枝分かれしている通りの数を見る限り、けっこうな広さの街だと感じる。
人が溢れるほどでは無いものの、ここににいる人数の規模は相当なのだろう。街を作れるほどの駒を有する神が、無数に存在することを思い返し、箱庭戦争がとてつも無い規模のものだと認識させられる。
晶が軽く驚いていると、ルナシアはメイン通りの奥を指差す。
「まずは今から、我々の同盟“竜種の魔眼”の本拠地へと向かいます。このメイン通りを抜けた先にある登録所で、晶さんの能力を確認したあと、初期訓練と講習を受けてもらう事になりますね」
ルナシアの言葉に従い、通りを進んで行く。食料品を扱う店や鍛冶屋、薬屋などが有るようだが、そこにいる全員ともが、友軍の駒だった。そして、こんな世界でも、どうやら貨幣は流通しているらしい。
晶の表情を読んでか、ルナシアが説明してくれる。
「ちなみに、我々の同盟においては、独自の貨幣が流通してますよ。盟主の能力の一つが、何故か貨幣創造なんです」
「バロールは巨人族の王だから、統治系スキルなんでしょ、きっと。まぁ、通貨の観念が染み付いてると、やっぱりその制度が楽よね」
そういうと、アルテリリスはどこからか硬貨を取りだし、晶に手渡す。
「おねーさんからのお小遣いよん」
手にした金貨には、竜と目を組み合わせた意匠が刻印されている。
「アルテさん、大盤振る舞いですね」
「良いのよ、あたしは使い道は限られてるし」
「これって、そんなに高いんです?」
「10日は浴びるほど飲めるわねぇ」
「マジか…」
そんな会話をしているうちに、晶たちは登録所へとたどり着いた。
登録所の扉を開けると、人もまばらな建物内、埃っぽい本棚が並び、その奥にはカウンター。
そのカウンターに一羽の烏がとまっていた。
晶たちがカウンターに近付くと、止まり木にいた烏が、カウンターに降りる。
「お帰り、アルテ、シア。無事に新兵を確保出来たようだね」
烏がしゃべった。
驚きの表情を見せる晶に、烏は器用に笑う。
「はじめまして、新兵君。私は朝倉という。この竜種の魔眼の盟主の1人にして、この街の管理者だ」
そう言うと、烏は一度だけ羽ばたく。すると、一枚の紙が、ひらりとカウンターへ滑る。
「駒の登録を。我々は、新たな同胞を歓迎するよ」