第1章《箱庭戦争》(5)
「ここいらのメイン勢力は、女王ヘル、神母ティアマト、水神ヤマタノオロチを筆頭に、小さな同盟がひしめいてるわ」
アルテリリスの言葉が示すように、地図の大きな部分は、三柱の神の駒が支配する領域のようだ。
その他は、小さな同盟、というだけあり、名前の表示の方が大きいくらいの領域が連なっていた。
「箱庭における戦争は、もちろん領土が目的では無いですが、これはこれで一つの指標です」
ルナシアの言葉に、アルテリリスは結論のみを告げる。
「あたしらの目標は、つまるところ、他の神の駒を狩りつくす事よ」
「神々は、代理戦争を通じて、序列を決めているのです。駒が勝ち残れば、それだけ序列が上がり、神格の価値が上がる訳ですね」
二人の説明によると、こうだ。
箱庭戦争は、神々が駒を用いて行う代理戦争である。その結果により、神格の価値が上下する戦争であり、全ての駒を失った神から敗北するルールとなっている。
幻想核は駒の契約により与えられる神の力の欠片であり、箱庭で戦うための力にもなる。その力の顕現は、プロセスこそ簡略化されているが、魔術、と呼ばれる技術にのっとっているらしい。
「で、結局、魔術ってなんなんです?」
晶の質問に、ルナシアは解説する。
「魔術と魔法の違いは、技術かどうかですね。魔法は自然現象みたいなもので、魔術は手順を踏めば、ある程度誰でも使える技術なんですよ」
例えば、神隠しと呼ばれる現象は、突発的な転移魔法だとか。
「あたしらみたいな魔術師じゃなければ、似たようなものだって感じるかもね」
アルテリリスいわく、魔術も魔法も、一般人からすれば、不思議な力の発現にかわりないのだとか。
「技名みたいなのを叫ぶのが、魔術?」
晶のイメージは、少年バトルマンガである。
それを聞いて、アルテリリスは苦笑する。
「詳しく説明はしないけど、簡易詠唱って言って、技名が魔術詠唱、つまり呪文の役割をしてるの」
魔術は決まり事を、手順通り踏む事で、現実に干渉する技術であり、技名だけの詠唱はプログラムのプリセットをコマンドで呼び出すようなものらしい。
「幻想核のスキルを効率的に使うのにも、魔術という形にして、簡略化しておく方が、利便性が良いのです」
咄嗟に行使出来るように簡略化する、というのは、確かに合理的だ。鎧一つ纏うにも、一から想像を具現化するより、決まった形のモノを纏う方が楽だというのは、理解できた。
「だから、スキルを使うのに慣れてきたら、魔術のプリセットを決めておくと良いのです」
それからしばらく、晶は魔術師二人に色々な話を聞いた。そのうちに夜も更け、今後の方針は明日に説明すると言われ、今日の所は休む事となった。