第2章《箱庭の日常》(5)
そして夕方。
「とりあえず、炎の魔弾が使えるようになったわね。これで、ようやく魔術師見習いってとこかしら」
アルテリリスの視線の先には、魔弾が着弾した小さな焦げ目。風が吹けば消えそうな程のものだ。
いくつもの失敗をへて、晶が成した一度の成功は、小さく地面を焦がしただけではあったが、晶にとっては大きな1歩だった。
アルテリリスはそれを見て、満足げに笑う。
「君はやっぱり、魔術の才能あると思うわ」
「才能?魔術特性ってやつですか」
肩で息をする晶に、アルテリリスは苦笑を返す。
「いいえ、そっちじゃなくて、魔術を扱うコツとか要領が良いのよ」
魔術を習いはじめて一日で魔弾撃てる子は、なかなか居ないのよ?
炎の魔弾。
魔弾の中でも、基本属性のもので、誰もが通る道。
晶が習得した魔術は、初歩の魔術であり、基本の魔術である。しかし、アルテリリスいわく、基本こそが極めるのに一番難しく、この手の魔術の良し悪しが、魔術師の腕を量るものさしになるのだとか。
また、魔術を使えば、魔力を精製するために体力と精神力を消費する。魔術を覚えて間もない者ほど、効率が悪いことが多く、晶のように一日中魔術を使い続けられるのは、魔力消費が少ない魔術と言えど、それなりにすごい事らしい。
「今日やったことは、そのままスキルの制御にも繋がるわ。試しに、刀だけを造り出してみて?今なら出来ると思うわ」
アルテリリスに言われるまま、晶はスキルを発動する。
魔術は想像力。
竜翼のイメージから生まれた鎧、そこから竜の爪である刀だけをイメージする。
幻想核の熱量を、右手に集めるように。自身の爪が竜のものであるように。イメージを加速する。
焦点が揃い、クリアになる感覚。
その刹那に、力を解放する。
「”歪なる骸の竜翼“」
名前を呼ぶと、晶の右手には、大太刀。
「ね?出来るでしょう?」
刀のみならず、腕を鱗が覆っていたが、鎧一式を精製するよりは迅速に、かつ意識した通りに近い形で、スキルは発動した。
「これが、スキルを制御するって事…」
「そうよ。これが出来て、はじめてスキルを使いこなす事が出来るの」
箱庭戦争において、魔術師でない新兵からその域に至るまでに、半数は淘汰されてしまうらしい。
「君は運がいいよ?おねーさんやシア、二条の二人に鍛えてもらえるんだからね」
「死にたくないんで、頑張ります」
「いい返事ね。それじゃ、今日はここまでにしようか」
時計はすっかり夜を指していた。
へとへとになりながらも、晶は充実感を感じており、心地よい疲れが身体にたまっている。
「さぁて、今日の晩ごはんは何かしらねー?今日は気分上々でお酒が進みそうだわん」