第2章《箱庭の日常》(2)
「あー…さっきはごめん」
「いえ、僕も使用中の札をかけてませんでしたから…」
「えっと、それでこれから何処へ?」
「晶さんに街を案内しておこうと思いまして」
遅めの朝食をとり、晶とルナシアは街へ出ていた。
ちょっと気まずかったが、ルナシアが気にしないと言ってくれたので、晶もそれ以上触れないようにする。
「この街に限らず、箱庭の街は、戦争のための要塞のようなもので、多少複雑に作られているのです」
「侵入者を迷わせるため?」
「もちろん、それもあります。後は、逃走、迎撃の時間稼ぎにも有効ですね」
そう言われてよく見れば、確かに建物の窓は小さめで、銃眼のようでもある。
また、全体的に道が狭いのも、洞窟内という事よりも、要塞化という側面が強いようだ。
「昨日歩いた時は、ついていっただけだから迷わなかったけど、確かに解りにくいね」
晶がこぼすと、ルナシアはふふっ、と笑う。
「新兵さんがつまづく第一関門です」
そんな会話をしつつ、辿り着いたのは、日用品店だった。
「先ずは、雑貨屋ですね。日用品はおおよそここで揃いますよ」
店の中へ入ると、品数は全体的に多くはないものの、必要最低限のものの他、嗜好品や装飾品も置いてある。
「ルナシアさん、これは何?」
晶には物珍しいものも多々あり、気になったものを指差し聞いてみる。
「シアで良いですよ。これは、そうですね…お守りみたいなものです」
タリスマン、と言いまして、魔術的な加護がかけられているのですよ、とルナシア。
「んー、ではここで、先輩からの贈り物です。どれか一つ、選んでください。新兵さんへの安全祈願ですよ」
安全祈願、と言われると遠慮しづらい。買ってもらうのには少し気が引けたが、晶は商品を見渡して、目についた一つを取り上げる。
「じゃあ、これで」
焔をまとった銀色の剣に、黒い狼を合わせたデザイン。
「む?あまり見たことない気がしますね…。まぁ、悪い感じはしないから、大丈夫か」
晶から受け取り、会計を済ませると、ルナシアはタリスマンに鎖を通し、晶に手渡す。
「お守りですから、身に付けておいてくださいね」
そのあと、いくつかの店を回った。
食料品に、薬屋、魔術用品、書店、装備品店など、実に様々な店があり、品揃えこそ控えめたが、明らかに流通していない自作品などもあって、やる気があれば、商売できるものだと思い知らされる。
一通り見たところで、ルナシアの薦めにより、遅めの昼食をとることになり、食堂へ。
二人分のパンと野菜スープがでてきた所で、ルナシアが言う。
「なんで、こんなに品物があるか、秘密を教えましょうか?」
晶がなぜ?と聞き返すと、説明してくれる。
「竜種の魔眼には、物流部隊がいて、各地の拠点で卸売りをしているのですよ」
「何となく感じてたんだけど、きっと建築部隊とか、医療部隊とか、あるんだよね?」
晶の質問に頷くと、ルナシアは続ける。
「長期間の戦争をする上で大事なのは、結局持続性なのです。ゆえに、同盟とは言いつつ、ここは一つの国家なのですよ」
聞けば、ニーズヘッグとバロール、合わせて500程の駒がいるらしい。クラーケンはそもそも駒が10騎しかおらず、一騎当千ではあるが、当のクラーケン自身が、序列に興味が無いらしい。駒の方が自ら同盟に参加したいとの申し出があり、今の竜種の魔眼は成り立っているそうだ。