第2章《箱庭の日常》(1)
第2章《箱庭の日常》
翌朝。
野宿した後だからか、緊張がほぐれたからか、晶が目を覚ましたのは、太陽が登りきった後だった。といっても、洞窟の中のため、太陽が見える訳ではなく、単純に腕時計の時間が見えただけだが。
「もう10時か…。だいぶ寝過ごしたかな」
改めて、寝床のあるありがたみを感じる。1日野宿しただけなのに、随分久々だと錯覚するほどに、身体はベッドに焦がれていたようだ。
そいえば、箱庭の時間は、元の世界と変わらないのか。箱庭がどういう物理法則で成り立っているか、想像もしなかったが、違和感を感じない程度の差しかないのだろうか?
「朝倉さんなら知ってんのかな…?」
身体を起こすと、節々が痛いが、とりあえず起きて着替える。隊舎に用意されていたシャツとジーンズだ。昨日まで着ていた学生服は、泥と返り血で汚れきっていたため、洗濯するからと言うルナシアに預けていた。
こういう物も、スキルで作っているヤツがいるのだろうか?箱庭への疑問は尽きないが、とりあえず晶は洗面所へと向かう。
ガラリ。
洗面所には、はたして先客がいた。
目の前に広がる光景。
現実逃避気味に、晶の思考がフリーズする。
それは、白い妖精のようであった。
染み一つ無い肌は滑らかに曲線を描き、柔らかくしなやかな肢体は適度に引き締まっている。
そのお尻には短いしっぽ、そして頭には白く長い耳。
鏡越しに全てが見える中で、その主とバッチリ視線があう。
「あ…」
「あ、おはようございます…」
他の誰でもなく、ルナシアである。
互いに認識した瞬間、ルナシアの白磁の肌が、柔らかそうな頬が、桜色に染まってゆく。当然、全てを見ており、見られている事が、互いに解っている。だが、想定外の出来事に、思考が追い付かず、ただただ状況だけが悪化して、それが限界に達し、瞳に大粒の涙が溜まった時、晶はようやく我に返り、退避した。
「ご、ごめん!」