第1章《箱庭戦争》(10)
「では、改めて…アルテリリス隊へようこそ、水無月晶くん」
「これで、晴れて同じ隊員ですね」
街の一画、兵舎の並ぶ区画のうちの一つに、晶たちはいた。
竜種の魔眼軍にて、各隊に与えられる共用住居は、こじんまりとはしているものの、過ごしやすそうな家だった。そのリビングにて、晶はようやく一息ついていた。
「とりあえず、部屋はあとで用意するわ。その前に、軽く説明ね。疲れてるとは思うけど、もう少し我慢してちょうだい」
いいかしらん?と確認され、晶が頷くと、アルテリリスは説明を始める。
「隊舎は、あたしとシア、晶くんを含めて、5人で使う事になるわ。残り2人は別の任で、少し出てる」
そう言うと、アルテリリスは生活上のもろもろの注意点を説明していく。
「ちなみに、お風呂は一つだけだから、覗くなら、おねーさんだけの時にするのよ?」
茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせるアルテリリス。
「えぇと、時間帯で分けてるので、気を付けてください」
それを軽くあしらうルナシア。
そんなこんなでしばらく説明を受けていると、兵舎の扉が開く。
「ただいまぁー」
「只今戻りました」
二人分の声に、晶が振り替えると、そこにはツインテールの女の子、端正なイケメンが立っていた。
「おや?新兵ですか、隊長」
イケメンの方が訪ねて、アルテリリスが肯定すると、イケメンが晶の方を向いて言う。
「オレは二条天真。バロールの駒だ。こっちは双子の妹の真央。君の名は?」
晶が名乗ると、天真は爽やかに握手を求めてくる。よろしくお願いします、と返し手を取ると、天真は白い歯を覗かせ、よろしく、と微笑む。そして、忘れていたかのようにこぼす。
「あぁ…あと、言っとかないといけないね」
闇を覗かせる瞳で、手には力がこもる。
「妹に手ぇ出したら、ただじゃおかないよ?」
狂気を感じさせる瞳が、晶をとらえる。
だが、天真の凄みが効いたのは一瞬だけだった。なぜなら。
「もうっ!お兄ちゃんったら、過保護なんだからっ!」
ツインテールの妹、真央が鉄拳制裁をかましたからだ。素早く、最短距離で、腰まで入ったボディへのフックは、クリティカルヒットで間違いなく。
(言葉と行動が全く合ってねぇ!?)
晶が内心つっこむほど、拳がボディにがっつり入っていたが、天真は怯まない。
「いやいや、真央の愛らしさは世界一だから、全ての者に注意しても、したりないくらいだよ」
「ごめんねー、晶くん。この人、ちょっと病気なの」
「ははっ、よく解ってるじゃないか。オレはいつでも、真央への恋患いを抱えてるのさ」
そんな言葉を皮切りに、鉄拳と愛の言葉の応酬が始まったため、ルナシアが呆れつつ言う。
「二条兄妹は、魔術大家…言うなれば、魔術師のサラブレッドの家系の出身で、その辺色々な事情があって、兄妹ですが恋人で許嫁なのだそうです。…このような感じで日常的に仲良くやっていますので、あまり気にしないでください」
「魔術師はね、代々自分たちの魔術を受け継いでいるの。その歴史が長いほど、強力だって考えてくれたら良いわ。で、強力であればあるほど制約があって、二条家の場合は、二つで一つ、がその制約なのよ」
ちなみに、あたしやシアも同じで、何かしらの制約があるのよ、とアルテリリス。
「まぁ、僕らのルールなので、その辺は晶さんが気にする必要は無いです」
話題が一段落した所で、アルテリリスが提案する。
「とりあえず、お風呂でさっぱりしてから、ご飯にして、今日は休みましょうか」