第1章《箱庭戦争》(9)
「そいえば、ちょっと気になってたんですが、アランはニーズヘッグの代理人なんですよね?」
最初に出会った時から、人間らしくなかったが、今までの話から推測するに、神の使いなのだろう。
そんな晶のふとした質問に、朝倉が聞き返す。
「む?君は代理人に会えたのかい?」
代理人アラン。
彼はニーズヘッグの代理人だが…、と朝倉は言葉を切り、晶に問う。
「君は魔術師では無かったよね?」
晶が頷くと、朝倉は一人唸る。
「代理人が見えるのか。うぅむ…なら、そのままの方が良いかもしれない。君はどうかな、アルテ?」
「んー、まぁ…なんとかなるんじゃない?」
唐突な会話の流れに、晶が疑問符を浮かべていると、ルナシアが教えてくれる。
「神の代理人は、ある才能が…魔術を使うための適性が無ければ、姿を見ることが出来ないんですよ」
だとしたら、不足気味のチュートリアルでも、あっただけマシだったということか。あれすら無しに、スカイダイビングは勘弁被りたい。
「君は魔術師ではないが、魔術適性に優れているようだ。ならば、優れた魔術師の元で少しでも魔術を学ぶ方が、結果的に生き残る可能性が高くなるとは思わないかい?」
魔術師。
魔術適性。
どちらにも、欠片ほどの親近感もない言葉だが、死ぬことへの恐怖を知った今の晶には、少しでも可能性がある方に進むしかない。
「本来は非魔術師の新兵は、新兵のみの部隊に配属、訓練したのちに各部隊へ配属だが、君のように魔術適性があるなら話は変わる。訓練では幻想核スキルの使い方は教えても、魔術は教えないからね」
朝倉の言葉に、晶は意志を示す。
「魔術とかよく解らないっすけど、生き残るためなら、やります」
決意しつつも少々不安げな晶の肩に、決断力のある男の子はキライじゃないわぁ、とアルテリリスが肩に手を置く。
「おねーさんが手取り足取り教えてあげるわよん」
しなだれかかる猫のようなアルテリリスを無視しつつ、朝倉は締めくくる。
「とにもかくにも、水無月君。君は箱庭戦争に巻き込まれた。君に生きる意志があるのなら、我々竜種の魔眼は君を歓迎するよ。ようこそ、戦場へ」