序心 ホワイト・センチメンタル
短めです。
ーーそれはぼやけた視界の中ーー
何かドス黒い巨大なモノが凄まじい勢いで迫っている。
俺はそれをただ何をするでもなく眺めていた。
見たことない異様な姿をしたイキモノの姿を頭で認識した瞬間、何かに取り憑かれたように立ち止まり見惚れていたのだ。
声が聞こえる。
「早く逃げろ! 死にてぇのか!」
金髪の男が声を荒げる。
その声は脳に届く前に霧散して消える。
理解できずに、立ち尽くしていると
「もぉーいい、ほっとけよ! そいつを餌にして喰ってる間に逃げるぞ!」
そんな声が聞こえた数秒後、視界が暗転したーー
はぁはぁと息を切らしながら起き上がるとそこは1LDKのアパートの一室だった。
見慣れたベットに見慣れた机、使い古しの椅子に明日出そうと思って纏めてあるゴミ袋、それらを認識してここが自分の部屋であることを認識する。
その後で、ベットの横に掛けてある端末の電源をOFFにした。
それは睡眠現実【SR端末】と呼ばれる睡眠導入装置である。
厳密には、ゲームの類に当たるそれは夢の中で脳が作り出した世界を冒険するというもので、仮想現実世界【VR】とは似て非なるものである。
この端末は寝ている間のみ使用可能で、ネット環境さえあればどこでも使用できる。
勿論、オンラインもできるがレム睡眠時のみ起動する為プレイできる時間が短いのが特徴である。
ベットから出ると着替えて仕事に向かう準備をする。
いつもより早い時間で家を出る。
扉を開けると陽光が体を照らす。眩しくて目を細めるとそこに影があった。
佇むその影には見覚えがあった。
「おはようございます」
声をかけられ、影の主を理解する。
城山 美佐である。脱色した2つに纏めた髪が揺れている。いつもの奇抜なファッションとは異なり今日はおとなしめだ。
いい夢を!