パルゴの村3
こちらの話が粗方終わったところで、じいさんが納得顔で言う。
「成る程な。それで騎士さまがこんなとこまで来た訳かい」
騎士? いきなり、なんの話だ?
「5、6日前だったか。兵士を5人しか連れずに、ザンドラの町からわざわざ悪党を捕まえに来たのさ」
騎士と兵士5人でこの村に来るなど自殺行為に過ぎるだろう。そもそも村人の半数以上が悪党だろうに。
「その騎士たちはどうしたんだよ?」
祖父さんは笑いを抑えられないらしく、顔を恐ろしく歪めて笑った。
「もちろん身包み剥いで、返してやったぞ」
「じいさん、そんなことして平気なのかよ? 次はもっと大勢で来るんじゃねぇか?」
「ヘッ、あんな戦い慣れてねえ騎士がいくら来ようが、問題ねぇよ。心配ならおめぇが他所から傭兵でも雇ってきてくれや」
そんな金ないっての。こっちが借りたいくらいなのに。
「それよりゾルタン、そこで丸くなってるガキ二人はお友達かよ?」
ガキ二人とはもちろん、奴隷候補のカルスとペルンだ。お友達ではないし、俺はお友達を縄で縛ったりもしない。
「あいつらはどっかの貴族さ。腕が立つみたいだから、剣闘奴隷にして小銭を稼ぐつもりだよ」
「ありゃあ、こないだ俺達の討伐に来た冒険者だよな」
今まで飯を食いながら黙っていたゴツイじいさん、ゼノバが部屋の隅に目を向けて言うと、今度は銃を整備し終わったらしいおっさん、ニルも話に参加する。
「そうだな、カルスとペルンだったか。わざわざ名乗ってから勝負を挑んできた馬鹿だ」
この二人は祖父さんの狩り仲間だそうだ。
ゴツイじいさんはゼノバと名乗っていた。盛り上がった筋肉に全身の傷跡、薄汚れた服と茶色の髪を肩まで伸ばし、さぞや若いときには悪の限りを尽くした男かと思ったのだが、若い頃は二つ名が付くほどの傭兵だったのだとか。
狩人風のおっさんは、ニルと名乗った。息子と一緒にこの村へ来て5年ほど、おれのじいさんとはこの村に来てから知り合って不思議と馬が合い、狩りを手伝うようになったそうだ。
ニルさんは長身の落ち着いた男で、この人は流石にカタギだろうと思っていたのだが、息子と逃げてきたというくらいだから見かけによらないのだろう。
その二人の話によると、罪人の引渡しを求めてきた騎士たちを追い返してから数日後、狩りに出掛けようとしていたじいさん達は、山賊団の元親分として有名なじいさんを倒して名を上げようとした馬鹿2人と街道で鉢合わせしたらしい。
もちろんじいさん達は名乗ったりせずに速やかにボコボコにし、剣やら金やら巻き上げた挙句、山の方へ追い立ててその日は随分と楽しんだのだという。
全く、呆れるほかなかった。
「騎士やら冒険者やらから有り金巻き上げたのか。じいさん、まだまだ現役じゃねぇか」
「なに言ってんだおめぇは。親分になったからにはもっと大きなことやってみせろい」