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賊長がアップを始めたようです。  作者: ぽよぽよ
第1章 賊も歩けば山から落ちる
3/11

山賊の実力

 集まったのは15人。子分に加えて、追いはぎが5人参加している。

 いつも荷馬車を襲うときには追いはぎ連中にも声を掛けている。単純に数というのは力だからな。そもそも人数差があれば相手も諦めがつくというもので、抵抗せずに荷と金の半分を差し出すことが多い。抵抗してきたとしても囲んでから痛めつけてやって、誰がこの山の支配者か教えてやればいい。

 よっぽど抵抗するなら殺すが、俺達の場合襲った相手を殺すことは少ない。生かしておけばまた来てくれることもあるからな。どんな商売でもリピーターは大切にするべきなのだ。


 王都と南辺境を行き来する行商人はそれなりの数がいて、頻繁に行き来する商人には木板に汚い字で俺の名を書いて通行手形として売りつけるが年に1、2度しか来ないヤツは通行手形も持っていないので、俺達に見つからなければ運がいいし、見つかったらおとなしく差し出せばいい程度にしか思っていない。

 山賊団の人数が減ったせいで見張りを常に置くなど不可能なうえ、相手が大店でかなり稼げそうだと思っても、数人の傭兵でも雇っていればとてもじゃないが敵わない。

 

 そんなこんなで、取りこぼしがかなりあるのが現状だ。通行手形はすべて俺が自分で書いているが、子分たちも簡単な読み書きはできるし、俺の汚い字をちゃんと覚えているので偽造はされないというのが唯一の救いだ。



 俺たちは太陽が真上に来るころに街道に到着した。今朝早く、アジトに戻ってすぐに子分をたたき起こしてコリンを見張りとして先行させておいた。予定では襲撃は明日だが、間違いが起こってからでは遅いのだ。


「様子はどうだ?」


「まだここを通過してないのは間違いありやせんぜ。今日はまだ誰も通ってありやせんから」

 

「よし、全員いまのうちに飯を食っとけ、明日は火は焚けねえからな。コリンは街道のてっぺんが見える位置まで進んで見張ってくれ」


「へい親分。いってきやす」

 毎度思うがこの口調はなんなのだろう。コリンはゼスと俺の前では昔のようにくだけた口調なのに、他の連中がいるとまるで田舎の農夫のような口調になってしまう。確かに南辺境は田舎なのだが、ザンドラの町周辺ではこんな田舎くさい言葉遣いのやつはなかなかいない。




 丸一日かそこらして、コリンが戻った。

「よぉ親分、荷馬車がてっぺん越えるのが見えたぜ。あと2時間もしねぇ内にくる。徒歩の護衛が二人と御者だけだ」

 

「おつかれさん。ゼス、全員準備させておいてくれ」


 ゼスはこういうとき、なんでもないように言うのだ。

「おう。殺すのか?」

  

 真っ当な奴なら口にしないだろうし、ごろつきなら目をぎらつかせそうなものだが、ゼスは普段通り。それが頼もしいところである。


「護衛は殺す。大金だからな、諦めずに追いかけてきたら面倒だ。御者は邪魔しないようなら放っておけ。それからジルバには、4人連れて馬車の後ろにまわるように言ってくれ」


「伝えてこよう」




 賊という生き物は大抵が短気な奴ばかりだが、獲物を待つ間じっとしているのはむしろ得意だ。今も街道脇の茂みには15人の荒くれ者がいるはずなのに、まるで気配を感じさせない。


 襲撃には大事なポイントが2つあり、1つは先に述べた数の力。もう1つは速度である。

 遠くから殺気をみなぎらせて近づけば相手に恐怖を与えることはできるが、それは同時に死の覚悟を決める時間を与えることにもなる。そんなことをするよりもひっそりと隠れ、相手の方から近づいてくるのを静かに待ち、一斉に雄叫びをあげて駆け寄り、獲物を瞬間的に恐怖のどん底に突き落とす。 大抵はこれで戦いにもならない。



 獲物が近づいてくる音がした。徒歩の護衛が二人。御者は戦力外のはず。だが最悪、荷馬車の中にもう数人は護衛がいるかもしれない。

 2組の足音、車輪の転がる音が重なる――荷馬車が2台なのか? コリンの阿呆め、ちゃんと確認せずに戻ってきやがったな。


 護衛の傭兵どもは飛び道具は持っているだろうか? こっちは全員が皮鎧なのだから、弓でも撃たれたら簡単に貫通して、あっさり死んじまう。

 くそったれめ、今更になって悪い予感がしてきやがった。親父のあとを継いで初めての大仕事なんだ。ここで成功させなきゃ手下どもになめられちまう。




 見えた。やはり護衛は馬車の前方両脇に2人だけ。だが荷馬車は2台。そして御者。

 ホロが掛けられ中が見えないが、あちらさんの戦えるのは今のところ軽装備の傭兵2人だけ。弓も持っていないように見える。対するこっちは荷馬車の後ろを押さえるためにジルバを含めた5人、荷馬車の前方にはゼスを含めた5人。その後ろに俺がつき、更に後方に数増しのための追いはぎ5人。

 囲めばすぐに終わる。御者は抵抗しなければ殺す必要もない。



 護衛の一人が俺の潜んでいる茂みを見た気がした。


 ばれたか?

 どうでもいい! ここまで近づいていれば逃がす訳がない!

「てめぇら! やっちまえ!!」


 雄叫びをあげながら15人の賊がそれぞれの武器を手に、一斉に茂みから飛び出す。先頭を切ったのはカチートのジルバ。馬車の後方から、一際大きな雄叫びをあげながら駆け寄り――――


 ――――雷のような音が響き、鼓膜を痺れさせる。


 辺りに火薬の臭いが漂い、遅れてジルバの白い毛皮に赤い染みが浮かんだ。



「……は? なにが」

 視線を動かすと、御者席の男がクロスボウを持ち上げた。


 再びの破裂音――――。荷馬車の後ろで一人倒れるのが視界の隅に映った。



「ゾルタン‼ さっさと逃げるぞ!」

 呆然として動けなかった俺の腕を引いたのは長身のコリンだった。


「あ? あぁ」

 まだはっきりしない意識の中、御者席の男が俺にクロスボウを向けたのが分かった。


「ゼスっ?! なにを――」

 左前方から焦った声がして、仲間の男が宙を舞って俺に向かってくる。


「なっ!?」

 飛んできた仲間を反射的に受け止める。一瞬遅れて、空気を裂く鋭い音。


 そして――――衝撃。


 御者の放った矢が、抱え込んでいた男に突き刺さった。手を離すとそのまま崩れ落ちる男。



 体が宙に浮く。

「ゾルタン、掴まってろ」

 ゼスの低い声。 肩にかつがれて自然、頭はまだ仲間の戦っている荷馬車の方を向いた。



 賊の右腕が護衛の男に斬られて宙を舞う。先頭の荷馬車から傭兵が更に3人降りてくるのが見える。

 

 俺の一歩後ろに控えていた追いはぎ達は、この時点で街道を町に向かって走って逃げていた。

 山賊たちはといえば、ゾルタンが指示を出せない状況で誰も正常な判断をできず、更にはもはや逃げられる距離ではなく、目の前の傭兵を切り倒すほか無かった。

 

 胸を赤く染めあげたジルバが、後方の荷馬車から降りてきた兵士の頭を巨大な戦槌で横から殴りつけると兵士はヘルムを大いに陥没させて3メートル程吹っ飛んで動かなくなった。


 ジルバが次の獲物に向かおうとする前に、後方の荷馬車から再び銃声が響いた。 唯一の勝機だったジルバが今度こそ膝をついたことで、まだ生きていた山賊たちは武器を捨て、ひざまずくと許しを請うた。 


 

 既に街道を外れ、森の奥へ逃げて行く俺達を見ている男が居た。件の荷馬車2台とは反対の、街の方から静かに来ていた馬車の中から忌々しげに顔を歪めていたその男は、馬車を降り目の前で膝をついて命乞いをする山賊をピストルで撃った。


 ジルバが怒りに燃えて戦槌を手に立ち上がろうとするも、飛び出した黒毛のカチートがそのままの勢いで戦斧を振るう。 ジルバの分厚い毛皮を切り裂いて左手首を斬り飛ばした。

 一人また一人と屠られていき、一際大きな雄叫びとともに、ジルバの首が飛ばされた。




 ゼスは左手にマチェーテを握り、右肩に俺を担いだまま道を切り開きながら10分近く走り続け、ようやく体力的にきつくなったらしく俺を放るようにして降ろしてくれた。数回地面を跳ねた尻が悲鳴をあげたが今はそれどころではない。


「ゾルタン、怪我はないか?」

 ゼスに聞かれて自分の体を見るが特に怪我はなく、精々がかすり傷程度。ゼスとコリンも無事らしい。


「3人になっちまったな。ハハッ……これからどうすりゃいい?」

 コリンが乾いた笑いをする。


 

「俺にだって分かんねぇよ」

 

 本当に…………どうすりゃいいんだ?




 ザルエルが裏切った。というのはいくら馬鹿でも分かることだ。

 それより傭兵もカチートも安くはなかったはず。最初から俺達、もしくは俺が狙いだったと見るべきなのか。


 馬車の護衛をしていた2人と、クロスボウを構えた御者も多分だが傭兵だったはずだ。腕も良かった。加えて先頭の馬車から出てきた傭兵が3人。

 次に、銃を持った兵士が2人。後方の馬車の御者は武器を取らなかったから、ただの使用人だったんだろうか。

 最後に、ちらりとしか見ていないがザルエルと戦奴隷のカチート。


 お相手は全部で11人。ザルエルと使用人は戦わないとして、9人ってことだ。対するこちらは3人、追いつかれたらまず勝ち目はない。


 ザルエルと敵対した以上、町には戻れない。王都には当てがない。アジトは捕まったやつから位置がバレるだろうから遅くとも数日後にはやつらが来る。

 山の外れの村には、数年は会っていない祖父が住んでいる。だがこれもザルエルは知っているかも知れない。




 よし、決めた。


「俺は南辺境を出る」

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