きっかけはバレンタイン。
初めまして。
藤野美和と申します。
宜しくお願い申し上げます。
オリジナルは初めてなので、至らない点が多々有るとは存じますが、暇潰しにでも構いません。
ご覧頂けると嬉しいです。
そして、批評して下さるともっと嬉しいです。
後学の為にも参考にさせて頂きます。
公開するのは初めてなので、緊張しておりますが、優しい意見も厳しい意見も大歓迎です。
私の拙い作品が、どういう反応だったのか作者としては非常に気になります。
それでは、あなたもファンタジーな藤野ワールドへようこそ。
ここは、私が通っている、とある高校。
2月14日。
バレンタインデー。
2年生の放課後の教室。
私のクラスでも、ガヤガヤとした喧騒に包まれていた。
その大半が、男子は幾つチョコレートを貰っただの、女子は何々君にあげただの、バレンタインデーならではの話題ばかりだ。
そんな中、 同じクラスの男女数人が私の席にやって来た。
皆は私の事をこう言う。
漆黒のストレートロングを腰まで伸ばし、色白な愛らしい顔立ちにも関わらず、歯に衣を着せず誰とでも気さくに話すので、自然と性別に関わらず友達は多い、と。
でも私には、彼氏は居ない。
「ねえ、こずえ!これから遊びに行かない?」
女子の一人が、私を誘う。
しかし、私は申し訳無い気持ちで首を横に振った。
「ごめん!今日の課題をここで済ませちゃいたいんだ。よく解らないところが有ったから、先生に直ぐ質問出来るように」
「こずえって真面目だよね~。まあ、私達は、そんなこずえも好きだけどさ。たまには遊びも覚えた方が良いよ。また明日ね!」
男女数人の私の友達は特に怒った様子もなく、教室を出ていく。
皆が私の見た目が可愛いと言い、誰とでも話すのに彼氏が居ない訳は.......。
私は教科書とノートを取りだしながら、こっそり後ろの席を見た。
(何でまだ居んのよ~)
私は、後ろの席の男子が以前から気になっていた。
しかし、クラスメイトの中でも唯一、話掛けることも出来ずに、いつも遠くから見詰めているだけだった。
そう、私は恋愛に関して奥手なのである。
おまけに堅物なので、好きでもない男子とは付き合えない、と言う価値観が念頭に有る為、今まで私にコクってきた男子達には申し訳無いが、丁重に断らせてもらってきた。
いつしか、そんな私は皆からクラスのアイドル的な存在だと言われる様になっていた。
当の男子は、私がまさか自分を気にしてるとは夢にも思わない様子で、クラスメイトの数人とおしゃべりしている。
皆、早く帰れば良いのに。
いや、正確には早く帰ってくれないと私も帰れない。
私は今日の為に生まれて初めてチョコレートを買っておいたのだ。
もちろん、気になる男子にあげようと思って、である。
私の中に、直にあげるという選択肢はない。
そんなことしたら、私の気持ちが相手にバレてしまう。
しかし、何もしないのも自分の気持ちに嘘をついてる様で。
私の心中は複雑だった。
男子達が帰る様子がないので、私は、とりあえず課題を進める。
面白いようにスラスラ解ける。
(はあ~、恋愛も勉強みたいに簡単になれば良いのに)
心の中で私はぼやいたが、現状は変わらない。
やがて、すべての課題を終えた私はいつの間にか教室に一人で居ることに気付いた。
オレンジ色の光が窓から差し込み、教室を照らしている。
(チャンス!まさか誰か戻ってこないわよね)
私は自分の学生鞄から、こっそり忍ばせておいたラッピングされたチョコレートを内心、ドキドキしながら、取り出すと男子の席へ向かった。
短い距離なのに、足が震える。
誰かに見付かったらと思うと自分の心臓の音が聞こえる。
幸いなことに、誰にも見付からずに、私の手に在ったチョコレートは男子の机の引き出しへと入った。
無記名だが、これでいい。
名前を書いたら私が入れたことがバレてしまう。
かと言って、せっかく買ったチョコレートをあげないのは買った意味が無くなる訳で。
中途半端なアプローチ。
しかし、私は満足した。
自己満足に過ぎなかったが。
私は行きとはうって変わって素早く自分の席に戻ると、荷物を鞄の中で整え、両手で鞄の取っ手をしっかり握ると教室を出た。
校内にも学校の近くにも、学生の姿はほとんど見かけない。
必然的に一人で帰る羽目になった私だったが、心の中は穏やかそのものだった。
変わった衣装の男女2人組に出会うまでは。
「そこのお嬢さん、済まない。この子を貰ってくれないだろうか?」
後ろからの男性の声に、私は少し警戒し、足を止めずに歩きながら、振り返る。
見ると声を掛けてきた男性はなかなかのイケメンだ。
金のロングストレートにブルーアイ、白い肌と、流暢な日本語にたいして、見た目はかなり西洋風だが。
おまけに甲冑の様な鎧を身にまとっている。
在日期間の長いコスプレ好きな外国人だろうか。
隣に居る女性も少しキツい顔だちだが、なかなかの美人だ。
しかし、こちらもまたパープルな髪にウェーブをかけ、横に結い上げている。
瞳は青と赤のオッドアイ。
白い肌によく映えている。
服装は緑の大きなスリットが入ったドレスを着ている。
生足で寒くないのだろうか。
おそらく2人は、私より歳上で、カップルか若い夫婦だろうと勝手にそう思った。
よくよく見れば、イケメンさんの方は仔猫を抱っこしている。
(か、可愛い!)
私は思わず頷きそうになるのを理性を総動員して我慢する。
その代わり、妥協案を出してみた。
「あの、うちは猫は飼えないんですけど、何でしたら、猫カフェに連れて行ったら如何ですか?」
「ねこかふぇ?」
イケメンさんがきょとんとし、お姉さんの方はめんどくさそうに深いため息をつく。
「ナイトハルト様。御言葉ですがその仔猫、この女の子に渡しては如何です?ねこかふぇなんて得体の知れない所にわざわざナイトハルト様が出向く必要は無いのではないでしょうか?」
お姉さんの方も流暢な日本語だ。
「エルザ、黙っていろ。この子が捨てられてるのを見付けたのは元々はこの私だ」
「ナイトハルト様......何てお優しい......」
エルザと呼ばれたお姉さんは、ぽ~っとした表情で何やら長い名前のイケメンさんの事を見詰めている。
「それで、お嬢さん。そのねこかふぇという場所を教えてくれないだろうか?」
「ええ、良いですよ。先ず、そこの角を右に曲がって......」
うちの門限まではまだ時間が有る。
私は可愛い仔猫とイケメンさんにつられて思わず詳しく道順を教えた。
すると、イケメンさんの方が何故か屈んで私の顔に自分の顔を近付けた。
(ち、近っ!)
思わず後ろに下がろうとした私だったがイケメンさんの方が素早かった。
私の小さな桜色の唇にイケメンさんの暖かな唇が重なる。
(えっ?!)
驚きが先ず始めに私の心中に広がった。
イケメンさんは直ぐに唇を離して屈んでいたのを止めたが、私は今度は段々イライラしてきた。
(な、何で、好きでもない男と、き、キスをしなくちゃいけないのよ~!)
「あんたにはエルザさんとやらがここに居るでしょ~が!こんのセクハラ男!!」
怒りで仔猫の事を一瞬忘れて両手で握りしめていた学生鞄を思いきり振り回し、イケメンさんもといセクハラ男に殴りつけようとした私だったが。
「おっと」
簡単にかわされてしまう。
それどころかエルザさんがただでさえキツい顔だちを更にキツくして、何故か私に怒鳴った。
「あんたの方こそ、皇太子様にはむかうなんて、この無礼者!!」
(えっ?えっ??)
怒りと驚きで、私の頭は混乱してきた。
(何、この2人。外国人は衣装だけじゃなく頭もおかしいんじゃないの!?)
私が、その言葉を口に出す前に、セクハラ男は、エルザさんが私に掴み掛からんとしてたところを片腕で制す。
「エルザ、よい。下がっていろ」
「ナイトハルト様?」
狐に摘ままれた表情のエルザさんをよそに、私の目の前で仔猫を抱きながら膝まずくセクハラ男。
「こちらの世界では、キスをするのは感謝の表れにはならないのであろう。誠に失礼した。お嬢さん、どうか許して欲しい」
頭を垂れたっきり、微動だにしないセクハラ男。
エルザさんはもの凄い形相で、私を睨みつけている。
(何かよく解らないけど、これじゃあまるで私がこいつを虐めてるみたいじゃない)
ばつが悪くなった私はセクハラ男の頭上から言った。
「良いわよ、もう!頭あげてよ!」
私の言葉に、ようやく立ち上がったセクハラ男は神妙な表情で会釈してきた。
「有り難い。では、この辺で失礼する。エルザ、行くぞ」
「ですが、ナイトハルト様!」
「郷に入っては郷に従えだ。では、お嬢さん、これで失礼する」
まだ不服そうなエルザさんの腕を引き、私の教えた方向へ去っていくセクハラ男。
エルザさんが後ろを振り返り、私をきっと睨みながら去っていく。
負けじと睨み返した私は、自分の唇を右手で思いきりこすった。
(ナインハラトだかなんだか知らないけどいきなりキスするなんて、自分がイケメンだと思って、付け上がってるんじゃないの?!あんな男、セクハラ男で充分よ!)
先程までとはうって変わって、私は怒りが収まらず、燃えていた。
その一方で仔猫の事が頭から離れなかった。
後日。
遊びも覚えた方が良いという友達の言葉を聞いた私は先ずは食べ歩きを覚えようと友達数人とタコチップスを食べながら、学校から帰っていた。
はたして、食べ歩きが遊びに入るのか疑問だが。
「ねえ!あの人、かっこよくない?!」
女友達の内の一人が、横断歩道の方を指さす。
つられて視線を移した私はタコチップスを思わず袋ごと手から落とした。
(えっ?!嘘でしょ?!)
私の視線の先には、先日出会ったセクハラ男が、お年寄りの横で重そうな荷物を持って歩いていた。
おまけに笑顔で老人と何やら話している。
(何で、あのセクハラ男が良い事してんの?!)
足を止めて呆然と突っ立ってる私に男友達は。
「あ~!もったいねぇ!タコチップス、落とすなよ、こずえ!」
と、タコチップスの心配をし、女友達は。
「こずえもカッコいいと思うでしょ?!」
と、少し興奮した様子で、私に同意を求めた。
私の脳裏に先日の思い出したくもない記憶......ファーストキスが好きでもない男としてしまった嫌~な記憶が甦る。
「......べっつに~。どうでもいいけど」
棒読みで私の声は普段より1オクターブ低くなった。
「何言ってんだ!タコチップスは美味いんだぞ!しょうがねぇ、要らないなら貰うぜ?」
男子の一人が、袋のお陰で中身が無事なタコチップスを拾い上げる。
女子の方は信じられないと言った口調で私に言った。
「うっそだあ!じっと見詰めてるじゃん!」
私、声を更に1度に2オクターブ低くして、極棒読みで言った。
「うん。変な格好をした男だなと思って」
そう、セクハラ男は先日私と会ったとき同様、甲冑に首から下を包んでいたのである。
新手の防寒だろうか。
それよりここから見る限り、セクハラ男は先日の仔猫を抱いていない様に見えた。
(良かった。無事に猫カフェに引き取られたみたいね。今度、会いに行ってみよ!)
「こずえ?さっきから何百面相してるの?」
さすがに不審に思った友人達に私は仔猫の事を思い出しながら笑顔で応えた。
「そんなことより、早くいこ!」
友人達の集団の先頭を歩き出す私に皆、あわてて後を追う。
不意にセクハラ男の事を思い浮かべた私は彼の事を見詰めていた自分の目がおかしくなったのかと思った。
(ありえない、ありえない、ありえない)
私は第1印象とは違う、セクハラ男の1面に、驚いたと同時に戸惑った。
そのまた後日。
その日は休日だった。
特に誰とも遊ぶ約束をしてなかった私は一人で例の猫カフェに遊びに行こうと外に出た。
(猫程、可愛い動物は居ないわよね~)
猫好きな私は家族が猫嫌いな為、一人で過ごす休日はよく猫カフェに行く事が多い。
来年、受験生になったら、そうもいかないだろうが。
ルンルン気分で歩く私の向かい側から、何処かで見掛けた様な格好をした人物が何かを抱える様な姿で歩いてくる。
(げっ?!いつぞやのセクハラ男!!)
思わず足を止めた私に、セクハラ男もこちらに気付いたのか、足を止めた。
よく見るとセクハラ男は先日の仔猫を抱えている。
(えっ?!どうして?)
そう思った私はセクハラ男がこちらを見てた為、つっけんどんな言い方で尋ねてしまう。
「その子、猫カフェに引き取ってもらったんじゃなかったの?」
自分でも声がまた1オクターブ低くなったのを感じる。
しかし、セクハラ男は、特に気分を害した様子もなく、私に会釈した後、質問に応えた。
「実は行って頼んだのだが猫の数がもう満杯で引き取れないと言われてしまったのだよ」
「嘘付かないでよ!この前はこの子を抱き抱えていなかったじゃない!」
「この前?」
(あ、しまった!)
思わず口を滑らした私はあわてて右手で自分の口を覆ったが、もう遅い。
セクハラ男は不思議そうな表情で私に言った。
「......ふむ。お嬢さんと会ったときはまだねこかふぇに行く前だったと思うが?」
「えと、だから、その、ほら!テレパシー!?......で知ったの」
「お嬢さん?」
まさか先日貴方の事を見詰めてました。とは言えず、私はしどろもどろになって訳解んない事を言った。
セクハラ男は、そんな私をこれ以上、追及しなかった。
「一時期、城の侍女達に預けてたのだがやはりこの子には自分の世界で生き抜いて欲しくてな。こちらの世界の方が平和であるし」
「セクハラ男?」
城だの、世界だの、平和だの、よく解らない事を口に出すセクハラ男に今度は私が不思議な表情をする番だった。
しかし、それを追及しようとした時。
「おお!誰かと思えば、この前、わしの荷物を持ってくれた青年ではないか!」
聞いた覚えの無いしわがれた声に私は思わず振り向いた。
見ると、お爺さんが杖をつきながらセクハラ男に笑顔を向けている。
「この前の御老体!」
セクハラ男も見覚えが有る様だ。
こちらに寄って来るお爺さんに優しい笑顔を向けている。
(あ、このお爺さん、もしかして......)
私は先日、セクハラ男が横断歩道でお年寄りの重そうな荷物を今と同じ笑顔で持ち運んでいたのを改めて思い浮かべた。
お爺さんは私には目もくれず、セクハラ男の近くまで来ると言った。
「おお!可愛い仔猫よのう。青年の飼い猫かえ?」
お爺さんも仔猫に気付いた様だ。
お爺さんの言葉にセクハラ男は言った。
「この子は捨てられていたのだ。見るに忍びなくてな。里親を探しているのだがなかなか見付からないのだよ」
セクハラ男の言葉にお爺さんは唸った。
「う~む。わしがもう少し若ければ飼ってやりたいところだが、いかんせんわしにもいつ迎えが来るか解らんからのぅ。引き取ってやれないのは残念じゃ」
お爺さんの言葉に私とセクハラ男は思わず顔を見合せる。
(やだあ!目と目が合っちゃった!)
あわてて、視線をそらす私と平静なセクハラ男にお爺さんは続けた。
「青年。仔猫なら、里親探しのボランティアをしている団体が在るから、そっちに預けるのはどうかのう?少し遠い場所に在るのだが......」
お爺さんの思いがけない恩返しな提案に、わらにもすがる思いで場所を訊く私達だった。
無事に?、仔猫をボランティア団体に託した私とセクハラ男は座って帰りの電車に揺られていた。
本当はセクハラ男からもっと距離を置きたかったのだが乗客が多いためにそうもいかなかった。
外の景色は、もう夕闇に照らされている。
最寄り駅のターミナル駅に着く頃には夜になっているだろう。
ボランティア団体は、へんぴな所に在ったので想像以上に辿り着くのが、大変だった。
電車を3回乗り換え、そこからバスに乗り更に降りたバス停から、1時間程片道を歩いた。
(明日の学校に差し支えないと良いけど)
疲労感たっぷりな私は段々電車に揺られているのが心地良くなってきた。
「......さん、......お嬢さん」
いつの間にか私は眠っていたのだろう。
気付くと電車内にはもう誰もおらず、辺りは暗くなっていた。
いや、正確には私の他にもう一人居たが。
「キャア!」
私は眠ってる間、セクハラ男の肩に寄りかかってたらしく、顔を上げると直ぐ傍に彼の顔が有った。
あわてて立ち上がり、私はセクハラ男から距離をとる。
(わ、私としたことが、よりにもよってセクハラ男に寄りかかっていたなんて!)
自分の失態に顔が真っ赤になる私にセクハラ男はいかにも心配そうに言った。
「お嬢さん、外はもう暗い。私が家まで送っていこう」
セクハラ男が立ち上がる。
自分より何センチも高いセクハラ男に私は何故か恥ずかしくなってきた。
「い、いい!いいわよ!」
「では、参ろうか」
「ちっが~う!その良いじゃなくて、送らないでいいってこと!」
「ふむ......。こちらの世界の言葉は難しいな」
「何、訳解んないこと言ってるのよ!じゃあね!付いて来ないでよ!」
私はセクハラ男の顔も見ずにそう叫ぶと電車から降りて、一人で走り去った。
息がきれるのも構わずに駅を出て、まだ比較的人の多い大通りまで全速力で走る。
人ごみに紛れる作戦だ。
「はあ、はあ、はあ」
大通りに入ったところで私はようやく立ち止まった。
肩で息を整えてから、セクハラ男が付いて来てないことを確かめて歩き出す。
(良かった。でも......)
電車内のことを思い出すと私は何故か自分の顔が火照るのが解った。
(私、何であんなにテンパったんだろ)
自分でも恥ずかしくなった理由が解らない。
(まあ、いっか!また会うとは限らないしセクハラ男のことを考えるだけ時間の無駄よね)
私は自分に言い聞かせる様にして、家へと帰っていった。
更に後日。
その日の学校帰りは、皆、それぞれ予定があり、私は女友達一人と二人で下校していた。
そこへ、他校の制服を着た数人の男子が私達の目の前に立ち塞がった。
「ヒュー!君たち可愛いじゃん。これから俺たちと遊びに行こうぜ」
男子の一人がニヤニヤ笑いながら言う。
見ると、どの男子も皆、いやらしい目で私達をなめ回す様にジロジロ見ている。
(こいつら、ただ私達とやりたいだけなんじゃないの?)
私がそう思った時。
「結構よ!私達、そんなに暇人じゃないから」
私と同じ事を思ったのか、友人もキッパリ断った。
しかし、彼らはしつこく食い下がる。
「そんなつれない事言わないでさあ、ちょっと位、良いだろ」
男子の一人がそう言って友人の腕を掴む。
「止めて、離して!」
男子の手を振り払おうとした友人だったが力ではかなわない。
私も他の男子達に囲まれて逃げ場を失っていた。
(どうしよう......)
すると、男子の一人が私の持ってた学生鞄を取り上げた。
「うお?!結構、重いな!君ってもしかして真面目ちゃん?」
男子のからかいには応えずに私は言った。
「返して!」
右手を差し出すが、男子は鞄を返してくれない。
「返して欲しければ自分で奪い返せば良いだろ」
その言葉と馬鹿にした様な言い方に私はカチンときて一生懸命鞄を取り返そうとするが、男子はひょいと鞄を持ち上げ、取り返せない。
と、私の手が鞄を持った男子の手にあたった。
「ちっ!」
面白くない顔をして、男子は鞄を持ってない方の手で私目掛けて拳を振り下ろした。
(えっ?)
とっさの事で私は避けきれない。
「こずえ!!」
未だ腕を掴まれてる友人が悲鳴に近い声をあげる。
すると、私を殴ろうとしてた男子の腕をガシッと握った手が在った。
「お嬢さん達相手に男として恥ずかしくないのかね」
何処かで何度も聞いたその低い声は。
(セクハラ男?!)
男子の腕を掴んだのはセクハラ男だった。
今日は甲冑ではなく、エキゾチックな服装だったが。
とたんに男子達は私の鞄を放り投げ、友人の腕を離すとセクハラ男を取り囲む。
「オッサン、良い度胸してるじゃねえか。まさか自分一人で俺たちに勝とうとでも?女の前だからって格好付け過ぎなんだよ!」
男子が一斉にセクハラ男に拳を奮う。
「セクハラ......じゃない、何とかハルト!!」
私は思わず悲鳴に近い叫びをあげた。
友人は怖くなったのか目をぎゅっとつむって両手で顔を覆った。
しかし、何とかハルトは無駄のない動きでおおたちまわりをし、一人一人男子をのしていく。
あっという間に何とかハルトの周りにうずくまる男子の集団が出来た。
「う......つ、つえ~......」
男子達は起き上がることができない。
「これに懲りたら、もうお嬢さん達を困らせないことだ」
何とかハルトを見ていた私は、老人や猫にも優しい彼がひょっとしたら良い人なのかもしれないと思い始めていた。
ところが。
「有り難う御座います!貴方が助けてくれなかったら私達どんな目に遭わされていたことか......」
友人は私同様余程怖かったのだろう。
何とかハルトに笑顔で御礼を言いながら安堵の涙を流す。
何とかハルトは、そんな友人に笑顔で自分の服の袖を差し出した。
不思議そうな表情をする友人に何とかハルトは言う。
「この服は私のではない。だから、思いきりこの袖で涙と鼻水を拭きなさい。せっかくの可愛い顔が台無しだ」
「あ、有り難う......御座います......」
(私だけ蚊帳の外?一瞬でも良い人だと見直したのが、バカみたい!)
一部始終を見ていた私は何故か面白くない。
モヤモヤとした怒りが込み上げてきた。
鞄を拾うと私はさっさと歩き出そうとした。
「お嬢さん?」
何とかハルトが私の異変に気付く。
「うるさいわね!私はお嬢さんじゃなくてこずえよ!セクハラ男のバカ!」
助けてもらったのを仇で返してしまった私はそのまま一人で歩き出した。
後ろから友人とセクハラ男が私に呼び掛けるが、構わずに一人で家へと向かう。
すると、家の近くまで帰ってきた私の目の前に、いつぞやのエルザさんが現れた。
「こんな小娘にあのナイトハルト様が......」
「うるさいわね!おばさん!!」
「お、おばさん?」
さすがのエルザさんも私の怒りに触れて固まった。
私は構わず家に着く。
「おかえ......」
「うるさい!」
出迎えた母親に八つ当たりをしたところで、私は、ようやく自分が相当イライラしてるのを自覚した。
自室に帰ると鞄をベッドの上に放り投げ、自分もベッドに倒れこんだ。
(私、何でこんなにイライラしてるんだろう)
自分達を助けてくれた何とかハルトに私はまだ礼すら言ってない。
セクハラ男と名付け、嫌ってたはずの何とかハルトが友人と笑顔で接してたのを思い出す。
(でれでれしやがって!)
私は心の中で暴言を吐いた。
もし誰かが聞いたら、可愛い顔に似合わないと言っただろう。
しかし、私のイライラは次第に悲しみを帯びてきた。
そんな私の目から涙がこぼれ落ちる。
私は訳も解らないまま、ベッドに突っ伏して泣いた。
3月14日。
私は友達と登校して、自分の下駄箱を開けた。
すると。
ドドドドド~!
......と言う効果音が似合いそうな位のラッピングされたクッキーが私の下駄箱から落ちた。
「相変わらずモテるわね。こずえは」
女友達の内の一人が茶化す様に私に言う。
「......そっか。今日ホワイトデーだっけ。すっかり忘れてた」
それは紛れもない私の本心だった。
バレンタインデーの放課後には、あんなにドキドキしてたのに、最近は気になる男子が視界に入っても何も感じなくなっていた。
(どうしちゃったんだろ、私)
答えが脳裏に浮かぶ前に男友達が私に言う。
「こずえ~、忘れてたはないだろ~。例えチョコレートを貰わなくてもアピールせずにはいられない。そんな男心も解ってやれよ」
「でも私、好きでもない男子からクッキー貰っても......」
クッキーを拾い集めてた私は、困ると言おうとして、手を止めた。
私がバレンタインデーの時にチョコレートをあげた男子からのクッキーを見付けたからである。
(何で?私、無記名で机の引き出しに入れた筈なのに)
疑問に思うと同時に今さっき男友達が言った言葉を思い浮かべる。
(例えチョコレートを貰わなくてもアピールせずにはいられない......)
つまり、それは。
(彼も私の事が好きだって事?私、1度も話したことが無いのに..)
本来なら、嬉しい筈なのに。
私は何故か何とも思わなかった。
(あんなに気になってたのに......どうして?)
不意に私の脳裏に甲冑姿の最近よく遭遇する金髪のロン毛男の姿がよぎった。
(ま、まさか、ね)
私が固まってると、友達がクッキーを拾うのを手伝ってくれる。
「私もこれ位、クッキーを貰ってみたいわ」
「こずえ、今年も全員に断りの手紙書くのか?」
去年のホワイトデーで大量のクッキーを貰った私は一人一人に断りの手紙を書いて、下駄箱に入れていた。
今年のバレンタインデーの私の様に無記名のも在った。
それは自分で有り難く戴いたが、飽くまで例外である。
「......うん。書くよ」
気になっていた男子からのクッキーを見詰めながら、ポツリと私は本心を洩らした。
(私はもうこの人の事は......)
その先の言葉は、私を戸惑わせた。
人の気持ちというのは変わるもの。
しかし、私がそれを認識するまではもう少し時間が掛かることになる。
それから。
季節が春になる頃。
首席の私は何の問題もなく受験生という名の高校3年生になった。
私と友達男女数人は学校の帰りに参考書を買おうとめったに行かない本屋へと行く。
皆それぞれ志望校が違う為、本屋の出入口でおちあうことにして、バラバラで参考書を探すことになった。
「参考書をお探し?」
一冊ずつ参考書を見ては棚に戻してた私の背後から、何処かで聞いた声が聞こえる。
私が振り返るとエルザさんが優しい笑顔を浮かべて立っていた。
「エルザさん」
「エルザで構わないわよ。ナイトハルト様から聞いたんだけど、貴女、こずえさんって言うのね。この間は怒って悪かったわ。御詫びと言ってはなんだけど、私のオススメの参考書が在るんだけど、あげましょうか?」
「えっ?良いんですか?」
「ダメだったら最初から声をかけないわ」
そう言って、エルザは一冊の本を差し出す。
表紙に鍵の絵が描かれた本で参考書には見えない。
「あの~、これって参考書ですよね?」
不審に思った私はエルザに思わず訊いてしまう。
エルザは笑顔で頷いた。
「もちろんよ。」
私は内心、エルザがおかしな本の代金を後から請求してくるのではないかと疑ってたが、中を開けてみれば参考書じゃないことが解るはずだと思う。
「あの、志望校と合ってるか確かめさせてもらいますね」
私はエルザの返事を待たずに本を開けた。
すると。
何故か世界が暗転していく。
(えっ?えっ??えっ???)
訳解んない私に、エルザの笑顔が意地の悪い表情に変わった。
「せいぜい異世界で困ると良いわ!私達の国は今、敵国とこうちゃく状態なの。下手に闘いが始まるとあんたはどうなるかしらね!」
ニヤニヤ笑いながら、エルザが本性を出す。
私はエルザの言ってる内容がよく解らなかったが、彼女の方が自分より1枚上手だとようやく気付いた。
と、同時に私は意識を失った。
気付くと私は変わった場所に倒れていた。
中世のヨーロッパの街並みと言った方が良いだろうか。
行き交う人達は皆、何とかハルトやエルザが着てた様な格好をしている。
私の脳裏に鍵の絵が描かれた本とエルザの言ってた異世界と言う言葉がよみがえる。
(私、あの鍵の絵の本でセクハラ男たちの世界に飛ばされた......?)
不安になった私を更に怯えさせる様な通行人の会話が聞こえてきた。
「最近、敵国のスパイが侵入したって話だぜ」
「オレも鍵の本を手に入れて、安全な世界に飛ばされたいよ」
私は制服に付いた埃を払いながら立ち上がると、怖くなって、通行人の言ってた鍵の本を自分も手に入れて、元の世界へ戻らなくては。と焦った。
エルザの言ってた敵国とこうちゃく状態なのは、おそらく本当の事だろう。
とりあえず、本屋らしき建物を探すことにした私は宛もなく、うろちょろ歩き出した。
すると、少し行った先にそれらしき建物が見付かる。
(良かった。世界が違うから私の日本円で買えると良いけど......)
後は買えるとして、値段の問題もある。
あれだけの能力?を持った本だ。
それ相応の値がするであろう。
不安な気持ちのまま私は建物に入った。
しかし、エルザの持ってた本を探すが買える買えない以前に全然見付からない。
私は店員らしき人に自分の紙幣を見せて尋ねた。
「あの、この紙幣で鍵の本を買えますか?」
店員は私の紙幣を見ずに言う。
「お嬢さん、鍵の本は城の宝物室にしかないよ。見たところこの世界の住人じゃなさそうだけど、どうやってこの世界に来たんだい?まさか宝物室の管理者と知り合いとか?」
(宝物室?城??)
城とは確かセクハラ男も口に出していた。
店員が嘘を付いてるとは思えない。
私はエルザは城の宝物室の管理者なのだろうかと思った。
だとしたら、鍵の本を持ってても不思議ではない。
しかし、現実世界でのエルザの自分に対しての様子を見る限り、もう1度、鍵の本をくれるとは思えない。
第1、エルザのせいでこの世界に飛ばされたのだから。
私は店員に言った。
「えと、確かに鍵の本でこの世界に来たんですが、管理者さんと少し喧嘩をしてしまって......」
すると、店員の表情が曇った。
「うむ、それはまずいな。鍵の本は、管理者と王、その息子の皇太子でないと、自由に持ち出せないのだよ。お嬢さん、悪いことは言わない。管理者に謝ってきなさい。でないと、お嬢さんの世界には戻れないぞ」
「は、はい......」
謝るも何も悪いのはエルザの方なのだが店員にこれ以上、詳細を話して巻き込むわけにいかない。
絶望的な思いで店員に返事をした私は建物から出た。
(何とかして、城の宝物室に入ることは出来ないかしら)
大きな城らしき建物は、直ぐに見付かった。
そこを目指して歩きながら、私は先ず城に入る術を考える。
すれ違う人達が時折、物珍しそうに私を見ていく。
異世界の人達にとっては私の方が変わった格好をした女の子に映るのだろう。
私はこれと言った方法が思い付かないまま城の城門が見えるところまでやって来た。
城門の前には門番らしき男が2人いる。
正面からは入れそうにない。
(裏口がないか探してみよ)
私は城の周りをグルっとまわろうとした。
しかし、城の裏まで歩いたところで、挙動不審な男の人がいた。
(......?)
キョロキョロと辺りを見回していた男の人は私と目が合うと舌打ちをする。
そして、素早く私の後ろに回り込むとナイフを私の首筋にあてた。
「キャ......」
「シッ!静かにしろ。騒いだら殺す」
男の人の突然の言動に私は急に怖くなった。
男の人もおそらく私同様、城に忍び込もうとしてたのだろう。
それはつまり。
(この人も鍵の本を狙ってるの......?)
私は恐怖に刈られて、それ以上は考えられない。
男の人は私の首筋にナイフをあてたまま言った。
「お前、見たところこの世界の住人じゃないな。どうやって鍵の本を手に入れた?言わないと殺す」
(助けて!何とかハルト!)
ぎゅっと目を瞑った私の脳裏に浮かんだのは何とかハルトの姿だった。
何故だかやはり恐怖が強く、彼の姿が思い浮かんだ理由は解らなかったのだが、その答えは直ぐに見付かった。
「鍵の本なら私が持っている」
何処かで聞いた声が聞こえた途端、私の首筋にあてられてたナイフが地面に転がる。
そして、私の後ろにいた男の人が背後で倒れる気配と音がした。
おそるおそる目を開けて後ろを振り返った私の視界に何とかハルトの姿が在った。
「な、何とかハルト......。もしかして殺しちゃったの......?」
安心した私はいつの間にか涙を流しながら、何とかハルトが自分を助ける為に人を殺めてしまったのか心配になった。
何とかハルトは、そんな私をそっと抱き締める。
「怖かったであろう。だが、もう大丈夫だ」
「な、何とかハルト......?」
不思議と嫌な感じはしなかったが、今頃になって私の全身は震えだした。
「こずえさん、申し遅れた。私の名はナイトハルトと申す」
「ナイトハルト、私のせいで、人を........」
「みなまで言わなくとも、私は気絶させただけだ。だから、こずえさんは心配しなくて良い。いずれ警備の者達に牢に入れさせよう」
ナイトハルトはそう言って更に私を強く抱き締める。
「あ、ありがと......ナイトハルト......」
抱き締められても嫌な感じどころか安堵が私の心に広がっていく。
(私、この人の事が好きなんだ.....)
私はようやく自分の気持ちを自覚した。
皆に優しいナイトハルト。
そんな彼の姿に、戸惑い、恥ずかしくなり、イライラし......。
始めは嫌いだったのが、好きと嫌いの気持ちが入り交じり、そして.....。
......好きになっていた。
「ナイトハルト、私......」
告白するなら今しかない。
私は顔を上げて、好きだと言おうとした。
しかし、ナイトハルトのブルーアイと目が合うと頬がカアッと紅潮して上手く言葉が出てこない。
(い、言えない。好きだなんて......。恥ずかし過ぎる......)
ナイトハルトは右手でそっとそんな私の紅潮した頬を流れる涙を拭く。
「巻き込んでしまって、済まない。この男は恐らく敵国のスパイであろう。こずえさん。私達の国は今、敵国と膠着状態なのだ。最近、その国のスパイがこの国に紛れ込んだと聞いて、見回りしてたのだ。良かった......そのお陰で大切な人を守ることができた」
「え......?」
ナイトハルトの言う大切な人とはどういう意味なのだろう。
しかし、その答えが解る前に。
「......う~.........」
倒れてた男の人がうめき声をあげる。
ナイトハルトは私の涙を拭くのを止め、抱擁してた腕を離した。
ナイトハルトの身体が離れ、私は少し切なくなったが、男の意識が戻ろうとしてる今、早くこの場から離れなくてはナイトハルトの足手まといになりかねない。
ナイトハルトは懐からエルザも持ってた見覚えの有る鍵の本を私に渡した。
「今のうちに、この本で現実世界に帰るのだ。大丈夫だ、また会える」
ナイトハルトの笑顔に私は、内心泣きながら駄々をこねたくなった。
しかし、そんな事をしたら、自分で好きだと言ってる様なものだ。
私はそう自分に言い聞かせて頷くと鍵の本を後ろ髪を引かれる思いで開いた。
世界が暗転していく。
(そうよね......また会えるわよね......)
あれだけ現実世界で遭遇してたのだ。
御忍び好きな皇太子は、おそらく再び現実世界へ来ることだろう。
それを踏まえるとナイトハルトの言うことは、あながち嘘ではない筈だ。
そして、私は元の世界へ飛ばされた。
(ナイトハルト......)
今度はいつ会えるのだろう。
一抹の寂しさが私の心を満たした。
そして、気付くと私は元居た本屋に倒れて居た。
エルザの姿はない。
私はゆっくりと起き上がった。
すると。
「こずえ、どこ行ってたの?!なかなか来ないから、皆で本屋中、探してたんだから!」
女友達の一人が怒った様な心配した様な複雑な表情で私のもとに来て、そう言った。
「ごめんね!ちょっと御手洗いに行ってたの」
まさか異世界で好きな人と抱擁してたとは言えず、言ったところで信じてもらえないだろうと、私は咄嗟に嘘をついた。
「まあ、それだったら仕方無いけどさ。集合時間は守ってね?」
どこか安心した様な友人の表情に、私は申し訳無いと思う一方でナイトハルトの事が頭から離れなかった。
それから私は受験勉強に励んだ。
真夏の暑い日でも毎日必ず勉強した。
夏休み、私はほとんど自室から出ずに勉強していた。
その為、必然的にナイトハルトと出逢うことはなかった。
(ナイトハルト......今頃、どうしてるかしら。逢いたいな.............)
私はナイトハルトの事を振り払う様に受験勉強に没頭した。
本当は傍に居たい。
また抱き締めてもらいたい。
しかし、私は自分の事で精一杯だった。
そんな私が寂しさに耐えきれなくなった頃。
季節は赤と黄色に染まっていた。
そんなとある休日。
私はとうとう寂しさに耐えきれなくなった。
ブラウスとスカートという出で立ちで、私は外に飛び出した。
どこで出逢えるか解らない。
でも家にずっと居るよりかは可能性は0ではなくなる。
私はふと並木道の先に在る紅葉の生い茂る場所に賭けてみた。
女の勘でしかなかった。
だが......。
「ナイトハルト.......」
そこに彼の姿が在った。
私のつぶやきにナイトハルトもこちらに気付く。
「こずえさん......」
吸い寄せられる様に向かい合う私達。
「こずえって呼んで、ナイトハルト」
「御意。こずえ、私は貴女の事が好きだ」
「えっ?!」
私はまさかナイトハルトまで自分を異性として見てくれた上で特別な存在と思ってくれてたとは思わなかった。
やはり、大切な人とは愛してる人と言うことだったんだろうか。
しかし、そう考えると疑問も残る。
「ど、どうして......」
今までの経緯を思い出すが自分はいつもナイトハルトに対しては辛辣だったと思う。
嬉しい反面、両想いだという現実の実感がわかない。
ナイトハルトは私を強く抱き締めると言った。
「私は今まで腫れ物扱いされてきた。皆、私を身分でしか見てなかったからだ。しかし、そなたは違った。私を殴りつけようとしたり、暴言を顔に似合わず吐いたり。それでいて、危なっかしい。強く抱き締めたら壊れてしまうガラス細工の様な可憐な人だ。一輪の花の様に私の心を離さない。もう1度言う。私は、そなたが好きだ。そなたの事は私が守る」
「な、ナイトハルト.........。私も、私も貴方の事が大好き......」
ようやく言えた。
今まで告白、それも直接面と向かって好きだと言ったのは初めてだ。
恥ずかしさと照れ臭さと共に、喜びが私の心を満たした。
そんな私と背の高さを同じにするようにナイトハルトは身を屈めた。
私は目を閉じた。
もうイライラすることはなかった。
そして、私の唇にナイトハルトの唇が重なった。
(ずっとこうしていたい.....)
ナイトハルトも、私と同じように思ってくれてるのか唇を重ねたまま私の身体を抱き上げ、自分の背と同じ高さにする。
そして、その状態のままナイトハルトは更に私を強く抱き締めた。
(男の人にこんなに強く抱き締められたの初めて......)
ナイトハルトに身体を預けるように私はされるがままになっていた。
キスをしながら、私は自分の両手をそっとナイトハルトの胸にあてる。
甲冑ごしなのにナイトハルトの心臓の音が聞こえてくるようだ。
いや、私自身の心臓の音か。
そんな2人を大切に隠すように赤い楓が沢山ヒラヒラと舞い降りて落ちる。
まるで赤いカーテンの様だ。
そして私達の立つ地面は楓の葉で見えなくなっていた。
楓の絨毯が私達をシッカリ支えていた。
「......ん......」
「恥ずかしがらなくて良い......」
思わず、声を洩らした私の唇から一瞬、自分の唇を浮かせ、ナイトハルトは優しく囁いて、再び唇を重ねた。
どれくらいの時をこうしていたのだろう。
ナイトハルトが唇を離す気配がして、私は目を開けた。
直ぐ傍にナイトハルトの優しい笑顔がある。
しかし私は何故かナイトハルトの笑顔がどこか哀しげに見えた。
「ナイトハルト......?」
「こずえ。私の心の中にはいつもそなたが居る。そして、そなたの心にも常に私が居ることを忘れないで欲しい」
ナイトハルトはそれだけ私に告げると抱き締めるのを止め地面に降ろすと去って行った。
後には茫然とした私が残された。
(ナイトハルト......?)
そっと指を唇にあててみる。
まだナイトハルトの唇の暖かさが残っている様に感じた。
私は幸せだった。
しかし、去り際の彼の哀しげな笑顔と言葉が気に掛かる。
(何かもっと言いたそうな顔してた......)
私が後を追おうとした時。
ガサッ!
並木道の脇から楓の絨毯を踏みしめる音が聞こえた。
「ナイトハルト?」
彼が戻って来てくれたのかと一瞬期待した私だったが、出てきたのは1番会いたくない人物だった。
「げっ?!エルザ!」
思わず嫌悪感をもろに表してしまった私だったが、エルザは何故か余裕の笑みを浮かべていた。
「エルザ、まさかさっきの......」
「ええ。見ていて実に滑稽だったわ」
エルザはニヤニヤしている。
私はそんなエルザに自分達の愛を馬鹿にされたみたいでイラッときた。
「何が滑稽よ!私達は確かに心が繋がっているんだから!それを覗き見するなんて......!」
「お黙り!何も知らない小娘!!」
エルザの迫力に私は思わず言葉を飲み込む。
エルザは続けた。
「あんたは知らないでしょうね。ナイトハルト様がここで何をしていたか」
「な、何って御忍びで紅葉を見にきてたんじゃ.......」
私の言葉にエルザは耳障りな高笑いをした。
静かだった辺りがやかましくなり木々から鳥達が羽ばたいていく。
「そんなあんただから、滑稽だって言うのよ!ナイトハルト様はね、ここでこの世界で唯一の鍵の本を燃やしてたの」
「嘘よ!ナイトハルトは私の事、好きって言ってくれたのよ!そんな事したら、私に逢えなく......」
そこまでエルザに抗議した私はふと去り際のナイトハルトの様子を思い出し思わず言葉を止めた。
(そう言えば心の中にいつも居るって......まるで、もう逢えないみたいな言い方だった......)
しかし、エルザが燃やしたという可能性もある。
しかし、エルザはそんな私の心を見透かす様に言った。
「残念ながら私は何もしていないわよ。おめでたいあんたに私から親切に教えてあげる。私達の国はね、今、敵国と戦争中なの。敵が、いつこの世界に来てもおかしくはないぐらいにね」
「な、何ですって?!」
私はエルザの言葉に驚きと共に危機感を感じた。
そう言えば以前、ナイトハルトとエルザや異世界の住人が敵国と膠着状態だということと敵国のスパイがまぎれこんだという話をしていた。
(そんな......ナイトハルトとはもう逢えないの?)
ナイトハルトの事だ。
きっと私を巻き込まない為に鍵の本を燃やしたのだろう。
しかし、私はそんなナイトハルトの
優しさに感謝するより、彼と逢えなっちゃうのが嫌だという気持ちの方が強かった。
(何よ......。自分は言いたいことだけ言って、私を置いてきぼり?せっかく生まれて初めて、好きになった人に好きだって言えたのに......)
私の目から涙があふれた。
そんな私を鼻で笑っていたエルザだったが、更に意地の悪い表情になる。
「そうね、あんたの気持ちを確かめさせてもらおうかしら。実をいうと鍵の本の効果はまだ残っているの。ただし、時間が経つにつれて、その効果は薄れていきやがて世界の繋がりが途絶える。ナイトハルト様の元へ行きたければ今の内ならまだ間に合うわ」
「......本当に?」
「現に私がまだこの世界に居るのがその証拠じゃない。あんたって馬鹿ね!」
馬鹿、という単語に私はカチンと来たが、そんな事はどうでもいい。
ナイトハルトに逢えれば。
ただし、今の内ということは......。
「この世界に未練が無ければとっとと後を追うことね。もっともナイトハルト様に会う前に敵国の兵士に殺されたりして!」
エルザは再び耳障りな高笑いをしてたがその姿が段々薄れていく。
まるで鍵の本の制限時間が迫ってるのと同じように。
そして、エルザの姿は私の目の前でハッキリ消えた。
きっと自分の世界に帰ったのだろう。
後には涙を流した私が残された。
エルザのいうことにまちがいが無い以上、私はこの世界で元の様に家族や友達と平和に暮らしていくか、彼等と永遠に別れて危険を承知でナイトハルトの姿を探すか、今までの人生の中で一番の分岐路の前に立たされていた。
(どうしよう......。どうしたら良いの?お父さん、お母さん、皆.......それにナイトハルト......!)
私には大好きな存在が多過ぎて、皮肉にもその人達が判断力を鈍らせていた。
私はこの時ほど自分が優柔不断で二者択一が出来ない事を呪った事は無い。
涙が溢れて止まらない。
そうこうしてる間に制限時間が迫る。
私は頭が混乱してきた。
このままではいけない。
決断しないと。
(エルザの事、言えない。私って馬鹿ね。どうして選べないのよ!私の人生なのに!)
私は心の中で自分を叱咤激励したがそれでも答えが出ない。
その時だった。
後にして思えば背中を押してくれたのだろう。
強い風が吹いた。
私は思わず髪の毛とスカートを押さえる。
それ位、強い風だった。
楓の絨毯が舞い上がり、私の姿を隠す。
地面が露になり、何かの残骸の様な灰色の粉が涙で潤んだ私の目にうつった。
その粉が風で楓の葉同様に舞い上がり、私の、涙で視界がぼやけた目に入った。
(いたっ!)
私は思わず目を閉じる。
すると立ちくらみの様な感覚がして、私は咄嗟にしゃがんだ。
私はこの時、自分の身に何が起こったのかまだ解らないでいた。
何やら周りが騒がしい。
先程までの静寂が嘘の様だ。
私はそっと目を開けてみた。
すると。
(えっ?!ここって......!)
私は見覚えの有る場所に倒れていた。
いつぞやの中世ヨーロッパ風の都市。
しかし、以前エルザに騙されて来た時の面影がもうなかった。
あちこちから火の手が上がり、私の視界には、戦っている兵士の様な人達に逃げ惑う民間らしき人達の姿がうつっていた。
(私、異世界へ来たんだ......)
私は身体に力を入れて立ち上がる。
そんな私の脳裏に家族と友達の姿が一人一人思い浮かんでは消えていく。
(さよなら、皆......)
いざ異世界へ来た私はまな板の上の鯉の様にどこか落ち着いていた。
何故、異世界に飛ばされたのかは解らない。
実際は鍵の本の燃えた灰が私の目に入ったからなのだが、今となっては、その事実を知ったところで何の意味も持たない。
(私はナイトハルト、たった一人を選ぶわ!)
たとえ世界を敵にまわしても。
私は腹をくくると、逃げ惑う民間人達とは反対の方向へ走り出した。
私の予測ではおそらくナイトハルトほど強い男は戦場の最前線で敵国の兵士達と戦っているはずだ。
途中、何度も逃げる人達にぶつかる。
しかし、私は走るのをやめなかった。
ところが。
私は不意に小さい女の子とぶつかってしまった。
その拍子に女の子は倒れてしまう。
「ごめんね!大丈夫?」
皆、自分の身を守ることで精一杯なんだろう。
私以外の誰も女の子を助けようとしない。
私はしゃがむと女の子を助け起こした。
「......ママ、どこ......?」
女の子は泣きそうな顔をして、私に言った。
どうやら、親御さんとはぐれてしまったらしい。
私は女の子を少しでも安心させようと笑顔で応えた。
「大丈夫!皆と同じ方向へ頑張って走るのよ?その先にお母さんが貴女を探しているはずだから!」
コクリと頷く女の子。
ところが、女の子の背後に弓矢を構えた兵士の姿が私の視界に入った。
当然の事ながら女の子は自分の命が狙われてることに気が付いていない。
「危ない!」
私は咄嗟に自分の身体全身で女の子を覆い隠した。
(助けて!ナイトハルト!!)
女の子を庇いながら、私は恐怖から最愛の人に助けて欲しいと心底願い、目をつぶった。
まだ死にたくない。
しかし、自分が避けたら、腕の中に居る小さな命はまちがいなく、儚く消えるだろう。
直ぐに来るであろう衝撃に備えていた私だったが。
その時。
金属音が私の直ぐ近くで聞こえた。
おそるおそる私が目を開けると、先ずは地面に落ちた弓矢が目に入った。
次に遠くでこの国の兵士に倒される弓矢を構えていた兵士の姿。
そして......。
「な、ナイトハルト!!」
私は1番守って欲しかった人の姿に心底安心した。
女の子は泣きそうな顔で私を見ているが、見たところ怪我はしていない様だ。
きっと何が起こったか解らなかったのだろう。
しかし、私を見たナイトハルトの表情は今まで見たことがない位、険しかった。
「こずえ、何故、こんな危険なところに居る?私は確かに鍵の本を燃やした筈......。さてはエルザの入れ知恵か?どのみち今すぐその子と逃げるのだ!」
ナイトハルトの言う事は最もだが。
私は女の子の両肩を両手でシッカリ掴むと真剣な表情で告げた。
「一人でも頑張って、お母さんのところまで走れるわよね?」
女の子は私の目を見て大きく頷く。
「こずえ!」
ナイトハルトの言葉には明らかに怒気が含まれていた。
例えそれが自分を心配しての言葉だとしても。
「逃げるのよ!」
私の言葉に女の子は走り去った。
そして私は自分が履いていた靴を両方脱ぎ、構えると立ち上がった。
「私が逃げて、貴方が死んでしまったら、私は何を頼りに生きていけば良いのよ!貴方が死ぬなら私も死ぬ!!」
「死ぬ死ぬ言うな、こずえ!縁起でもない!私の事がそんなに信じられないか?」
ナイトハルトの言葉に私はハッとなる。
そうだ。
ただひたすら相手を心配し、共に戦うことだけが戦いではない。
好きな人を信じること。
それもまた戦いなのだとナイトハルトは言いたいのだろう。
しかし、そう言われた私は一言言ってからでないと逃げる気が起こらなかった。
「何よ!自分は言いたいことをいうだけ言って、私と2度と逢えない様にしたクセに!だったら、私も言わせてもらうわ!ナイトハルト!!私達、まだまだこれからなんだから!殺られたら承知しないからね!残される身にもなってよ!」
「こずえ。言いたいことはそれだけか?」
ナイトハルトの声は静かだったが、そこには深い迫力が有る様で、私はビクリと恐怖を感じた。
「え、ええ!そうよ!」
しかし、私もどぎまぎしながらも虚勢を張った。
「御意。」
ナイトハルトはそれだけいうと。
私に向かって、何やらブツブツ言い始めた。
その途端、私はだんだん眠くなってきた。
しかし、私は何故自分が眠くなってきたのか解らない。
「ナイトハルト......?」
私は一生懸命起きようとしたが、睡魔は強力だった。
とうとう眠ってしまった私はナイトハルトの部下に安全なところに運ばれたのだが知る由はなかった。
時が過ぎ。
白い季節の頃。
私は城の侍女達と、戦いで大怪我を負った兵士達の看病に逐われていた。
ナイトハルトは外で都市の復興の指示をしている。
私がナイトハルトに眠らされてから。
ナイトハルトの国が戦いに勝利して、その後、敵国に攻め込み見事城主の首を捕ったことで、長く続いた膠着状態は幕を閉じた。
しかし、ナイトハルトの国の被害も酷く、建物だけでなく亡くなった人もいた。
その中にエルザも含まれていた。
私は異世界の衣装に着替え、ナイトハルトの働きかけで城に住まわしてもらえることになった。
一生懸命働いてたら侍女達も始めは煙たがっていたが、やがて私を受け入れてくれるようになった。
ところが。
侍女の中には、私とナイトハルトの仲を嫉妬する者も出てきた。
マルゲリータさんという人だ。
「こずえって良いわよね。可愛い顔でナイトハルト様に媚び売れて」
「そんな!」
復興作業も怪我人も少なくなってきた頃。
城の廊下で私はマルゲリータさんにイビられていた。
しかし、悪いことを言った者には、それ相応のしっぺ返しが有るもので。
「マルゲリータ」
私の後ろから聞き馴染みの有る声が聞こえた。
「な、ナイトハルト様......!」
マルゲリータさんの顔が青ざめる。
私が振り返るとナイトハルトが渋い表情で立っていた。
「そなたのハッキリした性格は好印象だが今の発言は無いであろう。こずえに謝るべきだ」
「うっ.......」
マルゲリータさんは震える手で口元を押さえると、きびすを返して走り去った。
「済まない、こずえ。余計な口出しだったか?」
ナイトハルトがばつの悪そうな顔で私の隣に来た。
私はそんな彼に言う。
「ナイトハルトは良かれと思って言ってくれたんでしょう?マルゲリータさんも解ってくれると思うわ」
「こずえ......」
ナイトハルトは、私の言葉にしばし何やら思案に耽った。
「どうしたの?」
「......こずえ。今から言うことは真剣な私の本心だ。だから、こずえも真剣に聞いて応えて欲しい」
ナイトハルトのブルーアイはきょとんとした私の姿を映している。
ナイトハルトは常に真剣だと私は思ったが、口を挟める様な雰囲気ではなかった。
「う、うん。解ったわ」
ナイトハルトの真剣さに気圧され、私は頷いた。
ナイトハルトは一拍間をあけてから、思いきった様子で口を開いた。
「こずえ。......私はそなたを妃として迎えたい。母上に頼んでそなたの身長と好きな色に合ったドレスを新調させよう。ダメだろうか?」
いきなりのプロポーズに私は一瞬固まった。
真面目な話であることは想像出来たが、まさかこの歳で結婚について考えることになるとは。
嬉しい反面、ピンとこない。
でも私は直ぐにナイトハルトと向き合った。
「ナイトハルト、貴方がそう言ってくれたのは凄く嬉しい......。でも私、城の宝物室に残ってる鍵の本の管理者になりたいの。エルザが居ない今、誰かに本が悪用されない様に。それに私なんかに妃が務まるか自信が無いし........」
ナイトハルトが王位を継いだら私は必然的にこの国の王妃になる。
国を支えるナイトハルトを支えられるか私は自信がなかった。
「では、こういうのはどうであろう。そなたが私の妃になった暁には宝物室の管理を全面的に任せると言うのは」
思いも掛けない提案に私は驚きを隠せない。
「ナイトハルト......」
私は直ぐに即答が出来なかった。
いや、出来る様な内容ではなかった。
ナイトハルトが勇気を出して、自分に真剣な想いを伝えてくれたのだ。
私もジックリ考える時間が欲しかった。
「ごめんなさい......一晩、待って」
ナイトハルトの事が好きな気持ちは変わらない。
しかし、結婚と国を支える立場になることを考えると好きという気持ちだけではやっていけない様な気がする。
「明日の朝までには応えを出すから。ナイトハルトは考えに考えを重ねて私に想いを告げてくれたんでしょう?だから、私にも時間を頂戴」
私の応えにナイトハルトは真顔のまま、視線を下に落としたが、再び私の目を見詰めて頷いた。
「解った。明朝、城の高台の上で待ってる。大丈夫だ、こずえ。運命の相手となら、どんな困難でも乗り越えられる。私が国とこずえを共に守ってみせよう」
ナイトハルトはキッパリと断言した。
「有り難う、ナイトハルト」
私はそれだけ言うと、あてがわれた自室に帰っていった。
そして、翌朝。
一睡も出来なかった私はナイトハルトの待つ城の高台に向かった。
ナイトハルトは既に高台にいた。
下を見下ろすと、大勢の人達がガヤガヤと集まっている。
「......こずえ。そなたの結論を聞かせて欲しい」
ナイトハルトがなかなか言葉を言えない私を促した。
私は目に隈を作った顔で一晩考えた結果をナイトハルトに促されるまま言葉にすることにした。
「.......ナイトハルト。私、今やっぱりこの国の王妃になるとは言えない」
私の返事にナイトハルトは小さく頷きながら、下を向いて項垂れた。
下では国の人達が私達の様子を、ある者は真剣に。またある者は好奇心旺盛に見上げている。
どうやら、こちらの言葉までは聞こえていない様だ。
「でも私、貴方の傍に居たい。帝王学も頑張って学びます。身長は160㎝。好きな色は貴方の瞳と同じ色よ」
続く私の言葉に、ナイトハルトは一瞬、何を意味するのか解らない様だった。
私からの逆告白。
そう。
未来のことは誰にも解らない。
でも今、私がナイトハルトのことを好きなのは充分過ぎるほど、解ってること。
だから私は未来の自分に賭けたのだ。
ナイトハルトの隣に居るに相応しい大人の女性に成長してることに。
「愛している......こずえ」
意味をいち早く悟ったナイトハルトは、私に近付くと自分の両手を私の両肩に置いた。
(えっ?!まさか皆の前でキス?!)
思わず後ずさる私にナイトハルトは苦笑した。
「初めてではないのだから。そんなに照れることもあるまい」
そして肩に置いた両手を強くつかんで私の顔に自分の顔を近付ける。
(そ、そういう問題?!)
私は気恥ずかしくなったが、目を閉じて胸を張った。
ナイトハルトの唇が私の唇に重なると下から大歓声があがった。
歓声の中、私達は長いキスをした。
私は嬉しさと恥ずかしさで顔が一気に火照るのが解った。
(もう!でも......大好き......ナイトハルト)
こうして私とナイトハルトは強い絆で結ばれた。
そして、二人三脚でお互いの不得手を補い合い助け合った。
後に、歴史上では100年間、安泰の時代が過ぎたと書かれている。
Fin
ご覧いただき、有り難う御座います。
如何でしたでしょうか?
きっと突っ込みどころ満載である意味レアな藤野ワールドが拡がってたと思います。
酷評が沢山来ても私は逃げも隠れも致しません。
あなたが例え暇潰しであっても、自分の時間を割いてご覧になり、感想を送って下さることに感謝します。
なので、一言「つまらない」でも構いませんので、反応を文章で表現して下さると嬉しいです。
万人受けする作品はないというのが私の持論です。
なので、覚悟はもう出来ております。
そして、また、いずれお会いしましょう。