興味ないし
ということで、今日の合コンのことを洗いざらい吐かされた。先生は意外にも聞き上手であり、その相づちと的確な質問で余すところなく話すはめになった。高校時代の元カレの話まで。
一通り、話し終わると先生が口を開く。
「で、お前、右手だいじょうぶなの?」
「はい。昔、空手やってましたから」
美結の可愛さが両親にとって心配の種だったらしく、姉妹揃って護身術として習わされた。いつのまにか、美結の方は空手を辞めて日本舞踊を始めていたけれども。私の拳はその頃の名残で固い。そのため壁を殴っても少々痛いが、そこまでのダメージはない。
「っていうか、そこですか?」
「なにが?」
「モデルの美結って言ったら結構有名なのでは…」
私は、いつものパターンから、話が美結のことになると思っていた。そのため、予想外の質問に少し、動揺していた。先生は、一口ビールをあおると、言った。
「興味ないし、それに…」
「それに?」
「それ言ったら、お前、心閉ざしちゃうだろ」
この人は、ずるい。こんなときにそんな優しい顔をされるとどうしたらいいのか分からない。
私は無理矢理いつも通りの仮面を作り上げる。
「慣れてますから大丈夫ですよ」
大丈夫。いつも通り、うまく笑えたはずだ。
先生は息をつくと、私の頭に手を伸ばした。コンビニの前でしたように、ぐしゃぐしゃと荒っぽく私を撫でる。
「お前ね、そんな泣きそうな顔で笑いながら大丈夫って言われて信じるわけないだろうが」
気がつけば、先生の腕の中にいた。夏だというのに、涼しいこの部屋で先生の体温は暑かった。
「よく頑張ったな」
そう言って、あやすように背中を叩かれると涙が溢れてきた。
なぜ、私は今、ここにいるのだろう。
なぜ、私は今、この人といるのだろう。
なぜ、私は今、泣いているのだろう。
そんなことはどうでもよかった。ただ嗚咽を漏らして泣きじゃくる私を先生はいつまでも抱きしめ続けてくれた。